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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第八章 島に帰るためには
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出会いの少ない王族の恋


 ハンスは親友の王の顔を見つめた。

「危険だなあ。オレとしては惚れないでくれと云うしかない。アドバイスはできないよ。おまえの心が決めてくれ」

「いや、わかってるんだ。相談にのって欲しいのはそのこと自体じゃなくて。この間、ハイディの聖燭台会議後のパーティで、北の王といろいろ話したんだ。共通の話題といえば、おまえのことだから、いろいろ肴にさせてもらった。それでおまえが北の王女の顔を知りもしないで縁談を断ったと聞いたんだ」

「オルディカ怒ってたか?」

「いや、残念だったと笑っていた」

「オレはピオニアのことで頭がいっぱいだったからな」


 「心優しい大男」と評判のパラスは、少し頬を染めているように見えた。

「その姫を行儀見習いにうちに寄越したいというんだよ」

「そりゃ、そのままお輿入れってことにもなりかねん」

「そうだと思う。でもオレはこんなふうに、他の女のことでもやもやしてるし、おまえが断ったって聞くし、どうしたもんかわからなくて、おまえに相談することにした」


「いい縁談だよ。王女は可愛らしくて素直なひとだ」

「会ってもないくせに」

「会ったよ。宴席で酌をしてくれた。話もした。ただ縁談が出ると思ったから気付かない振りして召使扱いしたんだ。彼女傷ついたかもしれないな」

「……」


「いい娘だよ。ピオニアのことがあって云ってるんじゃない。迎え入れて一緒に暮らしてみるといい。王太后さまも気に入ると思うよ」

「そうかな」

「ピオニアみたいな男女相手にするのも疲れるぜ。静かに隣で微笑んでくれる女も可愛いだろうよ」

「もし愛せなかったら」

「そしたら縁がなかったでいいじゃないか。オレは一週間もたたないうちにおまえがめろめろになるほうに賭けるがな」


「簡単に云ってくれるじゃないか。断るなら会う前のほうが相手にもいいだろう?」

「おまえがこの城を離れて恋人を捜し回れる立場ならいいが、無理だろう? 来てもらうしかないじゃないか。じゃ、『行儀見習い』ではなく『北の長い冬の気晴らしとして』軽い気持ちで来てもらえ。それならうまくいかなくても、『パラシーボに飽きて国に帰りました』で済むだろう。誰も傷つかん」

「あ、そうか、物は云いようだな」

「この世の大半はそういうもんで、(まつりごと)は八割方がそうだよ」

 王族に生まれて王になった男と、そこから逃げ出した男は顔を見合わせて笑った。


「オレもひとつ白状しておく。ピオニアのお腹にオレの子供がいる」

 パラスはぱあっと顔を明るくした。

「おめでたか! ラドローに子ができる! おめでとう」

 手放しに喜んでもらってハンスのほうがテレた。

「実はまだ実感がない。何の心構えもできてない。どこの国でどんなふうに育てるかさえ決められない。それでも嬉しいよ」

「そうか、よし、ティールームに戻ろう。発表したいことがたくさんある」


 王の間からティールームに階段を降りながら、パラスの心は決まっていった。

 覆面殿は親友だと思う。ピオニア姫は親友の奥さんだ。大好きだが自分のものにしたいという気持ちはない。

「いいんだ、これで。ラドローも覆面殿もピオニア姫も、いなくなったわけじゃない、ちゃんといてくれる。レーニア国が無くなって心淋しい気がしていたが、ふたりはしっかり生きている。子供まで生まれるという。ふたりの子供ならきっと天使のように可愛い」

 そんな思いでティールームの扉を開けた。


 招待客が帰り、ほとんど身内の者だけになったお茶の席で、パラスは「ラドローとピオニア姫が親になろうとしている」と告げた。

 ハンスは「北の国の王女が近々この城に滞在予定だ」と云った。

 ピオニアは「ではそれに合わせてキツネ狩りを催して、ハイディ殿をパラシーボに招待するといいわ」と呟いた。


「なんだ、なんだ、なんでハイディが出てくる?」

 妻の言葉にハンスが首を傾げた。

「元はと云えば、あなたのせいよ。フラ王女がランサロードを訪問したのにお城にいなかったって。そのときハイディがとっても優しくしてくれたんですって。ふたりは週に二度も文を取り交わす仲よ」

「弟の分際で人の留守中に色気づきやがって。いや、元をただせばおまえのせいだろう? おまえが聖燭台会議でうろうろしているから、他の女性に会うわけいかなかったんだ。顔も素性も隠しやがって」

 悪態をつくハンスに一同は苦笑した。


「あの頃なの?」

「あの頃だよ。ま、今やハイディも立派な大人だ。王女を幸せにできるだろう。オレに嫁ぐよりフラ王女はよっぽど見る目がある」

「賛成だわ」

 ピオニアが云うと、皆笑い転げた。

 恥ずかしそうにしていたフラ王女も、赤面したまま微笑んでいた。

 王太后はパズルがうまくはまっていくような幸福感を噛みしめた。


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