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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第三章 メルカットとの戦闘準備
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姫様が退位をしたら


 レーニアでは国の代表が決まったところだった。船大工のジンガだ。漁業長のパーチと決選投票だった。ジンガは四十過ぎの職人気質の男で、納得すると粘り強く成し遂げる。

 ランサロードでの大型船造りもハンスとのメルカット型船造りも彼が指揮をとった。その点一番ハンスを理解していた。ハンスの言動にピオニア姫を愛していることも早くから感じとっていた。自分には姫を愛するなんて想像もつかなかったが。


 次の日ピオニアはジンガとともにルーサーを丸いテーブルに迎えた。ルーサーは憮然として、

「人払いをしてもらいたい」

 と言った。ピオニアは静かに答えた。

「彼はレーニアの大統領、最高権力者です。国民の全員投票によって昨日決定いたしました。同時に私は退位しました」

「何だって? こんな一般人が国の代表だと? 務まるわけがないじゃないか」

「レーニアの代表は彼、ジンガ大統領です。公の話は彼となさってください。私は席をはずします」


「私は結婚を申し込みにきたのだ、ピオニア。書状を携えて正式に」

「お言葉ですがルーサー王殿、ピオニアは既に結婚しております」

 ジンガが震えてはいるが重々しい声で言った。

 ルーサーの烈火の怒りが始まった。

「流れ者の木こり風情とだろう? それが何だというのだ。その者をここへつれて来い。切り殺してくれる」

「夫は商用で国を出ております」

「何だと? おまえら国をあげてこのメルカットのルーサーを愚弄する気か? 私を欺き城に流れ者をいれるなど王族の恥と思わぬか、この売女!」

「何とでもおっしゃってくださいまし。私は木こりを愛しましたゆえ結婚したまでです。ルーサー様と婚約したおぼえはありません」


「ルーサー王殿、ピオニアをこの程度の女と見限り、この話はなかったものとお考えください。今では一介の木こりの妻でしかないのです」

 ジンガは姫を呼び捨てにするにはかなりの勇気を要したが、どうにか言ってのけた。ルーサー王は黙って立ちあがるとずしずしと部屋を出ていった。

 

「姫様」

「さすがジンガ大統領、上出来よ。問題はこれからだけど」

 ピオニアはにっこりと笑ってみせた。

 

 ルーサーはすぐに行動にうつった。周辺諸国に対し、

「レーニアにクーデターが起こった。船大工が王族を押しのけて国の代表を名乗っている。そいつと木こりに騙されて、レーニアの最後の王族ピオニア姫の立場が危うい。王族の名誉のため、王冠を奪われたピオニア姫救出のため、レーニア国の伝統を取り戻すため、メルカットはレーニアに宣戦布告する。王族よ、団結せよ」

 とふれまわった。

 

 このおふれはその日のうちにアストリーの森に潜むラドローの耳にも届いた。

「ルーサーのものになる気はない。ここまではハンスの思いも届いていたんだな、ピオニア」

ラドローは気力が充ちてくるのを感じた。アストールが話しかけた。

「ラドロー、おまえはレーニア全体をこのアストリーの森みたいに考えているんだな? ふんぞりかえる王様ってやつのいない、ひとりひとりができることを最大限やって生きていく共同体だ」

「そうだ。王様なんていなくていい。代表ってのはみんなの中から決まっていくもんだ」


「ルーサー王を陥れるつもりはないが、賛同する気もない。他に協力できることはないか?」

「そうだな、東海岸だな。一日一隻もやい綱をといて潮に流してみるとか、逆に出航できないように縛りつけてみるとか。すぐにダメージがでるもんでなくていいんだ。ぞうっと気持ち悪くて戦意を喪失するような、いたずらをして欲しい」

「おもしろそうだな」

「ああ、楽しめる範囲内で遊んでみて欲しい。深刻なほうは、メルカットに入る兵站食糧を減らせないかな。城の役人に化けて農民から収穫を買い占めて売り戻すとか。兵隊になる男を減らしたい。農民してるほうがいい暮らしができるように」

「わかった。自分たちの首をしめない程度にやってみよう。おまえはどうする?」


「パラスに調停を頼む。一番人間らしいヤツだから。その足で北方民族の国へ行って冬でも育つイモを買ってくる。」

「そんなものがあるのか?」

「ある。使えるものは何でも使う。レーニアを守る」

「なんだ、やる気がでたじゃないか。おとといはどっちかというと自暴自棄だった」

「ちょっと希望が湧いてきた。姫が退位して、民間代表までしたてたとなると、彼女も本気で戦う気だ。オレの女なのかもしれない」

「おまえは愛されてるんだよ」

「バカ」

 ラドローは照れていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] この先どうなるのか楽しみです! (*´▽`*) 共和制ですかね?
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