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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第三章 メルカットとの戦闘準備
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土木工事が恋文になる場合

 皆が去ってからピオニアはハンスの部屋に入った。

「私が納得して木こりの妻になったと云ってもルーサーは信じないでしょうね。私を助けるためとか王族の名誉のためとかいって戦争をしかけてくるのでしょう。確かに民間代表が国を治められると知ればどこの国民も浮き足立つ。王権は神から授かったなんて説は吹き飛んでしまうでしょうから。ハンス、心細いわ。あなたに会ってから、私は軍事に向いてないってよくわかった。私に見えないけどあなたに見えてることたくさんあるのね」


 ピオニアはハンスの森林地図をじっと見つめた。どんなに海戦で勝ってもメルカットは次から次へと船を繰り出し海上封鎖してしまうだろう。籠城戦だ。

 ハンスの試算では海戦で一ヶ月、海上封鎖から上陸を許すまで一ヶ月、落城まで一ヶ月。ピオニアは無理だと思った。上陸されなければもともと自給自足の島、何ヶ月でも生き延びる。だが上陸されたら降参するのがレーニアの常だ。

 

 ピオニアはハンスの地図の横にその前の年の森林図を置いてみた。北山の麓に石壁ができた。これはいい。だが、国中の木の配置がかなりかわっている。一様に植わっていた北山の森がある一線引き抜かれている。その木々は港から城にあがる、なだらかな丘陵地帯にぽつりぽつりと移植され、その木のまわりに黒い長方形が書き込まれている。牧草地、麦畑、ブドウ畑、お構いなしだ。

 

 また、不思議なのは城の後ろを流れる急流レナ川から、城の空っぽの濠に向かって破線が伸びている。

 ハンスの住んでいた松林から東の湾には実線が引かれている。何か用意してあるようだ。今まで島民でも東の湾に降りるには島の南を船でぐるりと廻っていたのだ。

 

 ハンスはレーニアを自然の要塞にしようとしていたのか。詳しくはわからないが、延焼を避けるため木々の密植を避け、低地には兵の潜むところをつくり、濠には水を引き、退路もしくは食糧調達路を確保してあるようだ。

「これが落城までの一ヶ月の意味なのね」


 ピオニアは廊下を通りかかった世話係を呼びとめた。

「アンナ、この黒いしるし何だかわかる?」

「ああ姫様、それはハンスさんが植えたハリエニシダですよ」

「ハリエニシダ?」

「ええ、もう二ヶ月もすれば金色の花が咲き出すと思います。今はとげとげのただの垣根ですけどね」

「ハリエニシダの実って食べれる?」

「いいえ、あずきよりちっちゃな黒豆ですよ。それどころか毒があるはずです。成長が早くて助かるって云ってたと思いますよ、ハンスさんは」

「そうだったの」

「羊が迷ったり、ぶどうが陰になるとかって苦情をいう人もいましたよ。そんな人たちとこの部屋で長らく話しこんでいました。なんだってあんなもの植えたんだか私にもわかりませんけどね」


 上陸ポイントから城までの防御たてのようなものらしい。途切れ途切れの防塁。兵が隠れてそこから攻撃したり、敵を足止めしたり、城を守るためにどうしても必要なものだと皆を説得したのだろう。


「私のため? 皆のため? レーニアのため? 私を愛した自分のため? 私があなたを危険な男だと避けていた五ヶ月の間に全部あなたがしたことなのね。

 ルーサーの行動を予測して、ルーサーがくるまでにここまで完成させてある。

 最後の切り札が私の愛情だった。でき心でも酔狂でもない、あなたはこんなにも私を愛している。その証拠をレーニア中に刻んでる。

 私はあなたを見くびってた。あなたの粗野な言葉にとらわれて、心まで粗野だと思い込んでいた。こんなに緻密で繊細な人なのに、傷つけてしまった」


 今朝、「オレの助けを待ってるって信じられなきゃオレの働きが違う」と云った。

 信じてもらえるかわからない。手遅れかもしれない。でも信じて欲しい。

「私はあなたを愛しています。ラドローとの夢のような、綺麗な恋から卒業します。私はそれを証明してみせる。あなたが行動で表現したように」


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