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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第九章 親になるということは
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酔いの醒めた元皇太子は

 

 ふたりで夜具にくるまるとすぐにほかほかと身体が温まった。

「明後日出発することが決まった。オレ入れて十二人。パーチとギリーは明日メルカットのフルクんとこに向かう。ランサロードのあの港で待ち合わせる」

「そう。陸路も大変そうね」

「いや、一応元オレの国だし、国内を南東から南西に横切る感じで、うまく道案内するさ」

 ハンスは上掛けの下できゅっとピオニアの胴を引き寄せた。

「戻ってくる頃には初雪かもしれないがな」

「寒いところなのよね。あなたといるとついつい忘れるわ。どこにいても、温かい」

「独りだと寒さが身に沁みるぞ?」

「うん……」

 ピオニアは夫の胸に顔を埋めた。

「オレもだけどな。北の国はもう一面真っ白の雪だろう」


「船のあるところはもっと北なの?」

「まあな、ランサロードの北部国境出たすぐの港。国境を挟んだふたつの港を繋ぎ合せて大きくし、両国が自由に使えるようにしたんだよ、国境を確定した時」

「えっとハンスになる直前の、北との交渉で?」

「そうそう。何で一センチでもいいから国境を南にしたがってるのか、オルディカに率直に訊いたんだ。何でだったと思う?」

「国土が欲しいからじゃないの?」


「そんな漠然としたことじゃなかったのさ。港が欲しかったんだ。冬でも凍らない港。冬、流氷の上でのアザラシ猟をするらしいんだが、凍ってしまえば船が出せない。張りつめた氷の上をソリで移動するには限界があるが、南から船を出して北上すれば、遠くの流氷の際までいける」

「そうだったの。共同の港を提供したから国境はそのままにできたのね?」

「実はそうなんだ。他の港も停泊は自由にしてもらってる」

「相手の話を聞くって大事なのね」

「そうだな、外交も夫婦あいだもな」

 人間性の滲みでる外交をしていたから、北の王も夫を信頼してくれたのだろう。


 その夫は酔っぱらって自分がどんな態度をとったか、焚火の周りで皆に怒られて帰って来たのかもしれない。

「出てくるまでに取り返せるかな、レーニア」

「え? 赤ちゃんが? そんなこと考えてるの?」

「ああ。この子はレーニアで産まれて欲しい。王家を名乗るつもりはないが、お母さんもおじいちゃんもひいおじいちゃんもすごいひとだったことは感じとって欲しい」

「お父さんもね」

「オレはやくざもんだ。好きな女ひとり幸せにできない」

「あなたの好きなひとって誰? さっき姫様なんか嫌いだって叫んでたけど」

「オレの好きな女はもう姫様じゃないんだろ? そのくせことあるごとに姫様ぶってオレに反抗する」

「姫様でなくても絶対服従なんてしないわ」


「じゃ、パラスのところには行かないのか?」

「行かないっていったらまた怒って出ていっちゃうの?」

「いや、もういい。おまえのしたいようにすればいい。オレは何もしてやれないから。この森の中におまえが足を引っ掛けそうな太い根っこが何本あるか考えただけでぞっとしたが、パラシーボ城には根っこより恐い階段がいくらでもある。心配なのはどこでも同じだ」

「今はまだ身体も軽いし、普通の生活できるわ。もっとお腹大きくなってつらくなってきたら、お城に連れてって?」

「わかった」

「無事に帰ってきてね」

「もちろんだ」



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