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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第一章 小さな島の王女にできること
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ちっちゃな国の場合

20年前に書いた草稿をパソの中に見つけました。


新作として書いているのではなく、何とかお見せできる形にしてアップしようというスタンスなので、気楽に読んでいただけると嬉しいです。


登場人物や国名が多くわかりにくいと思うので、略図を描きました。

位置関係と代表者の名前、後々出てくる場所などです。

 メルカット国の石造りの古城の広間で、若い騎士四人が談笑していた。

「一本多いよな」

 栗色巻き毛の男がテーブルの真ん中の燭台に灯るキャンドルを見つめながら云った。八つに枝分かれした小振りの燭台に六本のろうそくが燃えている。

「おまえのせいじゃないのか?」

 色白で、触ると手が切れるのではないかと思わせるほどストレートのブロンド男が、しかめっ面で訊き返した。

「そっち関係でもないなら、あそこか……」

「うんざりだな」

 ブロンド男、サリウは何をしてもいつも不機嫌で、長い付き合いの栗毛は苦笑を禁じ得ない。


 ――面白いことが起こりそうじゃないか――


 元々好奇心旺盛な栗毛男、ラドローは、何度も来ている広間を眺めまわした。座っている丸テーブルは広間の大きさに釣り合わない。卓の向こうはがらんとしていて、大理石の床が続くばかりだ。

 城主ひとりならいつものように、自分が背を向けている上座のドアから現れるだろう。連れがあるなら、控室のある下座からだ。

 そう見当をつけて、仲間と近況報告を続けながら足音を待った。


 下手(しもて)の大きな木戸が観音開きにあく。会合の主宰者、ルーサー王が立ち止まり、声を上げた。

「ピオニア姫の国から聖なる燭台に連なる者が派遣されてきた。私としては列席に異存はないが諸君の同意を得たい」

 ルーサー王は「聖燭台の騎士たち」を見廻した。半開きの扉から、黒ずくめの小柄な騎士がゆっくりとした足取りで入ってくる。

 

「覆面!」

 最年少のジャレッドが声をあげた。

 客人は真っ直ぐな黒髪を無造作にくくりつけ、瞳だけを残し黒い布製のマスクで顔を隠している。

「レーニア国のジーニアンと申す。お見せしがたい傷があるゆえ、このマスク何卒ご海容いただきたい」

 妙にくぐもった声で陰気きわまりない。

 

 陽気で単純なパラスは亡霊でも見たかのように黙ってしまった。沈着冷静で何にも驚かないと思われているサリウも一瞬息をのんだが、挨拶に応えぬのも無礼、剣の名手ラドローに声をかけた。

「ラドロー、お手合わせ願ったらどうだ、気心もしれようというもの」

「そうか、では聖なる燭台の騎士を代表してこの場で仕合ってみるか、覆面殿?」

「入学試験とあらば受けて立ちましょう」


 ラドローは席を離れゆうゆうとテーブルを廻るとジーニアンに対峙した。

 会釈の後、剣先をあわせ構えの姿勢をとる。

 ジャレッドの「はじめ!」という号令が響いた。

 途端にラドローは右左と鋭い突きを見せる。覆面の騎士は身軽に切っ先をかわした。そして一歩踏み込んで剣を相手の刃先に当てると、そのまま滑らせてラドローの胸を狙う。すんでのところでラドローが覆面の剣を薙ぎ払った。

 

 ラドローは手を止めて笑った。

「いいだろう。俺はこいつを仲間と認める」

「よし、ラドローがそういうならいいよ」

 パラスとジャレッドは頷いた。サリウはラドローにしか聞こえないように、

「甘いな、手加減しすぎだ」

 と呟いた。


 ピオニア姫に恋するルーサーは内心胸を撫で下ろした。いくらレーニアが小国であれ、正式に派遣された騎士をないがしろにしたと思われたくない。自分が主宰する聖燭台の集まりに彼を加えられてほっとしたのだ。

 聖なる燭台の騎士たち、ルーサー、ラドロー、パラス、サリウ、ジャレッドはそれぞれ、互いに国境を接している国の王か皇太子だ。国の代表として列席している。聖燭台の前には平等という意味で、「騎士」の称号を使い政治外交情勢を語り合う。ルーサーの国メルカットと隣接するサリウの国サリクトラの海岸線の南側、海峡の向こうに好戦的な大陸国フランキが横たわるという事情から、ルーサーが敷いた協力体制だ。

 

 騎士たちは聖なる燭台に向けて各々の剣を並べ、席についた。サリウの半信半疑な目とジャレッドの好奇の目、ラドローの明るい目が卓のむこうから覆面の騎士を見つめていた。

「さて、ジーニアン殿、ピオニア姫が貴殿を遣わしたのはいろいろと考えあってのことだろう。それをまずもって伺おう。今までと違った話題も出てくることだろう」


 ルーサーに水を向けられて覆面の騎士は小声ではあるが明晰に話し始めた。

「ご存知のとおりレーニアはここメルカットの沖に浮かぶ島国、フランキが攻め上ってくるたびに破壊、略奪、占領を受けるという悲劇を繰り返しております。王が亡くなられてはや2ヶ月、王子もいない今となってはピオニア姫に国を統べていただくほかありませぬ。しかし、フランキは王の崩御を知り次第、レーニアくみし易しとみて戦争をしかけてくるでしょう。わが国は自治を貫きたく、皆様の国々もレーニアがフランキの手に落ち敵の前線基地となるのも百害あって一理なし。ということで『聖なる燭台の軍事同盟』の一員となりたいと存ずる」


「でもレーニアに軍隊はあるのかい?」

 ジャレッドが率直に訊く。

「普段はそれぞれの仕事についているが、戦時下では八十名の隊となる」

「それでは同盟と云えぬではないか」

 聖燭台同盟参加国内では最北に領土をもち、常に北方民族と国境線のつばぜり合いを繰り返しているラドローは笑う。

「自分の国をうちの軍隊で守ってくれと云っているようなものだ」

「いくさで必要なものは兵隊だけとは限らない」

 覆面の騎士は云い捨てた。ラドローはにやりと笑う。


 フランキ側に突き出した大きな半島に領土を持つサリウは訊いた。

「フランキの軍備をどうみている? 王の喪があけぬ間に貴殿を遣わすところをみると、余程切迫しているのか?」

「早くて三ヶ月、七月には船団が敵軍港アーブルから出港するだろう」


「レーニアがフランキの属国となりそこから攻められたのではたまらない。メルカットとしてはレーニアに陣をはってでも戦うつもりだ」

 海岸線を近接しているルーサーが断言した。

「ラドローやジャレッドは遠いと思って笑っていられるが、サリクトラやメルカットが陥落することを考えてもみよ」

「嫌だとは云ってないさ、ルーサー。うちの陸軍精鋭部隊でもつれてきていつでも陣頭指揮をとるよ」

 ラドローはルーサーの恋わずらいをひやかし加減ににやにやしている。

 パラスは「フランキに対して俺たちが協力しすぎるということはないと思うよ」と云った。

 

 そこでルーサーは自分の愛用の剣を手に取った。それを合図に皆が自分の剣を掲げ、聖なる燭台の中心上で剣先をあわせた。

 そして、「レーニアを我らが軍事同盟の一員とする。同盟内のいかなる国で紛争のある場合も他国は助力を惜しまない」と唱和した。




挿絵(By みてみん)

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