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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第六章 メルカット戦争 籠城 新指揮官
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新指揮官の力量は


 デルスは早朝から活動的だった。

「敵が城の中に居られないようにすればいいんだ。

 ① 敵は水をどこから得ているか、スィープ隊調査せよ

 ② 敵は何を食べているか、リーセル隊調査せよ

 ③ 濠は埋められるか、エディ隊、まずは濠の深さを計れ

 ④ 濠は渡れるか、マイン隊、橋が作れないか周囲の林を調べろ

 二時間後に各隊の報告を聞く」

 そう指示を出しておいて、自分は矢の射程圏外をぐるぐると歩き廻った。


 屋上ではレーニア弓矢隊が首を傾げていた。

 毎日朝八時より、朝の挨拶のように始まっていた弓矢攻撃が来ない。応戦に備えていた者たちはすぐに執務室に異変を告げた。

 ジンガとハンスは顔を見合わせた。

「おまえの云うように、敵も本気になったようだな」

「ああ、ルーサーでも現れたかな。お手並み拝見してくるよ」

 ハンスはジンガに笑いかけると城の屋上に上がった。


 レーニアの矢を避けながら、わさわさとメルカット兵たちが濠を調べている。グループに分かれ行動しているようだ。城の搦手側(からめてがわ)の林に分け入っている小隊まである。

「まずいな、余りあちこち探られたくない」

 ハンスは執務室への階段を急いで降りた。


「真面目に調べものを始めたようだ。指揮官は職業軍人だ。騎士といえば聞こえもいいが、故郷で喰いつめて、金の為にどこにでも雇われて戦う客分騎士だろう」

 ジンガは

「そいつの力量は?」

 と尋ねた。

「かなりだと思う。オレがそいつならすることをしているようだからな。しかし、メルカット兵たちのほうがまだ命令を理解できてない様子だ。それでも明日にはオレたちの生活に影響が出そうだ」

「どんな?」

「最低最悪の予想はいろいろできるが、まずは水道局長フォントの分野だ。水を止められるかもしれない。城内にできる限り水を貯め込みたい」


 ジンガの息子に呼ばれてフォントが現れた。

「云われるまでもなく、水張ってない容れ物はほとんどない状態だよ。中庭の池でさえもね。籠城からこっち出撃が少ないんで男手が余ってたから」

 と笑った。ハンスは真顔で訊いた。

「レナ川の堰を止められたら、井戸は何日もつ?」

「今、お濠がいっぱいだろ、だから井戸は濠の赤石と同じ高さまで来てるんだ。三日はもつよ。井戸の水を飲料水、食事と洗濯の仕上げにしか使わなければ、五日だね」

「厳しいな」


「濠の水を沸かして飲むこともできるよ」

「沸かす? 船でやるみたいにか?」

 とジンガ。

「船では沸かして飲むのか?」

 ハンスは驚いていた。

「航海が長くなると、水は一回火を入れてから飲むのが普通だ」

「少々どんな水でも、砂や枝の間を通して濁りをとり、その上澄みを沸かしてしまえば、お腹を壊すことはないよ」

「そうなのか、オレは水の綺麗な森にしか住んだことがないからなあ、知らなかった」

「ハンスでも知らないことがあるんだね」

 フォントが笑って、三人の気が楽になった。


「これから水不足になりそうなんだね? じゃ、飲料水と生活用水、畑に撒く水三種類に分けるよ。大広間の隅に大樽三本、食堂に一本、台所に二本、洗濯部屋に二本、風呂場に二本、合わせて十個の樽、手に入るかな? あれば子供たちに手伝わせて色分けしてしまうけど?」

「地下のワインを飲んでしまえば樽はいくらでもあるが、もったいないから姫さんに訊いてみるよ」

 ハンスが云って皆笑った。

「じゃ、僕は庭で濁り取りの仕掛けを作ってるから、また声かけて」

 三つ四つ年下のフォントは優男(やさおとこ)のくせに、本当に頼りになるとハンスは心の中で感謝した。


 メルカット側では、午前十時過ぎて、各小隊長がデルスの元に集まった。 

 スィープは「水は夜な夜な濠から汲んでるんじゃないかと思う」と云った。

「見たのか?」

「見てはいませんが、日中汲んでるところも見かけません。メルカット城のように、小川が庭に引き込んであるわけでもない。ぐるりと濠に囲まれているんだから、濠からでしょう」

「じゃあ、濠の水はどこから来るんだ?」

「わかりませんよ。雨を溜めてるんじゃないですか?」

「雨が降ったのは何日前だ?」

「もう五日は降っていません」

「それにしては水が綺麗すぎる。濠の水がどこから来るのかもう一度調べよ」


「リーセル、ヤツらは何を食べているんだ?」

「パンを焼く匂いがしました。それから何か得体の知れない、死体を焼くような匂い」

「羊を焼く匂いじゃないのか?」

「いやもっと、死体を焼くような忌まわしい感じの……」

「バカなことを云うんじゃない」エディが横から口を挟んだ。

「ありゃ、魚を焼く匂いだ」

「魚? ヤツらは漁に出ているわけではあるまい?」

 デルスの国では魚は獲った日に食べるものだ。

「干し魚ですよ。日干しした魚をもう一回炙って食べるんで」

「何だ、おまえは食べものに詳しいな」

「こう見えてもオレは町の料理屋だ。戦争になって客が来ないから兵隊になっただけで」

「よし、食料関係はエディがやれ。ヤツらが欲しがっている食料は何か探れ。ついでに城横の麦畑、実る前に刈り払っておけ」


「濠の深さはどうだ?」

「足が届きません。一番泳ぎの達者なのに潜らせたんですが、射かけられてそれどころじゃなくて」

「おまえもバカだな。潜る必要などない。縄に石をくくりつけて垂らしてみればいいじゃないか。引きあげて濡れたところを計るんだ」

「そうか、隊長、頭いい」


「マイン、橋は作れそうか?」

「だめです。真っ直ぐなのは細っこい木ばかりで、人が乗れば折れちまいます。太いのは短くて曲がってて、向こう岸に届かねえ」

「何で一本の木で済まそうとするんだ? 細い木でも何本も縛り合わせればいいだろう?人一人が走り渡ることができればいいんだ。五、六本もあればどうにかなろう?」

「仰る通りで。しかし隊には木こりも大工もおりません」

 スィープが口を出した。

「わしにそっちをさしちゃくれませんか? わしは一応大工あがりで、隊には木こりもおるし」

 マインは、「さっき林の中に小川を見つけた。濠の水と関係あるかもしれないから上流、下流をたどってみたいんだが」

 と云った。


 デルスが纏める。

「マインは小川の調査だな? スィープが橋、エディが食料、リーセルが濠の水。よし、早めに昼食にしてその後しっかり働け」

 野営テントに帰っていく小隊長たちの背中を見て、苛立ちも感じたが、手ごたえもあった。

「いける」

 デルスは自分に云い聞かせた。


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