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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第二章 国、恋、自分、優先順位は
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苦手な相手が有能な場合

 ハンスは営林大臣としての仕事を始めたようだ。

 材木屋と一緒に木を切り配分したり、東の湾の板きれ拾いを指揮し船大工と会合をもったり、西の岬に植林するためメルカットから苗木を輸入したり、将来の苗木づくりに子供たちと「どんぐり銀行」を創ったりと、じっとしていなかった。

 間伐材の利用を進めたため、領民は申請して伐採をまたなくても、材木屋で大抵の板材は手に入るようになった。

 たまに書斎で造船技術の本を読んだりレーニアの歴史書をひもといたりしているハンスの姿を見かけた。

 特に紹介したわけでもないのに領民たちはハンスを「新入り」と呼びながら、一目おいているようだ。彼のまわりにはいろいろな相談をもちかける人が集まった。

「自分はよくわからないが他の国でこんなことしているのを見た」という話が悩む人にヒントを与えているらしい。

 その分ピオニアに陳情にくる人数は減ったかもしれない。

 

 城のハンスの部屋には人々がよく出入りするようになったが、ハンスの顔の病根がどれ程ひどいのか、わざわざ話題にする者はいなかった。

 ピオニアにしても狼藉事件以来仕事以外で口をきかぬようにしており、一番顔を近づけたはずのキスの時も目をつむっていたのだろう、まわりのフードしか覚えがないのだ。

 

 寒くなったせいか、ハンスは城で食事を摂る日が増えた。ピオニアは一緒にならないように努力したが、食事番から「こっちはひとりなんです、片付かないからできればふたりで食べてくれませんか」と懇願されしぶしぶ承知した。


 雪が降り、風が渦巻く寒い夜、ピオニアはハンスとともに食後のお茶を味わっていた。ハンスが訊いた。

「姫さんは結婚しないのかい?」

「レーニアと結婚しているつもりですけど」

「男は嫌いか?」

「好きな方がいました。もう半年も消息がつかめません」

「捜したのかい?」

「私が大々的に捜すわけにはいきません」

「まだ好きか」

「ええ、きっと一生」

「そうか残念だな、ハンス様が嫁にしてやろうと思ったが。メルカット城の王様はいくつになった?」

「ルーサー王のことですか? 三十過ぎたと思います」

「なぜ正妃を迎えない? 姫さんを狙ってるんだろう?」

「最近お手紙いただかなくなりました。諦めてくださったのか、フランキ海戦で自分の見せ場がなくてご機嫌を損ねたのかわかりません」


 次のハンスの言葉にピオニアは耳を疑った。

「余った軍備を何に使う?」

「私を奪いにレーニアに攻めて来るというの? そんなバカな。ハンス滅多なことを云うもんじゃないわ」

「わしがレーニアを落とそうと思ったら森に火矢を打ちこむ。木を一本一本焼きながら姫さんの降伏を待つ。営林大臣としてはそんなこと許しがたい。北山の麓に石壁を築かせて欲しい。できればこの冬のうちに」

「あなたはいったい何者なの? 敵? 味方? メルカット対岸に軍備増強しているとこを見られたら逆に危ないわ」

「だからこの冬のうちになんだ。霧が隠してくれる」

「ハンス、私がルーサーに嫁げばすむことなら、その方がレーニアの被害は小さい」

「バカなことをいうもんじゃない。姫なくして何がレーニアなんだ。皆がどれだけあんたを大事に思っているか知らないのか? 話にならん」

 ハンスは暖炉の前からガタンと立ちあがってさっさとティールームを出ていってしまった。冷えて足が痛むと暖炉のまん前に座って小さくなっていた男とは別人のように。


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