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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第八章 島に帰るためには
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海の民が森に住むためには

「フルクはどうした?」

 メルカットから戻ってきたラーメにジンガが訊いた。

「メルカットに残るって。海の男は森には住めないっていうんだ」

「魚獲る気なのか?」

「レーニアの対岸で漁師やるって」

「せっかちなやつだな」ハンスが横でつぶやいた。

「レーニアに戻ることを考えてやがる」

「今戻ったら危険だ」


「それはフルクにもわかってるさ。それで、帰ってきた難民ですって顔してメルカットの浜に住みつく気だ。レーニアがどうなるか見張るつもりさ」

「何でそうだと云いきれるんだ?」

「フルクは正真正銘のオレの恋敵だからだ。アイツはレーニアを姫さんに返したいんだ。ついでに木こりの嫁もやめて王女に戻って欲しいと思ってる。自分の妻にしたいというよりも姫さんの治める国にひとりの漁師として住みたいのさ」


「おまえと姫様が森でいちゃつくのが堪え難いだけじゃないのか?」

「それもあるだろうが、自分のできることをやらない男じゃないんだ。油壺で証明済みだ。オレは面がわれてメルカットにもレーニアにも容易に近づけない。自分はまだ自由に動きがとれる。姫さんにしてあげたいと思うことをしないわけがない」

「おまえたちふたりとも恋に生きるように生まれついたんだな」

「そういうことだ。しかしほんとに助かる。フルクが落ち着いたら漁師組はヤツを頼ってメルカットの浜に住んだらいい。皆がレーニアに戻る大きな足がかりになる」


 ジンガは思案顔だ。

「後の者はこれからどうしていけばいいんだ?」

「春まで暮らせるだけの基盤をこの森につくろう。今テント暮らしの者のためにもう二十軒ばかり丸太小屋を建てる。木を切った後は開墾して畑にする。ハイディが用意してくれた畑とあわせれば今からでもどうにか食っていける。森での狩と川での釣りもしようじゃないか。最初のうちは城での共同生活みたいに皆で手分けしたほうがいい。落ち着けばそれぞれが自分の好きな仕事ができるようになるだろう」


 皆にいきわたるよう小屋を建て、切り倒した森を焼き、切り株を起こして畑に変えた。それだけで三週間かかった。

 住むところと菜園用の畑の区分けが決まると、ハンスは森での生活のカルチャーセンターを始めた。希望者を募ってイノシシ狩、キツネ狩、シギ射ち、ます釣り、木苺摘み、毒キノコの見分け方、キヅタをつかっての籠編みなどなど。

 皆それぞれが次第に新しい生活に慣れ、得意分野を見つけていった。

 

 ピオニアはほっとしたのか急に床についた。朝が起きにくいようだ。ハンスが「大丈夫か」と訊いても、「大丈夫」と答えるだけで食も細く顔も青ざめている。

 疲れが出たのかこの森が合わないのか、身体に毒でも入ったのだろうか。

 エリオ医師は何度も診断にきたが「少しでも食べるように。疲れないこと」と云うだけだ。

 夜も別々に眠るようになってハンスは落ち込んでいたが、それを振り払うように外出し、皆の森での生活に気を配りサポートした。

 

「あなたって本当に王子様だったの?」

 ある日ピオニアはベッドの上に起きあがって、多彩な生活能力を見せる夫に笑いかけた。

「森の住人だって云わなかったか?」

「聞いたけど」

「おまえだって王女様だったのか? 何でも自分でできるくせに」

「召使が少なかったもの」

「ご両親が甘やかさなかったんだな」


 ハンスはベッドから離れた食卓で何か書き物をしていたが、ノートを閉じた。

「さて、皆の生活も目途がついた。冬になる前にオレはあちこち挨拶まわりに行きたいんだが」

「パラシーボ? アストリー?」

「ますはランサロード城」

「うそ?」

「オレを助けてくれってハイディに泣きついといてまだお礼をいってないだろう?」

「ええ、まだだけど……」

 国にはバレるわけにはいかないと云ってなかっただろうか、ピオニアは首を傾げた。ハイディにはもう知られているとしても、王位継承の派閥争いみたいなのがあるから内緒だと。


「次がパラシーボ王大后様。それからサリウをからかいにいって、アストールとフルクの様子を見てだ。一緒に来ないか? 新婚旅行だ」

「危なくない? 特にメルカットは。ルーサーが何を考えてるのか全くわからないわ」

「だから探りにいくんだよ。時にはジーニアンになったり、ラドローになったり、ミズバショウになったり、木こりになったりしながらね」

「それは楽しそうね。でも私、足手まといだわ。馬車でしかおともできない」

「股ズレに懲りたのか?」

「そうね」

 ピオニアは意味深に笑った。


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