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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第三章 メルカットとの戦闘準備
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小さな島国の戦闘準備は


 ルーサーの出陣はパラスのおかげで翌朝となった。メルカット軍は出撃命令がありながら、レーニアのどこに向かってどう操船するのかもわからず、東海岸沖で漂っていた。

 レーニアと向き合うメルカットの南海岸は入り組んでいて、比較的波が穏やかな内海といえる。レーニアに近づくにつれ、潮は早くなり、レーニアより外海となるとフランキとの大きな海峡となっていて、東進する潮、西進する潮、時刻によってかわる潮、渦巻く潮と生半可な知識と経験では船を進めることもできない。

 沿岸での活動が主なメルカット船には外海に対する恐怖が根強くあった。

 

 レーニアとしてはメルカット側の低地が一番の上陸ポイントであることから、島の北側にメルカット船を入れないよう布陣した。

 まずは新造の大型船を島の北東に鎮座させ、東からやってくる敵船団を迎え撃つ。北山に隠れるように小型船を配し、大型船に突撃するメルカット船を後ろから挟撃する。その隙に南西からも小型船をまわし大型船を援護する。

 メルカット船そっくりにつくった船は東の海に浮かべ、敵を油断させおびきよせる。

 レーニアの南岸までまわりこもうとする勇気ある敵がいるならば、小型船で取り囲み、東向きに口を開けた、蟻地獄のように渦巻く湾にご案内しよう。

 この布陣はハンスの地図の通りだ。食糧、水、火矢も積めこまれた。戦闘準備はスムーズだ。

 

 ジンガ大統領は皆に云った。

「敵船を壊すより、自分の船を壊さないことを考えてくれ。メルカットは六十隻用意し、こちらは十八隻、やっつけてもやっつけても次の船が出てくると思って欲しい。だが、敵の船は大きくても弱い。特に渦潮や、外海に引き出せばそれだけで大破してしまう。極力東湾に引き込み、積荷や船材を活用しよう」


「長い戦いになるのか?」

 他の者が訊いた。

「ああ、たとえ姫様をルーサー王にさしだしたとしても戦いは終わらなそうだ。俺が話しかけてもまったく無視しやがった。船大工の話など聞く耳もたんようだ。姫さまが自分のものになって、レーニアがメルカットになるまで叩き潰そうとするだろう。ハンスはメルカット型船を造る時こう云った。

 『オレは好きになった女がたまたま姫さんだった。それを横から奪おうとするやつがいる。許せない。それだけだ。ジンガも姫さんのためじゃなく自分の家族と暮らしを守ることを考えて欲しい。男が戦うのはそのときだけでいい』

 俺は船大工の仕事が好きで妻も子供も大切に思っている。どう考えてもルーサー王が攻めてくるのは筋ちがいだ。レーニアの被害を最小限にして守っていきたい。国っていうのはそういうひとりひとりの生活を守りたいって気持ちが集まってひとまとまりになるんだと思う。これもハンスが云っていた、

 『イヤイヤながら戦う兵隊は怠け者だが自分のために戦うやつは動きが違う』」

 

「よし、みんなできる限りのことをしよう。」

 レーニアはそんなふうにまとまっていった。

 

「メルカット型船とは何ですか?」

 ピオニアが訊いた。

「フランキ戦後に打ち上げられた船の残骸を見て、メルカットにそっくりで実をいうと外海にも出られる船を造りました。やつらをおびき出すにもごまかして食糧を運ぶにももってこいです。レーニアが一番弱いのは島の中の食糧がなくなる時だとハンスが云った」

「わかりました」


「それにしても姫様、ハンスの惚れ方は尋常じゃねえな。アイツのすることなすこと全部姫様のためだ。いまもきっとどこかで頭しぼってるよ」

「それがあの朝けんかして出ていったのよ。見捨てられたかもしれないわ」

「少々のけんかで冷める恋じゃねえって。けんかの反動で無茶してなきゃいいが」

「どういうこと?」

「姫様に二度と会えなくてもいいから姫様だけは無事にって命はっちまうことだ」

「やめて、やめてよ、ハンスが死ぬわけないわ。あんなに厚かましくて何でも思い通りになると思ってる人よ」


「違うよ、姫様。姫様のためだから新入りのくせに図々しく、自分の思い通りにしなくちゃならなかったんだよ」

 羊飼いのクエヌが口をはさんだ。

「ハリエニシダの生垣のこと知っていなさるでしょ? ほんと羊が行く先々にあってこっちはほとほと困っちまったんだ。あんなものすぐにとっぱらえと怒鳴りこんだんだよ。そうしたら、近々ルーサー王が攻めてくること、その原因が自分なこと、それでも姫様が好きなこと、じっと俺の目をみて必死で話してくれた。

 ルーサー軍に上陸されても少しでも城が安全なようにどうしても必要なんだといっていた。羊みたいに敵兵を迷わせるんだって。

 アイツは図々しいんじゃないよ、姫様。一生懸命なんだ。結局羊が歩く方向を教えてくれっていって攻撃法まで考えていたよ。

 そのくせ川向こうの牧草を刈り取るときは普段困らせてるからって自分から手伝いにきてくれたし」


「ぶどうの剪定だって手伝ってくれたさ」

「じっとしてるやつじゃねえな。東の湾に流れ込む板やらごみやらを魚とる要領で掬えないかって相談にきたぜ。そのための網も作ったしな。それから、よくもあんなこと考えつくもんだ、東の砲台からよ、花火玉の中に網をしこんで船を生け捕りにするんだとよ」

「そんなことできるのか?」

「試し打ちでは網が四方へぱあっと広がってそりゃもうきれいだったぜ。砲台の下の岩棚に三発隠してある」

「ハンスのあの目に見つめられるとこっちもどうにかしてやろうと思うぜ」


「みんなはハンスの顔知ってるの?」

「もちろんでさあ。フードしたままじゃ仕事にならねえよ。顔の痕もすぐ見なれちまったし」

「姫様はもしかして?」

「私、顔みたことないの」

「信じられない。夜はどうしてたんで?」

 一同は笑いの渦に包まれた。ピオニアは赤面していた。

「姫様が一番ハンスを知らないようですな」

 ジンガ大統領も笑った。

「ハンスが戻ったらあの選挙とやらをもう一度してもらいたい。俺は船大工に戻りたいし、国中に手を入れたハンスにも責任をとってもらいたい」

「そうですね。皆でまた決めましょう」


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