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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第四章 海や陸でのメルカット戦争
33/120

陸上での初めての交戦では

 クエヌの隊が監視していたのは上陸ポイントそのもので、ハンスが陸に上がった敵を囲いこめるよう、八の字型にハリエニシダを植えたところだ。

 メルカット軍は斥候として二十人の小隊を上陸させた。彼らは土地感がなく、暗い中で動くのは危険とすぐに野営した。朝から活動を始めようというのだが、ハンスがそんなにのんびりしているわけがない。

 

「クエヌ、クエヌ」

 ハンスは低い声で呼んだ。

「やっと出張ってきたか。いい加減退屈していたんだ」

「おまえはもうおねむの時間だろ? ほうっとくとおまえのほうが羊よろしく棘に引っかかる」

「久しぶりに会ったというのに相変わらず口が悪いな。暗くて目は見えなくても垣の位置くらい身体が覚えてら。こんなもん作られて、オレがどれだけ痛い目にあったか知ってるのか?」

「知ってるから来たじゃないか。早く城へ帰って休めよ」

「わかった、わかった。いなかった間の話、後で聞かせてくれよ。またいろんな冒険したんだろ?」

「そんな楽しいもんじゃないがな」

「だが、姫様を淋しがらせたことは万死に値するぞ」

「わかってるって」


 クエヌ隊が帰り、相変わらず寝静まったままのメルカット軍キャンプを見張りながら、ハンスは皆に指示を徹底させた。

「この戦争はメルカット兵との戦いじゃない。ルーサー王が飽きて兵を引っ込めればそれでOKという戦いだ。敵兵を殺す必要はない。レーニアから出ていってもらえばいい。

 朝がきて、やつらの目が光になれる直前に、この生垣の間から弓矢を打つ。驚かせて船に戻らせればいい。みなが戻った頃合にオレが船に火矢を打つ。船に逃げ戻り安心したところで船が燃え出すという二度びっくりの作戦だ。

 まずは自分が怪我しないこと。次に敵兵を殺さないことを考えてくれ」

 

 メンバーのひとりが質問した。

「敵兵は殺したほうが戦争が早く済むんじゃないか?」

「そうでもないんんだ。メルカットって国は大きくて兵になる男はいくらでもいる。おまえだって家族が殺されたら仇がとりたくなるだろう? やつらを今より本気にさせてしまうんだ。メルカット軍の中には何で戦うんだろうって悩んでるやつが多い。ピオニア姫が王妃になろうがどうしようがやつらにはたいして関係ない。王様が戦えというから戦ってるに過ぎない。そんなやつらに戦う動機を与えちゃいけない」


「じゃあオレたちは何のために戦ってるんだ?」

「それはオレの方が聞きたいよ。もとはといえばオレが姫さんに惚れただけのことだぜ。オレは姫さんを奪られたくないから戦ってる。おまえらはどうなんだ?」

「メルカットが仕掛けてくるから仕方なしに戦ってるんだよ」

 まだ陽光は見えないがうっすらと東の雲が白み始めた。

「城に戻ったら改めてみなの意見が聞きたい。考えといてくれ。さあ、作戦遂行だ」


 二十人ほどの小さな野営キャンプにいっせいにレーニアの弓の雨が降った。メルカット軍は目の粗いキャンバス地を張ってその下で眠っていたが、突然の襲撃に飛び起きて、反撃するでもなく海に向かって走った。

 レーニア側は漁師組だからさして弓がうまいわけではない。はっきりいって三月の開戦からこっち練習してきたに過ぎない。テントに当てることはできても逃げていく人間に当てることは難しい。

 

 垣根の一番海側に潜んでいたハンスはアストールから譲り受けた強弓をひいた。隣にいた若い漁師が矢じりに火を灯す。ひょーっと風を切る音がして火の玉が飛んでいく。メルカットに向けて舳先を回頭していた船の帆にあたり、ぼうっと簡単に燃え始めた。朝の薄明かりの中で炎の根元が青白い。

 

「メルカット船は帆に何か塗ってあるのか?」

 フルクが訊いた。

「ああ、ろうが沁みこませてある」

「それじゃあ堅過ぎて、風の強いときはマストに負担がかかるだろう?」

「だからあんなにマストが太いのさ。ジンガがいうには内海で風を捕まえるにはいいかもしれないが外海の風には負ける。水ははじいても火は寄せ付ける」

「オレたちとは違うんだな」

「ああ、海より陸の民族なんだよ」

「あの帆じゃおまえは連れて帰れなかったな」

 ハンスたちは自分で打った矢や、メルカット兵が残していった武器、食糧、テント地までをもぶんどって城に戻っていった。



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