表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第一章 小さな島の王女にできること
7/120

進水式では

 十日後レーニア初の大型船が完成した。他の準備で国を離れられなかったピオニア姫も覆面の騎士姿でランサロードに赴いた。そして白ワインを船体に浴びせかけ簡単な進水式をとりおこなった。

 

 ラドローは乗船してみて船の広さと安定感に驚いた。

「これがレーニアの造船技術か。サリウも驚くだろう」

「サリクトラには、もっと大きな船がたくさんある。造り方がまったく違う」

 ピオニアは逢えない間の思いのたけを秘めて、恋人に覆面の騎士として接するのは少々手こずった。いつもよりぶっきらぼうだ。


 ラドローのほうは普段通りの彼に見えた。

「これをピオニア姫に進水祝いとして渡してくれ」

 森で十本のブルーベルを摘んで花束にしたらしい。あの日足元で咲いていた紺色の釣鐘状の花だ。顔を背けて波濤を眺めているのかと思ったら、顔色を隠していたようだ。

 同じ色にならないように、ジーニアンは甲板を見たまま短く答えた。

「承知した」


 ラドローが下船すると、船はみるみるうちに帆に風をはらみ出航した。まずは八の字に船を進め舵の按配を確認すると、一路南に向かう。

 サリクトラ岬沖でフランキ軍に見咎められるのが一番怖い。サリウからは「フランキ軍船はみかけない」と報告が入っているが、この船を遠くから目ざとく見つけて動き出すこともある。

 フランキに向いたサリクトラ、レーニア、メルカット海岸線に緊張が走る。

 

「なぜ陸路で帰らぬ?」

 海では護衛もできないラドローが先刻苛立たしげに訊いた。

「士気が落ちるからだ」

「おまえが処女航海で死んでは困るだろうに」

「自国の船が信じられなくてどうする?」

 ピオニアは舳先に立って潮風を浴びながら、自分の態度を思い苦笑した。

「可愛くない女だこと」


 ラドローは、船着き場の先で同じ会話を思い出していた。

「これがオレの姫か」と思う。

 ――あの夜腕の中で震えていたくせに、今日は大胆きわまりない。それが国を背負う、国是というものなのか?

 ラドローは船影が消えるまで眺めるともなく海をみていた。

 

 二日後レーニアからラドローのもとに早馬が届いた。「ご厚情いたみいります」との形式的な文にブルーベルの押し花とピオニアのサイン。

 ラドローは花とサイン部分を内側に折りたたんで懐にいれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ