お墓参りには
いつもより短いです。
「気分はどうだ? まだ歩けるか? もうひとつ、この城の中で行くところがある。ついでにオレの一番女々しいところ見せてやるよ」
中庭を横切って、星型の城の普段使われていない翼にラドローは入っていった。二階の奥の部屋。開けるとふわりと優しいカーテンが波打った。
「オレの母さんの部屋だ」
決して華美ではないが女らしいしなやかな布づかいの淡い翠の色調。ラドローはベッドの上の枕にキスした。
「よくここで泣いた。アストールとの三年を悔やんだこともある。オレが森で遊んでいる間、母様は心配でたまらなかったろう。その頃から病気は始まっていたらしい。オレが城に戻って三年、十一才の時に死んでしまった。線の細いたおやかなひとだった」
ピオニアはラドローの心の痛みに触れるようで動けなかった。部屋の入り口に立ちすくんでしまった。
「親父も親に心配かけ過ぎだと云ってたろう。母様悲しませたオレのこと、心のどこかで責めてるんだろうな」
「そんなんじゃないわ、ラドロー。親は子供を責めたりしない。ただただ純粋に心配なだけよ。大人になってもあなたのことが。あなたも親になったらわかるわよ」
「いつのことだか」
「そんなに先のことじゃないわ、たぶん」
ふたりは裏庭にまわって墓の前で手をあわせた。
青紫の桔梗が咲いていた。
ランサロード城下を離れたら、馬車の上でハンスが訊いた。
「ピオニア、さっきからちょっと気になってるんだが」
「なあに?」
「おまえの病気ってまさか……」
「すこうしお腹が出てきたのわかる? 胸も大きくなってるわよ」
「妊娠してるの? もしかして」
「ここにいるの、あなたの赤ちゃん」
ラドローは急に馬車を止めた。
「ほんとか? ここにオレの子供がいるの?」
「ほんとよ。アンナはとっくに気づいたわよ」
「オレ、父親になるのか?」
「そうよ」
「旅つらくないのか? 大丈夫か?」
「大丈夫よ。こないだまでつわりだったのわからなかった?」
「元気ないなと思った。それから冷たいなって」
「夜を拒んだから?」
「そう、拒まれたの初めてだったから傷ついたんだぜ。何でだろうって」
「でも気づかなかったのね」
「ああ。ピオニア、愛してる」
「うん」
「じゃ、パラシーボへゆっくり行こう」
「大丈夫っていってるのに。甘やかしちゃだめなのよ」
「うん、うん」