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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第三章 メルカットとの戦闘準備
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王族、貴族、騎士、職業


 ふたりはパラスの城の一室で話しこんだ。自分がひょんなことでピオニア姫を愛したこと、一緒に暮らしたくて国を捨てレーニアへいったこと、それをルーサーが嫉妬したこと、自分も姫も王族としてではなく、静かに暮らしたいことをかいつまんで話した。

 

「でも戦争になっちまったじゃないか」

「それで君に会いにきた。ルーサーと話してみてくれまいか?」

「木こりは病みあがりのラドローだ、諦めろと云えばいいのか?」

「いや、だめなんだ。オレがラドローだと名乗るとランサロードで頑張っている弟と揉めるんだ。知っているだろ? オレたち母親が違うのを。王位継承なんかでけんかしたくない」

「王にはならないと云えばいいだけじゃないのか?」

「あの国では取り巻きがうるさいんだよ。本人ふたりが納得しててもね」

「難しいんだな。じゃあルーサーには何と?」

「王様だって街娘に惚れることもある。ピオニア姫が木こりに惚れてもおかしくない。いきりたってレーニアを滅ぼしてどうするんだと」


「ピオニア姫は本当に騙されていないのか?」

「誰に? オレにか? 民間代表にか? あいつはオレの親友だ」

「いやすまん。病気したって愛情がさめるような姫じゃないものな。覆面殿が云っていた。ご存知のようにオレには難しいことはできない。だが、ルーサーにあってどうして戦争なんだって訊くくらいのことはできる。それでいいか?」

「十分だ、ありがとう」

「オレは君が生きててくれることの方が嬉しいよ」

 ふたりは握手してわかれた。

 

 ラドローはパラスがルーサーを止められるとは思っていない。面会を申し込んで数時間でもルーサーを拘束してくれればいい。

 

 パラスは馬車でメルカットへすぐに向かった。

 ルーサー王は年上で煙たい存在ではあったが、延々と国境を接している間柄だ。再会できたラドローのためにひと肌脱ぐことに喜びを感じたし、最善をつくそうと思っていた。彼は道すがらルーサーの書状について考えた。実をいうと自分でもよく理解できない部分がある。「どうして戦争するんだ」ということ以外にも逐一質問しようと、不可解な点を口に出して唱えあげた。

 

 メルカットではパラス来訪を予告する早馬にルーサーが怒っていた。

「この忙しいのにパラスがくるって? 何でまたのこのこやってくるんだ? 今がどういうときかわかってるのか? 東海岸の船団に出撃を命じたら、今ごろになって食糧が足りないとか船板に穴があいているとかで全軍のうち八割しか動けないってんだぞ。まったくいらいらする。」


 ルーサーとて南のレーニアを攻めるのに北のパラスに動かれたくない。できる限り味方につけたい。しかしパラスとは理想論、概念論をぶつけあうことはできない。元来、単純で現実的なパラスだ。どうにかして丸めこむに限る。

 

 一時間後到着したパラスをルーサーはにこやかに応接の間に招じ入れた。

「急な訪問申し訳ない。ただ、頂いた書状にどうも理解しがたい点がありましてな。文書でやりとりしても私にはわかりかねると思い、お邪魔した次第です」

「わざわざ来ていただき光栄です。して、いかなる点かな?」

「まず一文め、クーデターとは何ですかな?」

「正式な継承者でない者が力でもって権力を握ることです」

「船大工が国の代表になったと」

「そうだ」

「その船大工は軍隊をもってピオニア姫を倒したのですか?」

「いや、今回は言葉の力、云いくるめたといえる」


「ピオニア姫は異議を唱えているのですか?」

「いえいえ、まったくころっと騙されている。まずは木こりに騙され結婚の約束をし、それを機会に国のことなどどうでもよいと思っている」

「ピオニア姫がそれでいいなら別にいいじゃないですか?」

「まがりなりにも王族が、それもたったひとり残った王女が病痕者の木こりに騙されたのですぞ? ゆゆしきことではないか」

「ではルーサー殿は木こりとよろしくやっているのは姫の本意ではないというのですな?」

「そうだ」


「もし本当に姫が木こりに惚れてしまってるとしたら?」

「ありえない。あんな高貴な姫が」

「王でも町娘に惚れることがあるでしょう?」

「惚れただけなら、退位しなくてもいいだろう? そばにおいて愛人にすればよい。これは身分の低い者たちの策略だ」


「一概にそうとはいいがたいが……。次に王族の名誉のためというのは? 王族は格下の者を愛すべきではないと?」

「いや格下の者に騙されているから名誉にもとるのだ」

「友人が他者に騙されているときは本人にそれを悟らせるのが一義、なぜ兵をあげねばならぬのです?」

「国中の者が皆ぐるになって姫はひとりだ。洗脳されている。まわりのうすぎたない輩を蹴散らすのが先だ。最初は嫌がってもあとで感謝するだろう」


「レーニアの伝統とは何ですか?」

「昔から雄雄しい王の治める国だった。姫が雄雄しい王と結婚すればよいのだ」

「レーニアの伝統はレーニア自身が決めることで、他国がお節介することではないと思うが」


「パラス殿、貴殿はことごとく私に反対のようだが?」

「ルーサー殿が姫を嫁にできずに騒いでいるだけのような気がしましてね。そんな戦争は願い下げだ」

「何だと? 貴殿にも妹御がおられるが木こりなんぞに嫁に出すか? (まつりごと)は少しでも広い視野を持ち、国を守って見せるという気概が大切だ。船大工にできると思うか? 私は隣人としてレーニアという国を大事に扱ってきたつもりだ。だから我慢ならんのだ」

「私からみれば対岸の火事、知ったこっちゃないと思いますがね」


 ルーサーの逆鱗にふれたことがギンギンとパラスに伝わった。話してみると実際のところ、ラドローが正しいのか、ルーサーが正しいのかよくわからなくなってきた。ルーサーが感情的になっている点を除けば、王としてのルーサーの考えに間違いはないように思う。

「これ以上は感覚の相違、平行線ゆえ、もう何も云いませぬ。私の意見は伝えました。無茶をなさらぬよう」

 パラスはルーサーの応接間を退出した。


 午前中のラドローとの話の中で、どうにも腑に落ちない点がパラスの心に残っていた。ルーサーとの面談の後で、疑念が再燃した。その時の会話を反芻しても、パラスにはやはりよくわからない。

 

「船大工に国の代表が務まるのか?」

「務まるさ、オレの親友は船を通して、メルカットの強さ、サリウのものの考え方、フランキ人の生活まで知っている。王だからものがよく見えるというわけではない」

「かたよっているだろう?」

「わからないところは他の者に聞けばいい」

「聖燭台に船大工が列席したりするのか?」

「そうだ。パラス、聖燭台のテーブルがなぜ丸いか知っているだろう?」

「誰が上座に座るか争わないようにだ」

「そう、誰だって国の代表として同じくらい偉いからな。船大工だろうと姫さんだろうとオレたちと変わらず偉いのさ」


「姫さんって何のことだい?」

「覆面殿はピオニア姫だった」

「そんなことがあるのか? なぜわかったんだ?」

「初めて覆面殿が現れた時、オレが手合わせしたろ? 剣が軽くてすぐに女だってわかったんだ。ピオニア姫だとわかったのはも少したってからだったが」

「そうなのか……」


「ルーサーは女が(まつりごと)なんてってタイプだろ? それで顔を隠して忍び込んだといっていた」

「まあ、姫でも覆面殿でも立派な人だ。聖燭台に遜色なかった。だが、船大工は」

「それが聖燭台なんだよ、パラス。船大工でも木こりでも国の代表なら聖燭台会議に同席していいんだ。どっちが偉いってもんじゃない」

「そいつらは王族でも貴族でも、騎士でもないんだぞ? それでもオレと同格なのか?」

「オレが元ラドローだからこんなに見苦しくても我慢してくれてるのかい、パラス? オレがハナから木こりじゃ、こんな部屋にはとおしてももらえないんだろうな」

「難しいこと云わないでくれよ、ラドロー…」


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