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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第四章 海や陸でのメルカット戦争
34/120

なぜ戦うか曖昧な場合

すみません、一話抜けていました。

初めての割り込み投稿です!


 朝の活気が出てきた城内でハンスはジンガに云った。

「もう一度オレたちがなぜ戦ってるのか確認させて欲しい。みんなの意見が聞きたいんだ」

 作戦会議が召集された。ピオニアは地区代表でも職種代表でもないが、同席するのが当たり前と思われている。何となくその場にいた。

 まず、ハンスが未明の戦いの結果を報告した。その後、ジンガが昨夕「これからどう戦っていくが考えたい」と皆に問いを投げかけた。

 

 ハンスが口を開いた。

「オレのいない三ヶ月間メルカット相手に皆戦ってきたが、この戦いがオレのせいだってことはわかっているのか?」

「ルーサー王のせいだろ」

「オレがここにいる姫様なんか好きになったからだ。なぜオレのいない間に姫様をルーサーにつきださなかった? そうすりゃ、攻め込まれやしなかった」

 ピオニアは真意をはかりかねてハンスを見返した。

 

「姫様が行きたくねぇって云うのにわしら追い出したりしねぇ」

「それにおまえが困ると思って」

「そんなことだけで戦ってるのか? 今からでも遅くない。姫さんをメルカットに渡せよ。今ならまだ間に合う。この女の口車に乗せられて戦ってきただけじゃないのか?」

「そりゃ云い過ぎだろ。姫様に謝れよ」

 ピオニアはハンスの言葉に堪えかねて席をたった。

「私の処遇、皆様にお任せします」


 ピオニアが部屋を出るとハンスはたたみかけるように質問した。

「何で大統領ってのを作ったんだ?」

「姫様が国の代表じゃいたくないっていうから」

「いや、オレたちが姫様に命令されて戦ってるんじゃないことを証明するためだろ?」

「じゃ、何で戦ってるんだ?」

「ルーサー王が姫様とレーニアを奪いにくるからだ」

「オレも帰ってきたことだし、姫とオレをセットにしてルーサーに突き出したらどうだ?そうすればレーニアは奪られなくてすむかもしれん」


「姫様がいないレーニアなど想像できん。それにおまえはどうなるんだ?」

「オレはルーサーと決闘する」

「死んじまうぞ」

「構わない。オレひとり死ねば済むことだ」

「姫様守れないじゃないか」

「姫はルーサーを気に入るかもしれん」

「バカ云うなよ。いい加減何が云いたいのかはっきりしろ」

 ハンスを囲んで意見していた男たちは、ぐっと張本人に詰め寄った。


「これからはレーニアの国土を賭けた厳しい戦いになる。だから皆の本音が聞きたい」

「オレは早く船大工に戻りたい。だから戦いもするし、大統領ってやつをやってる」

 ジンガが答えた。

「他の国にいっても船大工はできる。現におまえ、ランサロードで造ったろう?」

「ランサロードの木はまっすぐ過ぎてつまらない。腕の見せどころがない。レーニアの曲がった木が好きだ、堅くて強い。オレはレーニアで船大工がしたい。それだけだ」


「オレは漁師だから海があればどこでもいい。だが姫様に惚れてる」

 皆が一同にフルクの顔を見た。

「ルーサー王が片付いたらおまえと決闘して姫を奪うつもりだ」

 いつも通りにやけ顔でおちゃらけている。

「昔からそうだったのか?」

 驚きを隠せないハンスは訊いた。

「ああ。でも手の届かないひとだと思っていた。昨夜下着姿の姫様見て考えが変わった」

 ハンスは両手で頭を抱えた。

「まいったな。ルーサーより強敵だ」

「ああ、ルーサー王と戦っておまえが疲れたところを狙う」

「好きにしてくれ」

「だが、ルーサー王には触らせない」

 ハンスもフルクも何が楽しいのか顔を見合わせて笑っている。

 

 羊飼いのクエヌは

「オレはレーニアからハンスの生垣を早くとっぱらっちまいたい。とげとげの木を引っこ抜いてまた広々羊を放牧する。他の土地に行こうなんて思っちゃいない。でもひとつ心配なことがある。オレには十四才になる娘がいる。正直云って、娘がメルカット兵に襲われでもしたら、おまえを恨んじまうだろうよ」

「オレもかみさんがさらわれたら考えちまうな」

「オレまだ死にたくないよ」


 沈み込む一同にジンガは云った。

「今急ピッチで船を直しているのは戦うためではない。もしものときに海へ逃れるためだ。この城が落ちる前に全員船で脱出する。レーニアはレーニアが好きでないと住めないようになっている。狭くて小さくて風が強くて海が荒い。財宝が隠されているわけでもない。メルカット人が突然移り住んでも楽しいところじゃない。オレたちが船旅を楽しむ間に本国に逃げ帰るのがオチだ」


「この戦争はオレが姫さんを守りたいだけの戦いなんだ。オレの女のために皆の家族が不幸な目にあうのは堪えられない。頼む、もう一度考えてくれ。オレとピオニアとをルーサーに差し出して和平交渉したらどうだ?」

「ハンス、オレはあの日ここでルーサーにあったから云うが、あの男はそんなことでは引っ込まない。まずオレを対等な人間と認めていない。ふたりを突き出して和平を乞うたら、やはり王族でないと裏切行為を働く、民間代表なんて信用できないと踏み潰しに来るだろう。だからもう戦って認めさせるしかないんだ」

「メルカット国レーニア州としてなら戦いは止められる」

「よしてくれよ。それじゃあ占領と同じだろ。どんな難癖つけて税を絞られるかわかったもんじゃない」


 パーチが云う。

「姫様にそそのかされて始めた戦いじゃない。自分のレーニアでの生活を守るための戦いなんだ。オレは自分の妻ルーサーに差し出さないと同様に、ハンスの大事な人突き出したりしない。姫様が姫様でなくたって大事な家族みたいなもんなんだ、おまえとのことがなくたって、領民全員で大切にしてる」

「これがオレたちの総意だ」

 ジンガがハンスの頭をぽんとたたいた。

 

「みんなありがとう。これでオレもひけめを感じず戦える。自分のレーニアでの生活を守る戦いだ。ピオニアもほっとするだろう」

「だからハンス、女子供に被害が回らないようその頭もっと絞ってくれ」

「任せてくれ。準備はできている。メルカット軍は明日から真面目に仕掛けてくるだろう。だが、大きな船は港まで近づけない。ボートを何度も通わせないと大軍は船から下りてこられない。そこでこっちはボート一隻分の敵を上陸するはしから追い返す。

 できればボートを奪い取る。上陸した敵は殺さずに怪我をさせ、手足をしばって防波堤に並べておこう。怪我の応急処置だけはしてやってもいいな。

 メルカットの上陸ポイントは限られている。八の字の生垣付近、西の浜、そして北山石壁沿いだ。それぞれ七人ずつ朝昼夜の三交代制をひく。それぞれ守備ラインを突破されたら最年少の者が城へ注進にくること。すぐにオレたちが後ろに陣を引く。

 絶対に殺されるな。怪我もしないで欲しい。ヤバイと思ったらさっさと伝令を出し、北山にでも砲台山にでも逃げ込んで必ず城に戻ってくることだ」

 

 軍議は午後三時過ぎまで続いた。元気な男たち全員が毎日どこかで持ち場につかねばならない。それでも城へ帰って眠れるだけまだ余裕がある。いずれは全員が出ずっぱりになるのかもしれない。ハンスは常に後方支援隊を整え指揮するために城に残る。ジンガは戦況の把握と担当時間以外の男手、逞しい女手を集めての船の修理を並行して行う。怪我人の看護や城内での生活、食糧備蓄の管理等はピオニア姫が従来通り統括する。


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