表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第七章 捕虜になってしまったら
67/120

合流すれば


「ルーサーもバカではない、アストリーに踏み込んでくる」とのアストールの助言に従って、ハンス、アストールと仲間ふたりは、当座の身の回り品を持ってそのまま旅に出た。

「大丈夫か、腹減ってるだろう?」

「いや、たまにパンももらってたから一時間くらいは走れると思う」

 とりあえず一行は馬で北に向かった。

 

 ひとしきり馬を走らせて、国境のブランウィックの森の中に今日は泊ることにした。ここはメルカットの北西部、パラシーボ領に隣接する森で、木の実が豊富だ。手下たちがノウサギを捕まえる間に、ハンスは木苺を頬張った。

 

「ありがとう、死なずに済んだよ」

 ハンスは改めて礼を云った。

「捕まるなんて下手うつからだ」

「しかしすごい数の人間を集めたな。死傷者はでてないだろうな?」

「怪我人がひとり、兵の矢にあたった。連れ出してすぐ手当てしたはずだ。姫さんはきのうまでアストリーにいた。いろいろ手伝ってもらった。今はランサロードのどこかの森で国の者と一緒だ」

「ピオニアはどうしてアストリーに?」

「おまえを助けてくれって頼みにきた」

「いつだい?」

「わしがおまえと会って次の次の日だな」

「ランサロードから馬でか?」

「パラス領からだった」

「そうか」


「いつのまにサリクトラを仲間につけた?」

「一昨日だ。サリウにバレた」

「そうか。それでこれからどうする?」

「追われてないことが確認できたら皆と合流するよ。勝手のわからないランサロードで困っているだろう。全てはそれからだ」


「姫さんは冬の間にレーニアは無人島になると云っていたがそう思うか?」

「ああ。荒れ放題だからな。冬までに人が住めるようにはならない。メルカット人が住めるようにはな」

「今回の民衆の声にルーサー王は、少しはショックを受けただろうか? 自国の内政立て直しに目を向けてくれるといいが」

「そりゃそうだろう、あれだけの人数を集めて『王様反対』を唱えたんだぜ? その隙に皆でレーニアに戻るよ。何もなかったような顔してね」

「そう簡単にはいかないだろうがな」


 翌日、アストールと分かれ、一日中馬を駆けさせた。風の噂を頼りにランサロードの南の森に入ると、思ったより容易に見慣れない集落が見つかった。広場に火を起こし、ジンガたちがそれを囲んでいる。

「ハンスお帰り。早い方だな。フルクたちはまだだ」

「こっちは馬だったからな。皆無事なんだろうな?」

「もちろんだ。怪我人も出てないよ。アストールの作戦は凄いな」

 劇的な再会でもなかった。男同士の抱擁もない。ハンスは買い物からでも帰ってきたように仲間の輪に合流した。

「助からないはずがない」と信じて行動すると、えてしてうまくいくものだ。

 その点ピオニアは、夫の身を案じ過ぎだったかもしれない。


「オレのことより、船旅はどうだった? 北の国からここまでは?」

「どうなるかと心配したが、思ったよりスムーズだった。北の国ではもう雪が降っていて、でもすぐ南に行くようにといわれ、たくさん歩いたが日増しに温かくなるような気がしたよ。ランサロード国境で役人に捕まって、咎められるのかと思えば、逆に馬車に乗せてくれ、ここまでたどりついた。」


「たくさん歩いたけど大丈夫だったよ!」

 近くに座っていた子供たちが会話に混ざった。

「一昨日、王子様に会ったんだ。『どうですか? 不便はありませんか?』って聞いてくれて、カッコよかった」

「そうかそうか。それで、姫さんは?」

 アンナが答えた。

「どこに行ったんだろうねぇ。そろそろ夕食だっていうのに」

「じゃ、その辺探してみるよ」


 ハンスは針葉樹の間を歩き始めた。ほどなく木々の間をうろつく妻の姿を見つけた。

「姫さん」

「ハンス、無事だったのね、よかった!」

 ピオニアは早速夫の首根っこに飛び付いた。

「何してたんだい?」

「あのね、ブルーベル見つけたらあなたが帰ってくるかなーって思って」

「はは、あれは春の花だよ」

「そうだった?」


 暮れ方の森の中でもハンスの笑顔は眩しかった。

「でも帰ってきただろ?」

「全てうまく行った?」

「壮大なスケールでうまくいったよ。ひとり敵の矢で怪我人が出たのが残念だが。大人数が寄り集まると、あんなことができるんだな、武器も持たずに。オレは牢番が手首の紐の解き方教えてくれて、アストールは首つり縄を火矢で射抜いた」

「さすがね」

「今回はアストールもパラスもハイディもサリウもいいヤツだなあと思った」

「サリウも?」


「ああ、暴動を危惧してルーサーに忠告に来たんだ。一目でオレだと見破りやがった」

「ルーサーは知ってるの?」

「いや、アイツは要らないことは云わないよ。オレが死ねば自分が一番の剣の名手だとは云っていたが、まあ、それは本当のことだ」


「あのね、パラスのお母さまにお礼に行かなきゃ。ふたりで戻っていらっしゃいって」

「王太后はお元気だった?」

「とっても」

「そりゃあいい。オレも何年お会いしてないかな。パラスにも心配かけたから会ってくるといいんだが。これからのこと、明日相談しよう。それで、オレたちの小屋はどれだい?」

「ひとりだったからテントにいたの。小屋は家族で使って欲しくて」

「そっか、また建ててやるよ。テントはこれか?」

 ピオニアは頷いた。


「狭いなあ。ふたり入れるかなあ。よいしょっと。さ、ピオニア、見せてごらん」

「え、何を?」

「股ズレ」

「イヤ、イヤよ」

「ランサロード城からパラスの城経由アストリーの森を二日間。おまえ海戦で負けてから馬は島に放し飼いにしてたろ? オレがレーニアに戻ってから馬乗ってるの見たことないぞ? となると、肌は相当弱ってたはずだ。診断は避けられない」

「エッチ」

「エッチじゃない。心配してるんだ」

「えっちよ」


 ふたりが存分にいちゃいちゃしたのは、いうまでもない……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ