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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第四章 海や陸でのメルカット戦争
35/120

恋人時間には

 

 夕焼けがレーニア城を染める頃、ハンスはピオニアを捜していた。

「オレの言葉の悪さに今更傷ついているとは思えないが、それも訳あってひどい表現を敢えて使ったとわかっているはず」

 と思いながらも、大広間にも洗濯場にもいないのが気になった。

「アンナ、姫さん知らないかい?」

「自分の嫁さんだろう?」

「まだだよ」

「こんな時じゃなきゃ、もう式挙げさせてる。さもなきゃ、アンタに好き勝手させるかい」

「手厳しいな」

「優しいな、だろう? さっきアンタの持って帰ったイモを見ていたよ。料理でもしていなさるんじゃ?」


 ハンスは台所ではなく王庭に向かった。夕陽を浴びてひとりきり、孤独そのものの影を落としてピオニアが急造の畑を耕している。

「ひとりか?」

「ええ、このくらいひとりでできます。イモが芽吹いているの。二週間ごとに五つ植えたらきっといい作付け時期がわかるわ」

「キタノイモの試作をしてくれるのか、ありがとう」

 ピオニアはふるった鍬の先を見つめながらはらはらと涙をこぼした。

 

「私は退位したのに姫様ぶって皆を戦争に駆り立てました。ごめんなさい」

 ハンスはピオニアの肩を抱いて云った。

「誰もそんなふうには云わなかったよ。オレは恋敵が多い。ルーサーが済んだら国中の男と決闘だ」

 ピオニアはハンスの胸に寄り添った。

「レーニアはいい国だ。お父さんもお祖父さんも素晴らしい王様だったんだろう。みながレーニアで生活したいと云っている。それも姫さんと。開戦から三ヶ月よく頑張ってきてくれた。おまえも心細かったろう? 昨夜何も話聞いてやれなくてすまなかった。オレの話も聞いて欲しいし、部屋へいかないか?」

「はい」


 畑仕事を終えて道具を片付け、部屋でしばしふたりきりの時間を過ごした。

「ジンガは初代大統領に適任だ。どうやって選んだ?」

「全員に一名ずつ名前を挙げてもらって、数の多いふたりを決選投票したの。でも何だかわかってない人も多かったわ。私の票もあなたの票も多かった。私たち以外だと念を押したのに」

「上出来だよ」

「ジンガは早くハンスに代わってもらいたいって」

「オレが大統領になってもしかたないよ」

「国土をめちゃくちゃにした責任をとれって」

「そうか、そりゃそのとおりだ」


「ね、アストールになりすましてたの?」

「いや、周りが勝手にそう思いこんでただけだよ。オレは子供の頃アストールと暮らしたことがあるんだ。それで今回いろいろ助けてもらった」

「どんなこと?」

「メルカット軍最初は弱いと思わなかったか?」

「思ったわ。どうして束になってかかってこないんだろうって不思議だった」


「大変だったんだよ。船にねずみはでるわ、カミキリムシは出るわ、イノシシの頭が転がってたり、朝起きると船が漂流してたり。それがみんなオレやアストールの悪戯だったのさ。

 ねずみの駆除を申し出てメルカット城地下にも入ってみたが難攻不落、ひとりで忍び込めてもふたりで逃げ出すのは無理な城だとわかった。おまえがルーサーのもとにいったら助けようがない。それだけはやめてくれってアストリーの森の中でびくびくしてた。

 ルーサーがひとりで帰ってきたのを確認してパラスに会いにいった。ヤツには全部わかりやすく話しておいた。

 それから北へイモの買い付けに行き、その後はアストールの弓矢を持ってメルカット軍に入った。アストールの関係者とみてすぐに入隊を許された。

 その後オレの腕前を見たヤツらが、こいつがアストールだと噂をたてた」


「大型船のマストを射当てるなんてすごいわ。」

「知らなかったのかい? オレがうまいのは剣だけじゃないって」

「土木作業がうまいのにはほんと驚いたわ。特にレナ川の堰は」

「森に住んでりゃ自然に身につくことなんだよ。水の流れも火の勢いも予想がつくのさ」

「そうだわ、みんなには早いうちから顔見せてたのね。顔知らないの私だけだってみんなに笑われたわ。夜はどうしてたのって訊かれて」

「しかたないよな。暗闇で目隠しされたりしてたんだから」

 ハンスはまたピオニアをベッドに抱き倒した。

 

「身体……、大丈夫か?」

 おずおずとした声にピオニアは余程赤くなった。腕の中で頷くだけにした。

「アンナに怒られた、『戦争中じゃなかったらこんなこと許してない』ってさ。そういえば、お母さんが縫ってくれたウェディングドレスがあるって云ってなかったか?」

「ええ、チェストの中に」

「すまないな、まだ着せてやれない」

「そんなこと、気にしてたの?」

「これでも一応、騎士としての教育を受けてるからな……」

「私、もっと早くにされちゃうと思ってた……」

「期待してたのか?」

 ハンスがからかう。


「オレはハンスを好きになって欲しかったんだ。こんな顔にしてしまったし、オレが元ラドローだからって優しくされても嬉しくない。ハンスを愛せないと聞いたとき、無理してレーニアに来たこと後悔しかけた。一生自分に嫉妬するなんてごめんだ」

「私はあなたが恐かった。口が悪くて、何考えてるのかてんでわからなくて。あなたが理解できたのは、あの森林地図を見たときかもしれない」

「病痕が恐かったんじゃないのか?」

「え? 違うわ、あなたの傲慢さが恐かったの!」

 からかわれた分、やり返すことにした。


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