叶わぬ切望
今、巷で流行しているインスタ映えについてどう思われますか?
またその対象になられたご経験は?
「ないないない。少なくとも私の知る限りでは。そもそも投稿されること自体が奇跡的なことでして…別の惑星の出来事のようですよ」
では感嘆の声を耳にしたことは?
「ありませんね残念ながら」
世界規模で多くの人々に親しまれ、注文され続けているにも関わらず、脚光を浴びた記憶がないと?
「はい。私達は人々の口の中に繰り返し放り込まれていくのみです。ただひたすら規則的に。一定のリズムで。一瞥もくれずに口に運ばれることも少なくありません。それは言わばブラインドタッチならぬブラインドイートですよ」
先程から自虐的な発言が多い気がするのですが、では長らく支持され続けている要因をご自身ではどう分析されますか?
「そうですね~ひとつ確かなことは、何かに没頭している最中のエネルギー源として私達は打って付けの存在。右に出る者はいないという思いはあります」
なるほど確かにその通りですね。
ですがあなた方の特筆すべき点は他にあると思います。
低い原価率ゆえに可能な低価格、それでいて食べ応え満点。したがって店側と消費者の満足度は双方高い。
言わばあなた方は提供する側とされる側のウィンウィンの関係を象徴する存在であると私は考えているのですが?
「ありがとうございます。客観的な立場の方に評価されると素直に嬉しいです。自分達に対する評価がどの程度適正なのか分からなかったりするので…。私の感覚としては…コンビニで無造作に買い物カゴに放り込まれるスナック菓子と同等に扱われている感じです。でもまぁ世界中にある沢山の料理の中で、スナック感覚で食される料理の筆頭が私達であるという妙な自負はありますけどね。もちろん、不味ければ注文されないわけですし…」
大変よく分かりました。
あなたの役割を全うする使命感とブレない信念は十分伝わりました。感服いたしました。
では最後にこのインタビューを目にした読者(消費者)の方々にメッセージをお願いできますか?
「はい。そうですね…。押し付けがましく思われたくはないのですが…。まずは素材の味をシンプルに味わってください。パラリと振りかけられた塩と共に。それで少々飽きがきた時にはケチャップなりマヨネーズなりをつけ、味の変化を楽しんでいただければ嬉しく思います。あと会話に夢中になるのは百も承知。十分理解しているのですが、出来る限り温かいホクホクのうちに食していただけるとありがたいです。すっかり冷めて、皿の上で死にかけている仲間を見るのは耐えがたいものですから…。最後に私達提供物の総意なのですが…注文される際の、とりあえず〇〇の『とりあえず』をお控えいただくと助かります。少なからず傷つく者もいますので」
分かりました。
私もこれからは気をつけます(笑)
本日はお忙しいなか、インタビューをお引き受けいただきありがとうございました。
「こちらこそ。このような意見を述べる場を設けていただき感謝しています。本日はありがとうございました」
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「ねぇ話聞いてる?さっきから何読んでるのよ?どうする注文?」
「えっ!?なんかこれ面白いんだけど…。ちょっと待ってよ。もう少しで読み終わるからさ」
「店員さん待たせちゃ悪いでしょ?じゃあ生ビール2つ。あと枝豆と鶏の唐揚げください。あとは……ねぇ他におつまみ何か頼む?」
「あぁ……とりあえずフライドポテト。大盛で」