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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第九章 親になるということは
80/120

仲直りするためには

 

 もう眠っているだろう中年夫婦の小屋を控えめにノックした。

「アンナ、ハンスにとっても嫌われちゃったみたいなの。泊めてくれないかしら?」

「あらあら、おふたりでもけんかすることがあるんですねぇ。何があったんです?」

 頬笑みに誘われて、ピオニアは食後からの話をアンナの前で繰り返した。

「何が気にさわったんだと思う?」

「姫様が『はい、わかりました』って云わなかったからですよ」

「私はエリオ医師やアンナのそばで子供を産みたいのに。その方が安心な気がしてるのに、それでもはい、パラスのところへ行きますって云わなきゃいけなかったのかしら?」


「そうして欲しいんですよ、ハンスさんは。たいした事情があるわけじゃないと思いますよ」

アンナの夫のゴーヤが口を挟んだ。

「男ってのはただただ、『はいそうします』って云って欲しいときがあるんだよ、姫様」

「それでもチュールやジョーシーがここに残るのに、私だけお城にはいけないわ。行けば何くれとなくめんどうみてもらえるの、わかってるもの」

「じゃあ姫様、お城にいくべきですよ」


「うちのひとのいうとおりだと思いますよ。子供を産むってことは男性には全く想像もつかないことなんです。姫様のお腹の中で今何が起こっているのかハンスさんにはわからない。女はいいですよ、毎日毎日身をもって子供を感じられる。自分の中に大切なものが入っていてそれが誇らしくさえある。何が危険で何が安全か自分の身のことだから、わかりますよね。男のひとにはわからないから、考えられる一番安全なところに置いておきたいんです。姫様と赤ちゃんが大切だからこそ、自分のできる限りのことをしたいと思うんですよ」

「それにハンスは船を取りにでかけなきゃならない。自分の目の届く範囲に置けないなら、一番安全なところに預けておきたいと思うだろうよ」

 

「ピーターも船を取りに行くけどジョーシーは森に残るわよ?」

「ピーターは最近キツネ狩りに夢中だ。ジョーシーに少しでも温かく過ごさせるためだよ。戻り次第フルクんとこに身を寄せるって」

「ベーグは毎朝早起きして木苺を摘んでいます。チュールに内緒でジャムを作ってるって。二人目の子供でもそうなんですよ。妊娠も出産も男には想像がつきません。だからこそ自分ができる全てのことをしてあげたいと思う。ハンスさんにとってそれが姫様をお城に行かせることなんです。チュールやジョーシーに遠慮することはありません。ふたりとも夫に大事にされてます。表現のしかたが違うだけですよ」

「姫様が城に行かなきゃ、ハンスも安心して活躍できないんだろうよ」

「わかりました。私、うちに帰ります。ゴーヤ、送ってもらえますか?」

「もちろんですとも」


 ハンスはまだ戻っていなかった。小屋はピオニアが出ていった時と何もかわっていない。食卓のイスに腰掛けて夫を思った。

「心配かけないように努力する。努力するから早く帰ってきて。お城に行っても早く迎えに来てね」

 テーブルにうつぶせて少しうとうとしたらしい。

 静かに玄関の扉があくと、ハンスがそっと入ってきた。

「バカ野郎、どうしてベッドに入ってないんだ。身体冷えるだろう。しっかりしてくれよ」

「ハンス、ごめんなさい。あの、お帰りなさい」


 ピオニアはおたおたして立ちあがると食卓の足につまずいた。

 とっさにハンスが後ろから抱きかかえようとして支えきれず、自分がクッションになるように身体を廻して倒れこんだ。

「痛ぇ。二人分は重い」


 ハンスは床の上でそのままピオニアを抱きしめた。

「酔ってないの?」

「醒ましてきた。さ、起きあがってベッドに入ってくれ、お姫さま」


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