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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第八章 島に帰るためには
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次の戦の予感があれば

暴行の叙述があります。お断りしておきます。

 

 若きサリウ王の表情がより厳しくなった。

「フランキはレーニアの敗戦を知った。レーニアよりメルカットのほうが攻めやすいと前々から考えているヤツらだから、冬前に軍を動かすかどうか、微妙なところだ。

 もしそうなるとうちが一手に引き受けるしかない。かなり大変な戦争になる。

 残念ながら、外海にも出られないメルカットと軍事行動を共にすることはできない。海兵として船に乗ってもらうなら、何度も来てくれてるジャレッドの兵のほうがよっぽど助かる。

 レーニア島が無防備なままより小さいが統制のとれた、実は毒針を仕込んでいるようなレーニア軍がいてくれたほうがいいんだが、レーニア回復を唱えてルーサーと事を構えるつもりはない。

 対フランキに私の指揮下で働いてくれるなら、サリクトラ内にサリクトラ人としての定住権を与える」

 

「メルカットになるのが嫌で戦った皆がサリクトラになるとは云わないだろうな。でもまあ、選択肢としてはあるわけだ。ただこっちの問題は、戦おうにもうちの大きな船三隻が手元にないことだ。北の国に停泊させたままなんで、あっちの港が凍るまでに取り戻さないと」

「できる限り早くしてくれ。船を隠せる入り江ならいくらでも提供できる」

「そうか、それはいい」


「レーニア回復の援助をしていると見られるわけには、どうしてもいかないのですね」

「ええ、その通りです」

 覆面殿の恰好から出てきたピオニア姫の声を聞いてサリウが急に丁寧語になった。

「もうひとつ教えて下さい。ここにはレーニアでは得られないフランキの情報がいつもあります。どのように集めているのですか?」

「国の機密です。確かな情報ではありますが」

 サリウの暗い顔がさらに曇ったとピオニアは見て取った。

 

 城を離れサリクトラの町を見て廻っていると、ハンスが云った。

「サリウにはまだ語れない、心の傷があるんだよ。オレも全部聞いたわけじゃない。欠片かけらを集めたらそういうことかと思うくらいで」

「聞いちゃいけないことを訊いちゃったのね、私」

「大丈夫だよ。サリウにはお姉さんがいて」

「あ、そう、そのはずだわ、サリウより三つ年上」

「ああ。緑なす黒髪の綺麗な人だった。オレも子供の頃憧れたりもした。おまえをもう少し線の細い、お姫様らしくした感じだ」


 ハンスは次の言葉を探すように云い澱んだ。

「ある時のフランキ戦で、上陸されたんで船で子供たちを安全なところへ逃がそうとしたらしいんだ。その船に追いつかれて横付けされて、王女は敵船に引き摺られた。彼女は泣き叫んでサリウに助けを求めたが、王子を殺されてはと、側近がみんなしてサリウを取り押さえてボートに退避させようとした。それを振りほどきながらアイツは見てしまったんだよ、敵船の甲板でお姉さんが襲われるのを。それも複数の男に。十六の頃だ」

「ひどい……」


「仲のいい姉弟だったから、サリウは何度か自殺を図った。成功しない内に数年過ぎて、ある日フランキから手紙が届いた。

 『フランキ王室に仕えるある貴族に見初められて結婚した。過去のことは何も訊かない優しいひとだ』と。

 それでまたサリウの心は崩れてしまった。女とは何か、女の真実とは何か疑問に思ったんだな。自分が息もできないくらい悩み悔んだことを、女はすっと忘れた振りして幸せを求めることができる。辛い経験をした女はそうやってしか生きていけないことが頭ではわかりながらも認めたくない。それがアイツの心の傷だ。

 フランキ情勢はお姉さんが伝えてくれているんだろうと思う。それがスパイ行為にあたるのかどうかは、オレには判断できない」


「ほんとに私、悪いこと訊いちゃったんだわ」

「気にするな。アイツもいい加減乗り越えるべきだ。一生独身でいるつもりか知らんが、王位継承者も決められないでいる」

「私がルーサーに嫁いで幸せそうに子供産んだらあなたも同じように苦しんだ?」

「そうだな、サリウほどには思い詰めなかっただろうけれど、森で隠者のように暮らしただろな」


 ふたりの馬車は、今度は海沿いの道を行く。サリクトラ国境線で滞在許可証を返却して、メルカットへと入った。


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