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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第二章 国、恋、自分、優先順位は
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回答を求められた朝には

 

 朝日がレースのカーテン越しにさしこみ、ピオニアは目が醒めた。足がベッドにくくりつけられている。紐をとこうと上体を起こしたところで横に眠るハンスの寝顔に目がいった。ほとんどうつぶせで、顔は半分以上フードで隠れている。

 この明るい光の下にハンスの顔をさらしてみたい。恐いけどみてみたい。ピオニアはそんな思いにかられた。そっとフードに手をかけた。

 だが、ハンスがビクリと起きあがった。

「見てどうするのだ。愛していると云わなければこの部屋から出さない。醜い顔を見てこんなの愛せないと証明したいのか?」

 ハンスは昨夜と考えを変えていない。自分で紐を解いてベッドから降りたピオニアとドアとの間に立ちふさがった。

 

「退いて。執務室へいかせてちょうだい」

「仕事はここですればいい。手紙の類いはドアの下からいれてもらえ」

「愛してるって云えばいいのね、ハンス」

「何もわかっちゃいないな、姫さんは。今度の戦いオレたちの戦いだぜ。姫さんが少しでも揺らぐと最悪の結果を招くんだよ。レーニアは中途半端にメルカットと交戦してさんざん被害をだしたあとで占領される。姫さんは奴隷としてルーサーの気晴らし女になり、オレは惨殺だな。いや、鎖につないでおまえとの生活一部始終を見せびらかしてくれるかもしれない」


「私が心からあなたを愛したらどう変わるというの?」

「たいして違わない。でも絶望というわけじゃない。姫さんがどんなに国を大事に思おうと好きな男とは離れられないとわかれば、まずは国のみんなが姫さんも普通の女だと認める。レーニアのために自分の心を殺してルーサーに嫁ぐ道など許してはいけないと思う。

 今までは何でも姫さんに相談にいけばよかった。何でもうまく取りしきってくれた。でも姫さんは国のことばかり考えて自分の幸せのこと考えているだろうか」

 ハンスは不思議と滔々としゃべった。普段と言葉づかいまで違う。


「姫さんがメルカットに嫁げばレーニアはメルカットになる。そんなことがあっていいだろうか? 結婚という個人的なことで、自分たちの住んでる国が変わっていいんだろうか? 大切なのはどんな国に住みたいか自分たちで考え、発展させていくことじゃないだろうか?

 レーニアのみんながここまで考えたら、自治組織ができて自分たちの国の代表を選ぶだろう。そしてルーサーの宣戦布告は姫さんが欲しいだけ、その姫さんも国の代表でないなら、レーニアと戦うのは的外れだ。姫さんに結婚してくれといって断られるだけのこと、失恋だけのことだ」

 話者が無理して目を合わさないようにしているのが感じられた。横を向いて力説するというのは意外に難しい。


「ルーサーは自分を正当化して姫さんを手に入れようとするだろう。失恋を認めようともせずに攻め続けてくる。少しでも早くこの戦争の愚かさを多くの人に悟らせること、それがポイントだ。

 姫さんが国のために奴隷に身をおとすなら、勝手にすればいい。だが、そのときはレーニア全部いっしょくたに奴隷扱いを受けるだろう」

 

「ハンス、私があなたを好きってどうしてそんなに自信が持てるの?」

「自信がないから言葉にしてくれと云っている」

「心から愛せなくてももうカップルだと皆に思われてるわ。それでいいじゃない」


「よくない。それじゃあだめなんだよ、ピオニア」

 フードの下のハンスの顔色が変わったように思えた。

「どこに居ても、どんな状態でも、オレの助けを一心に待っていると信じられなきゃ、オレの働きが全然違うんだよ」

「ハンス?」


「同じってことか。ルーサーだろうがオレだろうが、好きでなくても結婚できるんだな、おまえは」

 ハンスは力が抜けたように寝室のドアを背にして床にへたりこんだ。

「そんなの、王族皆してきたことじゃない。好きな人と添えるなんて夢のようなこと。相思相愛なんてうちの両親くらいよ」

「変えようとは思わないのか?」

「あのひとがいてくれたら違ったでしょうけど」

「ラドロー王子様か……」


「好きなひとくらい、好きでいさせて。この身に何が起ころうと私の心はあのひとのものなの。私はあなたを知らない。顔さえみたことない。愛してるかどうかなんてわかるわけない!」

「どこかでのたれ死んだラドローは愛せて目の前に存在するハンスは愛せないのか。ラドローの何を見て惚れたのだ? 剣さばきか、甘い言葉か?」

「瞳だと思います。あのひともそうでした。瞳だけしか知らず恋に落ちたとおっしゃった」

 ハンスは両膝をたてその間にがっくりとうなだれている。そんな弱さそのものを顕わにしたハンスをピオニアは初めて見た。

 

「レーニアなどなくなっちまえばいい。おまえさんは一生そいつの瞳に夢みてるがいい」

 ハンスはのらりと立ちあがると倒れるようにピオニアの寝室をでていった。



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