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隠者の弾丸  作者: 桐条 霧兎
第1章 カナレリア
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第6話 HELLO MY LAND②


「まあ、貴方様はどちら様?」


 レミリアが上機嫌な表情で興味を示す。


「私の名はエース、エース・ティラールと申します。麗しき姫に見惚れました、一緒にダンスでも如何でしょうか?」


 少しばかりまだ酔った顔でキメ顔を決めるエース…が、クンクンと鼻が動き出す。


「えっ、そんな事言われるなんておもしろーい」


「ん?」


 思わずレミリアが素の表情を見せる、エースが反応すると慌てて取り繕う。


「オホホ、なんでもございませんわ」


「いや、んー?」


 エースが徐々に違和感を覚え、また鼻が動き出す。


「なんだろう、俺は清楚な大人しめな魅惑な女性に反応する、はず!」


「は?」


 急に豹変したエースが我に返る。


「どこか懐かしい匂い(スメル)を感じる」


「え?」


「いや、懐かしいじゃなくて…知っている…いや、この姫は偽物だ!!」


 急にエースが後ずさる。

 周りは状況が掴めず静まり返る中、ラヴィがゆっくりとエースの元に向かう。

 フェリミアも続いて向かうのと、エリックも千鳥足ながらエースの元に向かう。


「おい、エース。レミリア姫は本物だぞ?」


 エリックが肩を掴むとエースは振り払う。


「違う…違う、この#香り__フレグランス__#は…そう、ラヴィと同じお転婆暴力性の強いーゴホッ!」


 言い終える前にレミリアが溝に一撃、ラヴィが首筋に手刀を行い気絶する。


「失礼しちゃうわ」


「少し間に合わなかった」


 プリプリしながらレミリアが髪をなびかせる、その汗香りはとても甘い匂いがする。

 ラヴィも「ふぅー」と満足気に気絶したエースの首元を掴むとポイっと、隅に放り投げる。


「一体何がしたかった」


 エリックが呆然としてる中、ラヴィが補足する。


「エースは清楚系、綺麗め系が大好き。見た目で飛び付いて、失礼なことに匂いで性格がわかるとかで暴走した」


「んもう、暴力性だのお転婆だの失礼な人ね」


「いや、正しい様な」


 ボソッとエリックが呟く。


「オ、オホン…、あー皆の者聞いてほしい」


 さっきまでの事を静かに傍観していた王が、引き気味に口を開く。


「今宵のパーティは、見事国の滅亡を防いでくれた者達へ送る」


 グラスを持ってニコリとラヴィに向けて笑う。


「カナレリアの今を、ここにいるカナレリア王国騎士団率いる師団長のエリック・マクスウェルの勇気と、カナレリア王国宰相のフェリミア・ガーナバルトに敬意と勲章を授与する」


 王の賛辞に皆が笑顔で拍手する。


「勿論一兵士達全員にも感謝と拍手を今一度、彼ら無くして国は成り立たず」


 拍手で答え、護衛兵に居た一般兵達が誇らし気に笑みを浮かべる。


「ーそして何より、今日お集まり頂いたのは他でもない。この危機に駆け付け、武力国家のアクストリアを退けるだけではなく、大将を打ち倒した英雄を紹介したい」


 王がラヴィの前に歩み寄り手を差し出す。


「この小さき英雄と、横に寝転んでしまっているティラール兄妹に名誉ある称号を授ける」


 拍手喝采の中、メイド達がリボンとカナレリアの国旗金糸雀カナリアと矢をモチーフにしたエンブレムを2人に取り付ける。


「我がカナレリア王国にて、君達兄妹のみに許された称号、弩騎士ガンナイトの称号を送ろう」


「あ、ありがとう…」


 照れながらラヴィがエースを見ると、いつの間にか起き上がりラヴィに頷く。


「さあ、宴を始めよう!」


♢♦︎♢


(そーだ、弩騎士ガンナイトの称号を貰って宴始まって…)


 思い出してきたエースが、額に指を押し当て更に思い出そうとする。


「エース…あの後凄い酔ってた」


 ラヴィが覚えているのか、うんうんと頷く。


「そう、エリックの野郎とどれくらいの度数が限界か耐久勝負を…」


「そう、35度でエリックは盛大にゲー」


「待ちなさいラヴィさん、乙女がハシタナイ言葉を言うもんではございませんのよ」


「…エース、その口調キモいよ」


「妹にキモいって言われると、すっごい傷つく!」


「宴が終わった後に王様に呼ばれて報酬の話、そうあれはー」


♢♦︎♢


「楽しんでくれたかね?」


 王が少し疲れた表情で座り込んでいる。


「うん、楽しかった」


 へべれけとなったエースの代わりにラヴィが答えると、満足そうに頷いた後に少々苦笑いする。


「報酬1億Eイクス


 その言葉にフェリミアもエリックも、何故か申し訳なさそうに視線を逸らす。

 が、エースは気付かずに1億に反応して楽しそうに酒瓶を掲げる。


「そうっ!1億E!バンザーイ金持ち!バンザーイ1億!」


「エース飲み過ぎ」


「妹よ、1億だぞ?1億!」


「その金額さえありゃ、夢もまた一歩…」


「申し訳ないっ」


 言い終える前に王が頭を勢い下げると、それに連なってフェリミアもエリックも臣下達が次々と頭を下げた。


「んー?」


 笑顔を崩さないエースが不思議そうにするのを見ながら、王が続きを話す。


「金がないっ!」


「…」


「へっへっへっ1億…んー?」


 ラヴィは無言でエースを見ると、まだ理解できないエースが笑いながら酒をまた飲んでいるのを見てため息混じりにラヴィが王に向き直る。


「つまり、報酬の1億Eは嘘?」


「あ、ああ…元々カナレリアは貧しい国だ、1億Eはほとんどが今避難してきた民達に使っている状況で、払える状況ではないのだよ」


「そう…」


 ラヴィは興味が無いような反応を示しながらエースにビンタする。


「イッテェ!」


「報酬払えないって」


「何が!?」


「1億E、前金抜いて9,900万E」


「へ?」


 ラヴィのビンタに酔いが冷め始めると、ようやく話を飲み込む。


「…んだとコラァ!」


「すまない、君達が来るのも神頼みなつもりでもあった」


「いやいや冗談じゃねえよ」


 フェリミアがもう一度頭を下げるもエースは怒り狂う。


「ただ、今は別の報酬を用意している」


「あ?払うの?」


「いや、無理だ。避難民の援助にこれからの戦況を考えると払えない」


「んじゃ、なんだよ」


「君は前に私に言ったね?国を買うと、兄妹安心して暮らせる、と」


「だからなんだ」


「ここで提案だ、一生かけて勿論1億は払う意思はある。こちらも未払いで行きたい訳じゃない、ただ待ってほしい」


「はぁ?命がけでやって、待ってくれとか…俺達は慈善家ボランティアじゃねーよ」


「だからこそだ」


 フェリミアはその後を王に視線を向けて頷くと、その続きは王が話し始めた。


「待ってもらう為にいくつか用意した。

1つ、その弩騎士ガンナイトの称号は君達の為に作った物だ、それはカナレリア王国としてティラール兄妹を特別一級貴族として認定、我が城内も自由に出入りし自由に使える。

そして、2つめは…この城から北に位置する徒歩500m程の距離に小さな屋敷がある。そこを君達に差し上げる」


「屋敷…」


 そこで初めてラヴィが興味を示す。


「そうだ、君達ティラール兄妹に屋敷の所有権を譲渡する」


「1億待って、屋敷と貴族…ねえ」


「エース君、勿論それだけじゃない。

3つ目は、国として食事の支援と屋敷の維持費を負担、そして小さいが屋敷と貴族だ。1人使用人を国から雇い君達の世話をする」


「おー」


「ラヴィお前、なんか興味津々だな」


「ただ、それらをする代わりに図々しいが私から追加依頼をしたい」


「はっ、嫌だね」


「前金100万を無しにしてきっちりと1億E払いきることを約束する。そして追加で500万E、これは今その場で払う精一杯の額だ、それでカナレリアの専属傭兵として迎えたい。

決して我がカナレリアの配下ではない、兵士でもない、客人として、戦の時には我々の危機に対してのみ手伝ってほしい」


 エースは手に持っていた酒瓶を飲み干すとラヴィを見る。

 あまりラヴィは昔から金に執着はない、というよりエースのみが国を金をと騒ぐのをラヴィはいつも合わせていた。


「ラヴィ…」


「ん?」


「お前決めろ」


 エースはそう言うと、新しい酒瓶を持ち出すとそのまま部屋を出て行った。


♢♦︎♢


「ガッデム!!!優しいお兄ちゃんを演じてこうなったんだった!!!」


「ちなみに500万貰わずに半分だけに割り引いた」


「それは知らなかったよラヴィちゃん!?」


 まさかの一ヶ月経っての新事実にエースがショックを受ける。


「ドラグニルはオーダーメイドの部品だから、もうないよ」


「おう、シィーーーット」


「でも、良いよね。旅をしてきて、同じ所に長くはあまり居ないし…」


「アン…」


「お兄ちゃん…私はここに住みたい」


 エースにとって初めてのラヴィの要求なのだろう、少し驚いた様子を見せながら何を考えてラヴィの髪を撫でた。


「ま、1億貰うまでは居てやるか」


 その言葉に明るく笑ったラヴィだった。

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