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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第七章 捕虜になってしまったら
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森の親分の場合

 

 ちょうど同じ頃メルカット城ではアストールがルーサーを訪れていた。

「アストールか、数々の参戦命令を無視した詫びに来たのか? 我が軍の中にそなたの名を騙る(やから)がいたらしいが、結局そなたは知らぬ存ぜぬを決めこんだな」

「これほど国内を乱れさせる必要のある戦いとは思えませんでしたのでな」

「今となってはレーニアも手に入り、首謀者も捕まえた。あとはピオニア姫を見つけ出すだけよ」

 

 アストールは低い声で答えた。

「姫は現れないでしょう」

「夫を見殺しになどしない」

「王様がそう思う限り来ないでしょう」

「何だと? まあよい、それならさっさとあやつを切り殺してゆっくり姫を探すまでだ」


「木こりを殺したら王の名にすたります。嫉妬のあまりうち殺したと云われるだけです」

「クーデターの首謀者を殺すのだ」

「レーニアはクーデターなど起こしておりません。王様が隣国の姫君の結婚を祝福しなかっただけです」

「違う」

「木こりを殺したら夫を殺して妻を奪ったと云われます」

「構わぬ、所詮木こりだ」

 ルーサーは玉座から立ち上がり、謁見の間を行ったり来たりした。


「木こりを私に下さい。二度と王様に弓ひかぬよううちの森で監視します」

「ピオニアが現れ、別れると云うならくれてやる」

「現れなくともお下げおきください」

「できぬ。なぜそんなに執着する?」

 王はぎょろりとした目をアストールに向ける。


「王様のためにならぬからです。それでなくとも国内には王様への反感が満ちています」

「だから公開処刑するのだ。こいつのためにメルカットは苦労したと」

「国民全体は騙すことができません。王様の失恋のために苦労したと思う者も多いのです。私もそのひとりです」

「失礼な。アストールでも云っていいことと悪いことがある。」


 ルーサーの逆鱗に触れたことが見て取れた。アストールも切り札を出す。

「もし処刑をやめないなら私は王様に向かって宣戦布告する用意があります」

「戦うだと?」

「これ以上王様に従うつもりはありません」

「そんなおどしが通用すると思うな。たかが森ひとつ仕切っているというだけで」

「私が三十分以内にこの城からでないときには自動的にアストリーは臨戦体制に入ります。今私たちが反乱を起こせば国内の疲弊がいかほどのものか、賢明な王様ならおわかりのはず。ではこれで失礼させていただきます。云いたいことはいわせていただきましたので。帰る前にその木こりに会わせてもらいます」

「勝手にしろ。私は忙しいんだ。パラスが待っている。明日にはハイディまでやってくる。みな同じ話だろうよ」


 アストールはひっそりとした地下牢に下りていった。牢番は冷たい石の階段の途中に座りこんでいる。

 ハンスは折檻のためにだろう、牢の外側に立たされ鉄格子に両手両足繋がれたまま、がっくりと首をうなだれている。

「アストールだ。囚人と話がしたい」

「病気がうつりますよ」

「病痕はひろがっているのか?」

「いえ、来た時のままですが水をやらないとひろがるそうで」

「ああ、できたら食べ物もやったほうがいい」

「そんなことはできません」


 アストールは真っ直ぐハンスの前に立って小声で話しかけた。

「生きてるか?」

「ああ」

「パラスが来てる。明日ハイディも来るそうだ。だが上陸のニュースはない」

「わかった」

「処刑場のどさくさで助け出す」

「無理するな」

 アストールはハンスのあごをぐっとあげて目を合わせた。ハンスがにっと笑う。目は死んでない。アストールはほっとして手を離した。

「ここにはもうこれないが頑張れ」

「ああ」


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