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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第三章 メルカットとの戦闘準備
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心がすれ違った場合


 ハンスは身の回りを片付けてメルカットに向けて出発した。半時間もたってない。

 両国の渡しは始発と最終がレーニア船、後はメルカット船が一時間に一本の割で行ったり来たりしている。敢えてメルカット便に乗り、波頭を見ながら思いに沈んだ。

 

 ――ラドローには勝てなかった。結ばれなくてもそばにいられなくても、ラドローのままでピオニアを愛せばよかった。二度と逢えなくとも、ルーサーの嫁になっても、オレが他の女と結婚しようとも、ピオニアはあんなに純粋にオレを、ラドローを愛し続けてくれたのだろう。ハンスになどならなければよかった。抱きしめても思いは通じないなら触れなければよかった。ハンスとしてそばにいる苦痛。自分に対する嫉妬。後悔。こんな気持ちじゃもう二度とレーニア城には帰らないかもしれない――


 いつもより一時間遅れてピオニアが執務室に入ると、ルーサーからの書状が待っていた。「三日後に来訪する」とのこと、用件にはふれていない。

 ピオニアは書状を持ってハンスの部屋に走った。

「ハンス!」

 そこはもぬけのからだった。早朝の諍いに疲れ、森の番小屋に帰ったかと呼びにやらせたが、小屋の中にも何も残っていなかった。報告を受けてピオニアは途方にくれた。

「レーニアなどなくなっちまえばいい」

 ハンスはそう云って出て行った。私に失望して見捨てていったのだ。流れ者らしく去るときも突然に。

 

「しっかりしなくては。方向はわかっているわ。ルーサーが何を云ってくるのかわからない。それでも私はルーサーのところへは行きたくない。戦争になる。我侭かもしれないけれど、領民の皆がどう思うか、どうしたいか、聞くしかない。緊急代表会議だわ」

 ルーサーには「歓迎する」との返事を出し、各村の村長、各職業の代表総勢二十名に召集をかけた。

 

 ピオニアは会議の前にもう一度ハンスの部屋を訪れた。ハンスが何かこれからのヒントを残してくれてないかと思ったからだ。しかし心は感傷に流れた。

「ハンス、違うのよ、あなたを愛せないんじゃなくて愛さないようにしてるの。だってあまりにラドローに似てるのだもの、行動も考え方も。どんなに似ててもあなたはハンスなのだから。言葉は粗野だったけど、声はほんとによく似てた。あなたが見てないのをいいことに私はよく目をつぶって聞いていた。たまにドキッとするほどあなたはラドローだった。怒らせると余程。私はあなたをラドローだと思いたくて、身代わりにしたくて、距離を置いていた。私を抱き締めたあの腕も胸もハンスだというのに。私は皆にあなたを愛していると云います。今私が助言を必要としているあなた、ハンスを愛していると。逃げられちゃったけど」


 なんとなく開いた机の上の森林地図にはあちこちに書き込みがしてある。目を近づけてよく見るとそれはレーニア軍の配置図、メルカットの攻撃予想、兵糧攻めになった場合のレーニア存続可能日数と食糧調達案だった。ピオニアはそれを喰い入るように見つめた。

「ハンスこれでもあなたはレーニアを見捨てたつもりなの?」


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