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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第十章 王子でも民でも譲れないもの
100/120

決闘の序盤では

決闘なんで流血が一杯出てきますが、ちゃんと手当てしますので、安心して読み進み下さい。


スプラッタをご希望されると足元にも及びません。


 時間になると、観客がざわざわと見降ろすギムナジウムの一階フロア真ん中に剣を持った男たちを集めて、審議官がだんどりを説明した。

 ――敵味方、十四人がやりあっていいが、後ろから切りかかってはならない。背後に怪我したものが出たら、斬りつけた側が敗訴。

 ――神聖なギムナジウムの床に血を落としてはならない。出血したらすぐに救護班の手当てを受けること。

 ――戦意を喪失したら、壁に沿って剣を床に突き立て、座り込む。

 ――最後まで剣を構えて立っていた者が勝訴。

 

 開始の号令がかかり剣士は全員間合いを取って広がった。ジャンの背中を守らなくていいということは、ラドローにとっては楽だった。三人が背中を合わせて立ち、周囲の十一人の相手をする図を思い描いていた。自分の目の前の敵に集中すればいい。

 

 カキン、ジャリン、ギリ、ギギギッと金属同士がぶつかり擦れる音がする。自分の前には五人も剣を構えているのに、誰も斬りかかってこない。

「あ、睨み合ってちゃいけないのか。ジャンに集中攻撃されたら危ない」


 構えていた剣をすっと下ろし、ジャンとサリウが見える方向へ身体を向けた。一人が「やあっ」と声を上げて斬りかかってきたが、避けると勢いのまま通り過ぎて行った。

 サリウは大丈夫だ、三人と丁々発止斬り結んでいるが優勢だ。ジャンはもう肩で息をしている。脇構えのまま、そっちのほうへ歩いていくことにした。

 前に並んだ敵は後ずさりする。

「いや、もっと斬りかかってきて欲しいんだが」

 と笑えた。


 後ずさりした貴族の一人がジャンと対峙している外務大臣にぶつかった。体勢が崩れたところで相手の右肘にちょんと斬りつけた。浅く切ったつもりだが血が滴りだした。左手で押さえて救護班へと向かう。

 よろけた外務大臣にはジャンが突きを見せた。少し太めのウェストラインに血が滲む。


「どれだけ痛い思いをすれば諦めてくれるのかな?」

 フランキには中段より下の構えをする者はいないようだった。やる気がなさそうに見えるのか、太刀筋が読めないのか、戸惑っている。大上段に振りかぶられると、無防備になった胴が下から斜めに剣を持ちあげるだけで斬れる、自分にとっては経済的な構えだ。


 実戦経験者はほとんどいない。オルディカの兵たちのほうが余程強い。北の国境線で揉めて斬り合ったことを思い出した。

 実戦なら、自分が振った剣の勢いで相手に背を向けないよう留意する。今回のルールではそれが弱点になることはない。逆に背中を斬ってもらえばそこで勝訴だ。ということはだぞ、くるりくるりと踊るように廻ってしまえば、相手はいつ斬りつけていいかわからないだろう。


 ラドローは身の軽さを有効活用して、相手の間合いに勝手に踏み込み斬りつけ、くるりと背を向けて次の敵に斬りかかってみた。敵を混乱させるという点ではいい作戦だが、相手の剣の腕前が悪いとこっちの背中に深手を負う。

 三人を救護班送りにしたが、雑魚の相手より強い者を倒さなくては。


 どう見ても、ジャンを苦しめている軍人ひとり、抜きんでて強い。

「アイツの相手をオレがしないと」

 そう思い後ろから近付いた。斬りつけるわけにはいかないが、声をかけてはいけないとは云われてない。二階のマリティアには聞こえない程度の音量にした。

「おまえ、オレの婚約者に手を出したろう?」

 さすが、上手いだけあって、ジャンの太刀筋を振りはらってから顔を向けた。


「何だって?」

 正眼の構えで待ち受けた。

「おまえ、船の上でオレの女抱いたよな?」

「バカな!」

 聖燭台語が通じるらしかった。相手も中段に構えたが、顔が赤い。

「下仕官だけじゃなかったんだろ?」

「ノーコメントだ」

「さもないとそんな必死で決闘しないだろう? 品性下劣だな。軍人か船長か知らんが、伯爵夫人に死んでもらいたいか?」

「オレは止めたんだ。守れなかったおまえも情けないだろう?」

「ああ、情けない。だから今度は意地でも守り通す」

「もうおまえのじゃないのにか?」

「ああ、それは問題じゃない」


 騎士服よりもストイックな軍服は動きやすいのかもしれない。何度も間を詰められ剣同士で押し合った。後ろに飛びのいてまた間合いを読む。

 ゆっくりと廻り込もうとすると、相手も小幅に足を出し隙が現れない。


 立ち位置が入れ換わる合間に、ジャンが手当てを受けているのが横目に入った。

「よし、すぐには戻ってくるなよ」と思ったのに、彼は太腿に包帯を巻いてまた剣を取ってしまう。


 目の前の敵に意識を向けた。

「なあ、どうだった、あの女」

 相手の動揺を誘いたくての質問。

「おまえ、頭おかしいのか?」

「結婚までお預けされておまえらに奪われたんだぜ? もう一生オレのものにならない」

「じゃあなんでおまえこそ、こんな決闘に参加してるんだ?」

「復讐」

「腹いせか?」

「そうとも云う」

 斬り込んだ。見事に払われる。


 サリウが三人を戦闘不能にしたが、自分も怪我したようだ。

「コイツに怪我させてひと息つかなきゃ、身が持たない」

 ラドローは、リーチの外で斜めに斬りおろし、「当たるわけがない」と笑おうとした相手に向け、剣を翻し踏み込みながら突いた。ギリギリの射程で握り手の甲から手首に刃先が滑る。赤い線がどんどん太くなるのが見えた。

「くそっ」

 軍人は手当てに向かい、ラドローは辺りを見廻した。


 外務大臣と貴族五人が剣を向けている。


「外務大臣が脱落すれば士気が落ちるだろうか?」

 タキシードの下につけるカマーバンドのように腹部に包帯を巻いた、外務大臣と向き合った。

 踏み込みながら斬りつけていくと、敵の上体ばかりが後ろにしなり、足が前に残る。膝の腱を切ると後遺症になるから太腿を狙う。

 腿なら結構ざっくりいっても、歩けなくなることはない。大臣は剣を使うより書類を扱うことが多いのだろう、床に血の足跡がつくほど出血してしまった。


「もう何人か減らしたいところだよな」

 と思ったが、二人に怪我させたところで右上腕を敵の剣が掠った。後ろ向きの姿勢から回転し前を向く瞬間を、予測して出された敵刃(てきじん)だった。

「いってぇ。だが右でよかった、左腕はこれ以上えぐるわけにいかない」

 有罪派も無罪派も公平に手当てしている救護班は頼もしかった。ちらりとランサロードの森のエリオとシェル両医師を思い出した。


 サリウは入れ代わりのように戦闘に戻った。名も知らぬ貴族を一人ずつ斬り捨てている。

「容赦ないな、殺してはないが」

 だんだん体力勝負、精神力勝負になってくる。斬れる時に斬っておくというサリウの戦略もわかる。最低限の怪我で諦めさせたいという自分のほうが甘いかもしれない。


 右腕の包帯のせいで八双に構えにくくなった。剣を振りまわすよりも足を使って、不意に敵の前に廻り込み突き攻撃をすることにした。ジャンに斬りかかろうと隙を窺っている敵の二人に怪我させておいてから、ジャンと刃を交えている貴族の前に立った。

「怪我してないのはコイツだけ」と見て取って入念に肩を貫いた。



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