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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第八章 島に帰るためには
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情報通の王様に会って


 馬車は西に向かった。メルカット領は避け、ジャレッドの国を抜けてサリクトラに入る。他国と比べてサリウのところは入国が難しい。国境をぐるりと取り囲む高い柵まである。


 設けられた入国審査所で役人に、サリクトラ国民からの招待状か、行商人の鑑札を見せろと云われた。

 ハンスは「サリクトラ特産の塩の買い付けに来たが鑑札は忘れてきた」と嘘をついた。すると、所持金と持ち物を(あらた)められ、三日間の滞在許可が下りただけだった。

 

「サリウの人間不信も根が深いな」

「でもここならアストールがいくら頑張っても、あんな暴動は起こせないわ」

「そうだな。何度も思ったよ、敵がサリウでなくてよかったって。沈着冷静で情け容赦ない。怒らせたらレーニアなんてひとひねり。オレがどんなに頑張っても太刀打ちできない」

「レーニアとサリクトラは国の環境が似ているから、同質の者がぶつかったら規模の大きいほうが勝つわね」

「そうだな。まあ、アイツは恋愛沙汰で戦争するなんてことは決してないがな」


「サリウに会って、何を云うつもりなの?」

「ありがとうって」

「それだけじゃないでしょ?」

 夫はそれには答えずに、いたずらっぽく笑った。

「そうだ、覆面殿になってくれ。オレは木こり」


 城門の警備兵は客を身なりで判断し、入城を拒んだが、「ラドロー」という名前だけは取り次いでもらえた。

 半時間待たされた後、王の居室に通された。


「無事で何よりだった。覆面殿が一緒とは知らなかった。レーニアが壊れてしまったのに、こんな所に来ていてよいのかな?」

 何か云おうとしたピオニアを制してハンスが話した。

「おまえに責任を取ってもらおうと思って」

「責任?」


「おまえはメルカットでの最後の聖燭台会議でルーサーを煽った。流れ者の木こりとよろしくやっているとピオニア姫を侮辱したな?」

「ああ、ルーサーがどこまで煮詰まってるか見ただけだ。その木こりはおまえだったわけだが、ラドローとよろしくやっていると云ったところで、ルーサーは同じく怒ってたぜ?」

「その通りだ。だが覆面殿がその木こりの正体かもとも云った」

「そんなこと云ったか? 云ったかもしれんが」

「ルーサーは覆面殿に斬りつけんばかりだった」

「自分を抑えようと必死だったのは憶えてる」


「そこで覆面殿、自己紹介してくれ」 

 顔を振り向けて笑う夫にピオニアは当惑した。何だがわからないが、サリウの前でマスクを取って欲しいらしい。黒い布をさらりと解くと、サリウは声を上げた。

「ピオニア姫!」

 面会したことはなかったから、肖像画を見たのだろう。レーニア城にある絵以外だとしたら、ルーサーが一枚持っているだけのはずだが。


「もしルーサーが姫さんに切りつけていたら、オレもルーサーもおまえと同じ、拭えない悲しみを背負ってた」

「おまえは最初から気付いてたのか?」

「まあ、そんなもんだ」

「そうか、わかったよ。それでこうなったのか。地下牢ではわからなかったが今わかった。聖燭台に恋愛など持ち込むからこんな不幸が起こるんだ。女なんかが入ってくるから」

「ほんとにおまえは女には厳しいな」

「余計なお世話だ。それで私を笑いものにしにきただけではあるまい? レーニア、メルカット、フランキ情勢か?」

「そうだ。それとサリクトラはレーニア難民を助けてくれるかどうか」


「まずはレーニア。最初の二年は税の徴収をしないという謳い文句で移住者を募ったが、島に渡ったメルカット人の半分はもう本土へ帰った。島内を二十に区切っていて、森を選んだ大工も浜を選んだ漁師も、畑を選んだ農家も誰ひとり食っていけない。レーニアがどうやって生きてたのか皆首を傾げている」

 ハンスとピオニアは顔を見合わせて、肩をすくめた。


「牧畜家が頑張っているが、まずは『ハンスのハリエニシダ』ってやつを抜かなきゃ、羊も放せない。うちでもハリエニシダは大きくならないうちに抜くように指導している。花は綺麗だが棘はある、毒はある、始末に悪い。植えたヤツの顔がみたい」

 サリウが口の片側だけを上げてニヤリとした。

「冬前には州知事ひとりが城に震えていることになるだろう」


「ルーサーはどうしている?」

「メルカットの城に閉じ籠っているらしい。何を考えているかまではわからない。アストリーがあの勢いで独立に持ち込むかと思ったが、静かだな。全く、おまえを助けるためだけの暴動だったわけだ。だがルーサーはそれを知らない。王として、暴動可能と見せつけられるのは気持ちのいいものではない」

 ピオニアはルーサーが心配になる。自分のこと以外では賢帝と誉れの高い、頼りになる男だったはずだ。


「ルーサーは国内全体に税の優遇措置を行っている。この秋の収穫分は前金で徴収済みだとして、手持ちでやりくりするつもりだ。町は安定してきてるし、市場も以前の活気を取り戻した。この点はさすがルーサーだな」

「ピオニアを探してはいないのか?」

「特に手を打ったとは聞いてない。乗り込んでみたら城はもぬけのから、捕まえた首謀者は刑場から逃亡、どこから探したものか、呆然としてるんじゃないか? 相手がラドローならランサロードを探すだろうが、ただの木こりだと思ってればどこの森から手をつける?」

「一般民衆ってのはほんと、便利だよな」

 サリウは「困ったヤツだ」と片眉を上げた。


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