表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第九章 親になるということは
82/120

船を取り戻す苦労は


 船取り戻しの往路は、陸路も海路も順調だった。前もってジンガから、ランサロード城、北の国、サリクトラに「宜しくお取計らいを」という書状を出しておいたからかもしれない。

 

 ランサロードの南港で十五人は落ち合い一夜を明かすと、早朝海路で、北の国との共同国際港に向かった。

 待ち受けていた大型船、メルカット型船、もう一艘の中型船は、港のさざ波を受けて輝いて見えた。ハイディか誰かが気を廻して、港湾担当者に手入れを怠らぬよう指示していたのだろう。

 

 レーニアの十五人は四隻に分かれそれぞれの持ち場についた。

 ハンスはランサロードの陸路の案内が主な役目だったので、船の上では用なしかと思ったが、フルクの操る大型船の下っ端水夫としてこきつかわれた。帆の出し入れのロープ引きがメインの仕事だ。


 四隻のレーニア船団は北の国との国境線から、ランサロードの西部海岸線を左に見ながら南下して行った。

 できる限りレーニアに近いところに船は隠したい。

 ハンスもフルクも森に残ったジンガも想いは同じだ。サリクトラ岬を越え、フランキ海峡に入ったら、サリウの部下たちの船が近場の入り江に誘導してくれることだろう。

 今日は余り遅くならない内に、いずれかのサリクトラの港に停泊させてもらうのがいいだろうと船団長のフルクは思っていた。


 ランサロードの領海を離れ、サリクトラ側に入った途端、はるか遠くの岬の向こうからいくつもの船影が現れた。

「何だ、あれ?」

「うそだろ?」

 四隻の甲板にいた者はそれぞれ、目を凝らした。


「拿捕だ!」

「領海侵犯だと?!」

 ハンスは耳を疑った。

「サリクトラは同意している。何かの間違いだ」


「旗印がそうなってんだよ!」

 フルクがイラついて叫んだ。

「あのマストの旗に意味があるのか?」

「おまえ、海には海のルールがあるんだよ。たまには人の云う事を聞け!」

 フルクの緊張度に戸惑い、ハンスは口をつぐんだ。


 その間にサリクトラの小船が十隻も接近しレーニアの四隻を取り囲んだ。じわりじわりと海岸へと間を詰められる。

 サリクトラ岬の付け根のところに城塞が見え、その下が港になっている。

「あそこの桟橋に停泊しろということらしいな」

 大型船は帆を完全に閉じ、ギリーの中型船がタグボート代りとなった。フルクひとりを大型船の舵に残し、ハンスやピーターは中型船に飛び移ってオールを漕いだ。

 サリクトラ船のひとつが着岸した船着き場に、レーニア船も相次いで舫い綱をかける。


 上陸すると今度は兵に囲まれた。何の説明もない。

 フルクがハンスに耳打ちした。

「テーム連れて逃げられないか?」

「土地鑑がない。ここはおとなしく捕まったほうが安全だ」

「安全だと?」

 フルクは不満らしかったが、剣も持っていない。レーニアの男たちは仕方なく、揃って城塞の中に連行された。


 殺風景な石造りの広間に通されて十五人は顔を見合わせた。

「オレたち、サリクトラに裏切られたのか? 拿捕信号なんてもう忘れていた」

「前の王様のときに、どっちの海も使っていいってことになったと聞いてる。領海侵犯旗見たのも初めてだ」

 ハンスは皆を安心させるために説明しようとした。

「聖燭台諸国間では、領海は漁業、通行とも自由なはずだ。その上ジンガから書状を送っている。あり得ない」


「何か上から目線だよな」

 フルクがぼそりと云った。

 ハンスが云い返す間もなくサリクトラ兵が、

「リーダーひとりにお目通りを許す。王が隣室でお待ちだ」

 と、呼ばわった。

 ハンスが一歩そちらに足を踏み出すと、後ろからフルクが差し止めた。

「この船団のリーダーは大型船船長のオレだ」


 ハンスは微笑んで見せた。

「ああ、確かにそうなんだが、王が会いたがってるのはオレだ」

 その瞬間フルクはハンスの胸ぐらを掴んでいた。

「おまえ、何様なんだよ? 姫様が選んだ男だからと我慢してきたが、思い上がってねぇか? 聞いたことなかったが、素性くらい明かせよ!」


「今そんなこと、問題じゃないだろう?」ハンスはできる限りのんびり云った。

「サリクトラがオレたちを拿捕したなら、それだけの理由があるはずなんだよ。それを聞いてくるから」

「だから何でおまえなんだ?」

「もちろん、フルクが行ってもいいが、オレが行ったほうが話が早い……」

 その瞬間ハンスはフルクに殴られて、石の床に転がっていた。


「なかなかいいパンチだ。私も一度そいつを殴りたいと思っていた」

 皆が一斉に、聞き慣れない声の主のほうを振り向いた。

 サラサラの金髪が群青色の海軍服に眩しく照り映える、サリクトラの若き王様だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ