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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第八章 島に帰るためには
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「お舅さん」に謁見する場合


 元皇太子は現皇太子に頭を下げた。

「皇太子殿、その節はここにおります妻の無理な願いを聞き入れてメルカットまでご足労いただき、誠にありがとうございました」

「こちらこそ、メルカットであなたに会えたこと心より嬉しく思っています。ピオニア様には感謝の念でいっぱいです」

「わらにもすがる思いでしたので」

 ピオニアが答えた。

 

「本当にご無事で何よりです。さて、私の父が是非会いたいと申しております。ルーサー王にひと泡吹かせたあなたに。ピオニア様も。どうか、こちらへ」

 ランサロード王は隣の、国王の間の肱掛椅子にゆったりと腰を下していた。仕事をしているふうではない。少しうつむき加減で、ピオニアはお加減が悪いのではと気になった。

「父上、木こり殿とピオニア様です」

「ありがとう、おまえはさがっていてくれ」


 ハイディが出ていくとランサロード王はゆっくりとハンスのほうに顔を向けた。うつろだった瞳が一瞬くっと鋭く光り、次の瞬間優しくなった。しかし再びきつい光に変わると低い声で云った。

 

「浅はかだとは思わぬか?」

 ピオニアはびくっとした。

「ランサロードはのうのうと暮らしレーニアは壊れた。申し訳ないと思わぬか?」

「父上!」


「信念があるなら説得し、行動で示せばよかったのではないか? 自分が情勢にたけていると思いこみ、踊らされて人々に迷惑かけたのではないのか?」

「返す言葉もありません」

「この方に花嫁として来ていただくわけにはいかなかったのか?」

「私が国を離れたくないと申したのです」

 ピオニアが代わって答えた。

 

 ランサロード王はピオニアの顔をじっとみたが何も云わず息子に目を向けた。

「可能でした」

 ラドローは俯き加減に答えた。

「ルーサーの相手はおまえであって、レーニアではなかったはずだ。おまえイコール、ランサロードだった。違うか? ランサロードなら戦いになっても国が滅ぶことはなかった。姫の不在にレーニアが攻め込まれるなら軍を派遣することもできた。レーニアの民がランサロードを嫌うなら、その時はじめて大統領制でもひけばいい。ランサロードの後ろ盾がついたレーニアを諸国が脅威だと思うなら、その時こそ対話で理解を求めるべきではなかったのか? それがおまえの外交ではなかったか? 自分がこの城から逃げ出したいばかりに招いた敗戦ではないか。病気と処刑で二度も自分の命を粗末にし、人々の命もないがしろにした結果ではないのか?」


「おっしゃるとおりです」

「なぜ相談もせずに突っ走るのだ。わしを耄碌じじいだと思っているのか?」

「父上……」

「こっちにきなさい、ラドロー。おまえは親に心配かけ過ぎだ。さあ」

 ラドローが肱掛椅子に近づくと王は立ち上がって息子を抱擁した。ピオニアは涙ぐんだ。

「ピオニア姫もこちらへ。こんな息子を愛してくれてありがとう。ひどい苦労を背負わせてしまった。亡くなられた父王に申し訳ない思いでいっぱいです」

「お義父様……」


 王は右手にラドロー、左手にピオニアを抱きしめた。

「ラドロー、必ずレーニアをレーニアの民の手に返せ。ルーサーはピオニア姫が欲しかったのだろう? 対フランキの捨石にしようとも必死で戦うレーニア人のいないレーニアなど、時間稼ぎにもなりはしない。いいか、ラドロー、必ずだぞ」

「約束します、父上」


「ランサロードはハイディに譲る。それでいいんだな?」

「はい、それが希望です」

「民の暮らしがいいのか?」

「はい、王が国を治めることに疑問を持っていますので」

「そのようだな。ならばレーニアを立派な民の国にしてみせろ。そうすればおまえの一連の行動にも申し訳がたつ」

「ありがとう、父上。王妃様にお健やかにとお伝えください」

「うむ。ピオニア姫、こいつの行動に疑問を持ったらいつでもここに来なさい。あなたの父親がわりだと思ってもらえればこんなに嬉しいことはない」

「お義父様、ありがとうございます」

 ピオニアはランサロード王の頬にキスを贈った。

 

 ラドローはピオニアの肩に手をまわして父王の前を退出した。中庭に出ると声をあげて笑いだした。

「親父にはかなわないな」

「すごい方。あんなに愛情深く思慮深い人初めて。あなたを浅はかと云える人なんて」

「まいったな。オレの心に燻ってた疑問を全部言葉にしやがった。やっぱりレーニアを壊したのはオレだ」

「レーニアを守ってるのもあなたよ。最小限の流血でね。ランサロードが乗り出したらもっともっと人が死んで怪我してた。それも関係ないランサロードの民や徴用されたメルカット兵たちが。あなただって間違ってないわ」

「メルカットとランサロード、大軍同士の均衡で戦争は避けられたかもしれない」

「かもしれない、でも大戦争になってたかもしれない。ぎりぎりの選択問題よ。そして選んだ限りは最後までやり遂げればいい」

「レーニアを立派な民の国にか。頑張らなきゃな」

 親に叱られた夫の顔は晴れやかだった。


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