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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第五章 メルカット戦争 籠城 新聖燭台会議
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国の代表とは


 翌日、ランサロード城では各国の代表が広間に案内されていた。丸いテーブルの上に枝分かれした燭台、メルカットのよりも繊細な装飾が施されたものが置いてある。ろうそくに火は入っていない。

 朝方準備するにあたりハイディは、

「同盟国の集まりではまだない。会議でさえ決裂するかもしれない。ろうそくに火を灯せるかどうかは、自分の手腕だ」

 と武者ぶるいした。


 ハイディは緊張を隠せずに、広間の扉を開けた。客人たちは皆、窓際や部屋の隅に立ったまま散らばっている。誰も席についていない。

 いや、ひとり例外がいた。北の国のオルディカは黒い縮れ髪、黒ひげをたくわえていて、でんと座り込んでいた。

 

「皆さま、席にお着き下さい」

 ハイディの促しにジャレッドが異議を唱える。

「王族でないものと同席したくない」

 ジンガは派手な色の騎士服を着た若者を見返した。

「それは私に退席しろという意味ですかな?」

 ジンガが口を開くより先にオルディカがどすのきいた声でジャレッドを見据えた。

 

 「まずは皆さん、椅子に座ってからそのことも論じ合いましょう、その為の丸テーブルですから」

 ハイディが重ねて言うと、ジャレッドとサリウが席に着いた。ジンガもふたりから離れた席に座ることにした。


「こちらが北の王、オルディカ殿」

「私の父は羊飼いだ。だが今は国を統治している。宜しくお見知りおき願いたい。ここに来ればラドロー殿に会える気がしたのだが、思いすごしであったか」

 オルディカは独り言のようにそういって席を見廻した。


「メルカットからは副官のタミナ殿。情勢不安を抱えているためルーサー王は自国を離れたくないとのことです」

 ハイディの紹介に副官殿は頭を下げたが、居心地は悪そうだ。


「そしてこちらがレーニア大統領、ジンガ殿」

「大統領って名前だけは立派だな」

 ジャレッドはやはり黙っていられない。

「その大統領というものはどうやったらなれるのですかな?」

 サリウが慇懃無礼に尋ねた。

「国民投票です。成人した国民全員に、誰が国を纏めたらいいと思うか書かせた結果です」

「ピオニア姫の票数を凌いだというのか?」

「姫は木こりの妻としての平穏な暮らしを望まれましたので、大統領候補ではありませんでした」


「詭弁だ。そこに欺瞞があるだろう。好き勝手な国にしたくて、候補にさせなかったんじゃないのか?!」

 メルカット副官が気色ばんだ。

「別にピオニア殿が退位する必要はなかったのではないか? 国の首長は王家が引き継ぐもの、執政の煩わしいことは補佐官をおいて手分けをすればいい。夫が木こりだとしても、まあそれは本人の趣味だろうし」

 サリウの冷徹な言葉は的を得ているだけに、厳しく聞こえる。


「そうだよ。姫様のままでいて、できた子供が王家を継げばいい」

 パラスの大らかな発言に皆はビクリとした。

「木こりの子が次期王?」

 目線が自分に集中しても、パラスはかけらも気にしない。「夫だって由緒正しき王族なんだから」と内心面白く思っている。


 ジンガが気まずい沈黙を破った。

「その点はルーサー王にお聞き願いたい。開戦前夜、王がおいでになった折、『木こりを切り殺してくれる』と言われた。王はピオニア様の結婚が不服なのであって、姫の退位を問題にしているわけじゃない」

 副官が答える。

「そんなことはない。姫が先に退位を決めてしまったのが不自然だ、恐らくその木こりに唆されたのだろう。民間人の陰謀だと明白だ」


 サリウが割って入った。

「私は別にピオニア姫が一介の木こりに騙されようと一向に構わない。王権が侵害されたとも思えない。レーニアがどんな体制を取ろうとうちとは関係ない。ただ、早く内輪揉めを止めてフランキからの攻めに備えて欲しい」

「じゃあ、サリウは船大工を国の代表と認めるの?!」

 ジャレッドはこだわり続ける。

「船大工だろうが羊飼いだろうが、その国のことはそこの国民が決めればいい。王権なくして国が纏まるなんて、レーニアみたいな小国か、北の国みたいに半年冬眠しているところだろう。自分と同じ身分の者が上に立って嫌じゃないというんだから、みんな相当平和な国民なんだろうな」

 オルディカは侮辱を聞き流した。少しも幸せそうに見えないサリウという若き国王は、王に生まれて苦労しているのだろう、と思いながら。


「わかったよ、じゃあジンガさんが国の代表だってことは認めるよ。オルディカさんはもちろんのこと。さっさと戦争終結の話へ移ろうぜ」

「ありがとう、ジャレッド殿」

 ハイディはどうにか会議が始められそうで胸を撫で下ろした。


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