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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第七章 捕虜になってしまったら
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絞首刑当日には


 処刑当日、早朝から刑場周辺にはゴザをひいて場所とりをするものがつめかけた。城から囚人を連れてくる道も護衛兵が並ぶだろう場所もおかまいなしだ。

 実は囚人を助け出すのに重要なポイントをキープしているのだが、はためには処刑がよく見える場所につめかけているとしか思えない。メルカットの兵に詰問されても

「そりゃ久々の見物だで」

 としか答えなかった。

 

 九時、十時という時間になると、ゴザもしいていられないほど人混みが膨れ上がった。メルカット兵が「ここはあけろ」と人払いしても、数分後にはまた人で埋まってしまう。

 刑場周りばかりではない。囚人を引き出す城の裏門や王が立つだろう正面バルコニー下まで人が重なり合っている。

 

 シュプレヒコールの第一声はハンスが城を連れ出され、刑場への道を引き立てられているときだった。

「木こりを殺すな!」

 バルコニーに出ていたルーサーは耳を疑った。死刑見物の民衆はいつもとり憑かれたように「殺せ、殺してしまえ!」と叫ぶのが常なのに、今日に限って「殺すな」というのだ。「木こりは森に、農民は畑に!」

 ルーサーは

「先導者をひったてろ!」

 と叫んだが、群集のどこからともなく涌き出る言葉は、誰が始まりなのかわからない。

 

「生活を返せ!」

「重税反対!」

「木こりの結婚を認めろ」

 群集は刑場の竹矢来の周りをゆっくりと歩き始めた。

 護衛兵たちは群集を掻き分け叫んだ者を捕まえようとするが、兵が近づくと皆口を閉じてしまう。

 

 警護兵の列で辛うじて守られている道を抜けてハンスは刑場に引き入れられた。するとどこからともなく、

「振られ男腹いせやめろ! 振られ男腹いせやめろ!」

 と何度も繰り返し唱和する声の波が起こった。

 ルーサーはバルコニーの上で地団駄踏んだ。

「全員に矢を浴びせかけろ!」


 バルコニーの上には四人の兵しかいない。誰を目標に打ってよいかもわからず、威力は無いに等しい、一本は道に、一本は群集の頭の上に水平に落ちた。一本はあろうことか味方の兵の腕に当たった。一本だけ、流民のひとりの肩に突き立った。

「民に射かけるのか? 武力反対、戦争反対!」

 民衆の声はより大きくなった。その声に怖気づいてバルコニーから二の矢はなかった。

 

「いい加減にしろ!」

「王政反対」

「王様引っ込め!」


 竹矢来の中でハンスは絞首台に立たされた。一本柱の先に荒縄の輪が垂れ下がっている。その下に酒樽がひとつ。縄が首に廻れば樽は蹴飛ばされ、自分の体重で首は締まるというだんどりらしい。

 台の上に四人、台の下に四人のメルカット兵が槍を携えている。


 右手彼方のとちの木の葉蔭にちらちら光るものがある。

 ――鏡の合図かそれとも火矢か?

 ハンスは咄嗟にしゃがんだ。台上の兵四人もうずくまっていた。とちの木から一斉に矢が飛んできたのだ。

 絞首台下にいた四人がハンスの首に縄をかけてしまおうと台に駆け上がった。

 

 ハンスはしゃがんだついでに、後ろ手のひもの端をぐっと踏みしめた。立ちあがったときには、云われた通り両の手は自由になっていた。目の前の兵の腹にパンチを喰らわせ、台から飛び降りると地面に落ちていた槍を拾い上げ振り返った。

 

 絞首台の荒縄が燃えている。支柱に突き刺さった矢にアストールの矢羽がついていた。

「まだまだ衰えないな」

 ハンスはにっと笑って台上の兵たちに対峙した。

 竹矢来の周りに散らばっていたメルカット兵が剣をかざして四方から突進してくる。だが次の瞬間には群集が竹矢来を蹴りたおしてなだれ込み、ハンスを取り囲んでいた。

 

「アストリーの独立を!」

 とちの木の上からの声を合図に大合唱が起こった。

「レーニアはレーニアの手に」

「アストリーの独立を!」

 人波に阻まれて、ハンスに近づける兵はひとりもいない。

 群集はハンスの目の前にとちの木までの道を開けた。ハンスはアストールたちと合流すると、馬番をしている仲間のところへと駆け去った。

 

 残された群衆は思い思いの檄を飛ばしながらぐるぐる行進を続けていたが、城から剣を持った陸軍が隊列を組んで現れると、蜘蛛の子を散らすように広場を離れ、町の路地に身を隠した。

 そしてそのまま森や自分の国に向けて三々五々解散していったのだ。

 誰を追っていいかわからない兵たちは困惑した。いったい誰が広場で叫んでいたかなど、一般人に戻ってしまえばわかったものじゃない。



やはり、『残酷』ではないですね。キーワードはずしましょうか、、、

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