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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第七章 捕虜になってしまったら
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死刑前夜には


 民衆たちは少しずつ増えていった。アストリーの森に野宿もしていたが、メルカット城下町にたむろする者、一度は投げ出した畑にキャンプする者、いろいろだ。明日の処刑時刻を目標に、もっと広場に集結するだろう。

 

 アストールは絞首台からはちょうど逆光になる、大きなとちの木の上から矢を打つつもりだ。ハンスを吊るすロープを火矢で燃やし、ルーサー王の度肝を抜く。射程ギリギリの強弓を使うらしい。

 ピオニアのもとにはレーニアの男たちが五十名ほど到着した。ジンガはランサロードの森での新しい暮らしに目途をつけるべく、男たち全員には参戦を許さなかった。

 アストールにコンタクトしてきたパラスの私兵、ランサロードの兵に合わせ、予想に反してサリクトラの私兵と軍力に不足はない。

 

 作戦としてはとてもシンプル。

  皆と一緒に騒ぎ立てる

  配置されている護衛兵に弓が引けないほど接近して取り囲む

  武器を奪う

  ハンスが近づいたらすぐ人垣で囲む

 それだけのことだ。

 

 アストールはレーニアの老兵パーチとオフィルに姫をランサロードに連れ帰るよう命令した。

「人数は十分過ぎるくらいだ。姫は弱点になりうる。遠ざけてくれ」

「しかしハンスのことはわしらの国のことで」

「姫もおまえらの国のことだ。ハンスはわしの弟分、任せろ」

 ピオニアは遠目にもハンスの姿を見たかったが、聞きわけてランサロードへ発った。


 その頃メルカット城の地下牢ではハンスが、牢番のふたりに「いろいろありがとう」と云っていた。

「恥ずかしいとこたくさん見せてしまったな。自分でも自分の匂いに閉口したからそっちもうんざりしただろう?」


 すっかり仲良くなってしまった牢番たちは、心配そうに訊き返した。

「明日殺されるんだぜ、恐くないのか?」

「たぶん殺されないと思うよ」

「大抵、前の夜は泣き喚くんだぜ」

「そういうもんか? ところで明日ここを出るときオレの手縛るのは誰だい?」

「皆触るの嫌がるだろうからオレたちじゃないかな」

「もしできたら少し緩めにしてくれないか?」

「できねぇよ、お咎めうけちまう」

「いや、とがめだてしてる暇ないと思うんだ、王様は。暴動が起こるから」


「本当なのかその話?」

「ああ。オレが姫さんと結婚したからって殺すこたぁないだろう? それでオレの仲間たちが怒って騒ぎ立てるんだ。ひどかっだろ、最近の王様。税を取り立てるばっかりで戦争し続けて」

「ああ、それでピオニア姫に逃げられちまって情けないよな」

「もし緩めてくれるんだったら、王様に捕まる前にアストールのとこにいきな。そしたら大丈夫だ」


「じゃあ、オレが解き方教えてやるよ、オレはきっちり結ぶけどな」

「いいのか?」

「どんな結び方するかまでは命令されてない。ひもの端ひっぱれば解けるようにしよう。ほら後ろ手に縛られるだろ、しやがみこんで端を踏んづけるのさ。少し長めに残しといてやるから。あの世にいっちまう前にしゃがむことができたら、手は自由だよ。だが兵隊に槍で刺されちまうだろうがな」

「よくわかった。これで助かったも同然だ。本当にありがとう」

「礼は助かってから云いな」


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