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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第四章 海や陸でのメルカット戦争
30/120

海戦で負けたら

 六月になるとルーサー王はとうとう堪忍袋の緒が切れたか、総攻撃をかけることに決めた。今やレーニアは一隻の大きな戦艦のような気がしていた。

 

 メルカット東海岸でのアストールの悪戯には慣れてしまったのか、兵たちの動揺は薄れた。彼らは、何でレーニアと戦わねばならないか疑問に思いながらも、ルーサーの機嫌が直らない限り戦いは続きそうだし、自分が死なないためには敵を倒すしかないと考え始めていた。

 今までは怖いのは外海で、レーニアではないと侮っていたが、ここへきてやっと一致団結してレーニア軍にあたるという意識ができあがったわけだ。

 

 メルカット兵が軍隊として統制のとれた動きを始めると少数微力のレーニアは脆い。とうとう六月十日には五十二隻のメルカットに対し、十二隻のレーニアという勢力差となった。メルカット軍はレーニアの北山石壁沖に集結し、戦列をくんだ。レーニアは東西から挟み撃ちにするだけの戦力がなく、上陸ポイントを死守すべく、十二隻が一丸となってメルカット、レーニア間の海峡入り口に陣を置いた。

 

 攻めこまれれば自国東海岸に逃げ帰ることができるルーサー王と、攻められても後退できないレーニアでは被害の差は比べようもなかった。三隻が沈み、二隻は舷側が燃えた。

 大型船ですら、どてっぱらに大砲を受け、炎上は免れたが沈めないようにバランスをとって港に戻るのが精一杯だった。

 混乱の中で、マストに一本の矢がつきささった。船長をしていた漁師のフルクは字が読めないので、ついていた結び文ごと城に持ち帰った。

 

 日没近く、後は明日のお楽しみとルーサーは意気揚揚と引き上げていった。

 

 レーニアには死人はでなかったが、海に投げ出され高熱をだす者、怪我をした者、やけどをした者三十人近くがベッドについて治療を受けた。

 夕食後、ベッドをしつらえて病院として使っている大広間に元気な国民も全員集めて、ジンガ大統領は話を始めた。

 

「今日の被害は甚大だ。明日国土を守りきれるかどうかわからない。残った船は無傷なもの八隻、あとは修理を要するものばかりだ。どうにかルーサー王の上陸を抑えたいが今日のように次から次へと攻めこまれてはそれもままならない。

 敵に上陸されたらどうなるかはある程度齢のいった者は承知しているだろう。そこで、明日からは全員この城で寝起きしてもらいたい。今までのように城に泊まったり、うちに帰ったりではなく、完全に城に住んでもらう。二百人にとっては広い城ではないが、濠に水をはり、跳ね橋を上げ、ここが一番安全な場所になる。特に女子どもは外にでないように。

 明日早朝、フォントの指図で城の濠に水をひく。船に乗る者以外は皆手伝ってほしい。その後船の修理を急ぎたいのでフォントのほうがすんだら、俺のところに集まって欲しい。

 姫様は城内で皆が少しでも快適に過ごせるように部屋割りや食事、掃除当番など決めてもらいたい。風呂やトイレのこともエリオ医師と相談してください」

 

「ジンガ、今日こんな矢が飛んできた。」

 話が一段落してしんと静まった中フルクが矢を差し出した。

「え、その矢羽は」

「姫様?」

「その矢羽は名手と名高いアストールのものよ」


「文がついている。『メルカット東岸に船をまわせ ハンス』」

 ジンガが読み上げた。

「ハンスだとよ」

「メルカット側に忍びこんでいるのか?」

「また無茶なことしやがって」

「大丈夫なのか、ハンスってやつは」

 大広間の中は急に色めき立った。

 

「ハンスが戻ってきやがる。」

「アイディア一杯の頭ぶら下げてな」

「ほんに、いい加減姫様のおもりは自分でしてもらわにゃ、わしは心配でたまらん」

「そうそう、恋人をちょっとしたけんかでほったらかしだからな」

「アストールのところに身を寄せていたのね。アストリーの森はメルカットの中にあってアストールの自治が許されているというわ。ハンスは大丈夫なんだわ」


「よし、俺が船出してやるよ」

「フルク、今から? 疲れてるでしょ」

「夜の方がみつからねえよ」

「危ないわ」

夜魚(よざかな)の漁を十五年もやってる俺に対して危ないって? メルカットそっくりの船を東の湾からメルカットの東、やつらがたむろしてるところに紛れこませばいいんだろう? そんなの目をつぶってだってできるぜ」

 フルクは大型船に穴をあけてしまったショックも薄れ、目をキラキラさせている。実のところピオニアの喜ぶ顔が見たかったのだ。

 

「ルーサーが上陸したとき、ハンスがいるのといないのとでは大違いだ。フルク行ってくれるか?」

「よしきた。明日の戦いに紛れてどうにかハンスをつれて帰るから、姫様待っててくだせえ」

「誰かひとりつれていけ」


 ハンスが戻ってくる。その夜ピオニアは複雑な思いだった。

 

 ――皆が知ってるハンスを私は知らない。石壁を積むあの人も、杭を削るあの人も、木を移植するあの人も。無理矢理キスして抱きしめて、粗野で乱暴で何の説明もなくて。それでも私を愛しているという。私はハンスが気になる。いない間、寝室で呼びかける相手はラドローからハンスに変わっていた。ハンスに会いたい。まだ怒ってるかもしれない。見限られたかもしれない。それでもあいたい――


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