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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第一章 小さな島の王女にできること
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恋に気付いた場合

 散会して、メルカット城から船着場に向かう途中でラドローが追いついてきた。

「少しつきあわないか? 聞きたいことがある」

 ジーニアンは内心ぎくりとして逃げ腰になった。覆面の中身に気づくのはこの人かサリウか、それも時間の問題だ。

「船を待たせている」

「いいではないか、手間はとらせん」

 メルカット領内をパラスの国の方角に十五分も馬を走らせるとそこがアストリーの森だ。ラドローは土地鑑があるのか姿勢も崩さずに馬を速駆けさせた。ピオニアはUターンし港に戻ることもできたのに、その背中を追ってしまった。

 ふたりは小川のほとりに馬をつないだ。

 

「話とはなんだ」

 ラドローはすぐには答えずに、上流への小道を歩き出した。ついて歩くしかなさそうだ。


「サリウがおかんむりだ。貴殿を『聖なる燭台』に迎えた折、オレが剣で手加減したというのだ」

「本当のことだ」

「わかってはいるんだな。ヤツが云うには何故あのときその覆面を引き剥がさなかったのかということだ」

「今になって引き剥がしたくなったのか?」

「オレはどうでもいい。聖燭台の前で聞く貴殿の考えは面白い。今までの切ったはった、勢いでものを決める会合ではなくなった。その覆面が必要ならしていればいい」


「それじゃサリウがどうしたというのだ」

「おまえさんはレーニア皇太子の側近で顔が病でただれている。そんなやつにうつらないと云われても信じないとさ」

「くだらない。それならサリウが果し合いにくればいい」

「ああ。だがそうしたらおまえさんは二度とあそこに来なくなる。やりあえばサリウが勝つからな」

 何の気負いもなく歩を進める隣の男を見上げる勇気は、ピオニアにはなかった。


「おまえの目的は何だ、ラドロー」

 身を包むジーニアンの騎士服に心支えられる思いで、川から視線を離さずに詰問した。返ってきた言葉は拍子抜けともいえた。

「こんな気持ちのいい夕方に散歩でもどうかと思っただけだ。サリウは急にはおまえさんに心を許さないが判断を誤るヤツじゃない。同盟に害をなすと思わない限り覆面を取りにはこない」

 

 ――散歩、なの?

 思わず見返すとラドローの笑顔がそこにあった。男は歩を速め、背を向けた。


 黙りこくって小川を遡ると源流らしき涌き水に行きついた。溢れて小さな池となり、一面ランプのような白い花が咲いている。レーニアにはない花だ。

 ラドローが池に向いたまま問う。

「ピオニア姫はなぜ結婚しない? ルーサーに求婚されているだろう?」

「私はレーニアと結婚していると口癖のようにおっしゃる」

「レーニアを渡したくないのか。小さくとも豊かな国なのだな」

「さして豊かではない。それより、たとえばラドロー殿が国ごと他国に婿入りする気になるかどうかの問題だ」

「考えたこともない」

「ピオニア様とて同じこと」

 すっと視線を足元に落としてから、男は尋ねた。

「覆面殿が婿になればいい。信頼あついのだろう?」

「畏れおおい」

「女同士だからだろ?」

 

 ラドローは改めてジーニアンを見つめた。真っ直ぐな視線だ。でもジーニアンをピオニアだとは思っていない。不思議な安堵感を覆面の内に感じた。

 それと同時にピオニアは、自分がラドローに恋心を抱いていることに気づいた。胸が鳴った。赤面しないうちに目をそらした。



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