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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第二章 国、恋、自分、優先順位は
14/120

相手の行動が読めない場合

 その夜ピオニアは寝室でいつものようにラドローに呼びかけていた。

「わかっているの。ハンスはいつも正しいのよ、ラドロー。こんなにも近接した大国メルカットに対して、守りをかためようとも際限ない気がしてしまうの。

 ルーサーは怒ると烈火のように手がつけられなくなる。何をしでかすかわからない。

 どうやってレーニアの森を守ればいいの? 私はすぐにも降服してしまうわ。

 領民に戦わせてのうのうとしているより私がルーサーのところへ行けばいい。

 共同統治は無理かしら。私一代限りとして長男をメルカットに次男をレーニアに……。

 ラドロー、ごめんなさい、あなたを思いながら私、ルーサーに嫁ぐことを考えてる」


「ハンス様が手ごめにしてやるよ」

 ピオニアはベッドから飛び起きた。

「どこから入ってきたのです、出て行きなさい!」

「姫さんがくる前にそこの隠し階段を上がってきた」

「じゃあ騎士の間に入ったのね?」

「鍵は開いていたからな」


「ハンス、お願いだから出ていってちょうだい。これ以上問題を複雑にしないで。私だってルーサーの沈黙は怖いのよ」

「姫さんは好きなお方がおってわしとは結婚できぬというが、メルカットの王となら結婚する気だ。そんな女はハンス様が手ごめにしてやる」

「やめて、出ていってちょうだい」

「ルーサー王にもそういうのか? 黙ってされるがままになるんだろう?」

「あなたに関係ないでしょう?」

 いつも通りうつむいていたハンスの肩がよりいっそう落ちた。


「いい加減、わかれよ……」

「何をわかれというの?」


 次の言葉が聞こえるまでかなり間があいた。

「……愛されていること」

「好きでもない人に愛されても仕方ないわ」

「好きじゃ……ないのか?」

「私がいつあなたを好きだと云いましたか?」

「云ってくれた気がしていた……」


 ハンスは不思議だ。冷静でないだろうときのほうが、言葉が丁寧になる。そんなことを思っていたら、大股で近付いてきてピオニアを腕の中に抱きしめた。

「離して、嫌だってば」


 男の身体の強さ、大きさが恐ろしく感じた。

「恐いか?」

「恐いに決まってるじゃない」

「そうか……」

 ハンスの静かさが恐ろしさを助長する。それなのにピオニアの鼻は何かしら懐かしい匂いを感じとっていた。

「あのひとと同じ匂いがする。男の人は皆似たような匂いなのだろうか?」などと頭の端っこで思った。


 ハンスの左手がピオニアの頭を胸に押しつけていた。柔らかい布がピオニアの両の目をふさいだ。

「何するのよ?」

 目隠しを外そうと両手を上げたらハンスに右手で握り込まれた。そして左手に腰を支えられ、ピオニアの身体は柔らかくベッドに沈んだ。


 見降ろしているらしい男の気配は一層恐ろしい。近付いてくる体温はもっと恐かった。

「ラドロー、ラドロー、ラドロー……」

 助けに来て欲しかった。顔を背けて声を絞り出した。ハンスは、黒髪が流れ落ちて顕わになったピオニアの首筋にキスをした。

「好きなだけその名を呼べばいい……」


 ピオニアは甘んじて押さえつけられていた。相手はラドローではないのに、振りほどけないほどではないのに、組みしかれている。

 「自業自得」という言葉がピオニアの胸に広がった。ハンスのような男を城に入れて、部屋を与えて、食事を共にすることにしたのは、他でもない自分だ。こんなことになり得るお膳立てをしてしまった。そういう自責の念があるから、殴りも蹴りもできないのだろうか。

 

「ラドロー……、助けて」


 ガタンと音がして急に軽くなった。ハンスの身体が飛びのいた気がした。

 ドアの方向から

「ルーサーに嫁ぐことなど二度と考えるな」

 と聞こえて、足音が隠し階段を去っていった。

 

 ベッドに起き上がり目隠しを外してもまだ状況が理解できなかった。

「今のは何だったの?」

 されてしまうと思った。

「私などいつでも思い通りにできるという示威行為?」


 ピオニアは夏の木こり小屋でのラドローを思い出していた。

「あの時あのひとに抱いてもらえばよかった。子供扱いしたのか、私に魅力がなかったのか」

 ルーサーだろうがハンスだろうが、誰に抱かれても相手はラドローじゃないという考えに寒気を覚えた。ベッドに入っても諦めに似た思いが心に充満して身体がてんで温まらなかった。



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