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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第五章 メルカット戦争 籠城 新聖燭台会議
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新聖燭台会議がもたらしたものは

 ハンスが城に戻った翌日、ジンガは帰ってきた。城内一同ほっとした。

 新聖燭台会議でのやりとりをハンスはつぶさに聞いて笑い転げた。

「何がそんなに可笑しいの?」

 ピオニアが不思議がった。

「ハイディの健気さ、サリウのご都合主義。ジャレッドの血の気の多さ、オルディカの筋の通り方。みんなオレの知っている通りだからさ。一週間でレーニアは落ちると叫ばざるを得なかった副官殿が憐れだな。オレとしては、これ以上籠城が続くのも皆に申し訳ない、招待されれば出かけよう」


「ルーサーに顔を見せるの?」

「いや、オレがラドローだから、王族だから安心して兵を引け、という話じゃあるまい。サリウが云う通りおまえの結婚に口出しするルーサーのほうがおかしいんだから。おまえ、お父さんの遺言か何かあったのか? ルーサーに嫁げって」

「ないわよ。死の床でルーサーに『宜しく頼む』と云ったかもしれないけど、それは隣国同士仲良くしてくれってことだわ。父は好きな女と結婚して幸せだったって口癖だったもの」

「それならいいんだ。ルーサーがそう思い込んだだけなんだな」

「思い込んだって、ずうっとお断りしてたのに……」

 ハンスは肩をすくめた。その意味はピオニアにはよくわからなかった。


「そっちはどうなの? 今でもあなたがラドローだと名乗るとハイディは困るの?」

「そうだな、もう少しかな。ハイディというより、ハイディの母親が問題なんだ。オレが皇太子のうちに父上に何かあったら、自分がオレと結婚してハイディを皇太子にすると迫ってきた女だからな」

「うそ……」

「父にもハイディにも云えることじゃなし、まいったよ。女ってのは子供のためには何でもできるらしい」

「かもな」

 ジンガは言葉少なに相槌を打った。


「ハンス、今でもランサロードとメルカットは戦争になるかしら?」

「大丈夫だと思う。ランサロード相手にするほど兵力残ってないだろう。もともとうちのほうが国土も人口も倍ほど大きい。それにジンガのお蔭で、ランサロードの後ろには北の国がついてくれる」

「よかった。ジンガ、本当にお疲れさまでした。ゆっくり休んで下さい」

「姫様やハンスがどんな世界に生きてきたか少しわかりました。やっぱり船造ってるほうが楽しい」

「そうだろうな、オレも今のほうが楽しい」

「私もね」

 笑いながらも三人は、これから先メルカットは本気で攻めてくると思い至っていた。


 副官はメルカット城に着くや否や、ルーサーの罵声を浴びた。

「なんだ、船大工などと長々話し合いをしおって」

 から始まって、詳細を聞くにつれ、怒りの計測器の針が振り切った。

「一週間後だと? あのレーニア城が落とせるというのか? 弓が届かないんだぞ?」

 ルーサーは湯気をたてんばかりに真っ赤になり大きな目をらんらんと光らせた。

「おまえ、全軍の指揮を執ってみろ、あのぐうたら兵たちの。それができぬなら森へ行け。アストールを今度こそ参戦させるのだ。アイツくらいの強弓が引ける男が必要だ。アストールが首を縦に振るまで日参しろ」

 副官は重たい足を引き摺るようにして王の前を退出した。


「パラシーボまで引っ張り出されて、ピオニアの前で皆にバカにされるなど、もってのほかだ」

 ルーサーは王の()右左(みぎひだり)にうろうろ歩き廻った。

 が、しばらくしてはたと立ち止まると、次の間に控えていた従者に命じた。

「あの者を連れてまいれ」

「恐れながら、あの者とは?」 

「あやつじゃ、先般、軍の参謀長官として働きたいと大枚ふっかけてきた無礼なヤツ。今武器の手入れをさせている。海の向こうの東の国で軍を率いていたというデルスとかいう……」

「金髪の背の高い男ですね」

「そうだ、先祖はバイキングだと云っていた。アイツを指揮官に取り立てる。一週間でレーニアを落とす。給金は云い値でいい」

「それは余りに……」

「構わん、さっさと連れてこい。打ち合わせをする」


 デルスは武器庫から満面の笑みで王の間に上がってきた。

「やっと働かせていただけるのですね。私の仕事ぶり、しかとご覧うじろ。武器の修理はあらかた済みましたゆえ」

「よし、すぐにレーニアへ向かえ。要る物は何でも云って来い」


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