第5話 HELLO MY LAND①
拝啓
天国のお父様、お母様…そしてお世話係だったジョージ、御元気でしょうか?
俺…僕アルブレッドは元気です。
私アンスフェラも御元気でございますわ。
ほんの一ヶ月前に、最果ての大陸最小弱小国カナレリアにて報酬1億イクスのお仕事を頂きたました。
期待を胸に膨らませ(我が愛しき妹アンスフェラは、まだ母上の様に立派にはほどど~~~ーーーーーーー
頑張りました。
現在ティラール兄妹は、昔の屋敷ほど立派では御座いませんが、我々兄妹が暮らすには充分な御屋敷に住んでます。
書庫部屋も作ったの。
俺アルブレッドの部屋には、男が憧れるであろう夢の男女タッグバトルな物を揃えた書庫棚を作りました。
(待って、どこ行くの?ねえ、ヤメテ、止めくれよおおおおおおおおおお!!!!俺の魅惑シリーズコスプレシリーズ清楚シリーズ巨峰シリーズがああああ!!!!)
僕の部屋には、アンスフェラの書庫部屋に入りきらなかった難しい本を並べました。
やったね。
はい…。
それもこれも、天国で見守って下さる敬愛する父上、母上、そしてついでにお世話係のゴリラ顔の癖に顔くしゃくしゃにしながら泣き出す心配性のジョージに感謝を噛み締めながら日々過ごしてます。
そして私達兄妹は、末永く幸せにカナレリアの王城地区の一画に建てられた古い御屋敷で、2人仲良く手を取り合って余生を過ごしました。
めでたしめでたし…
♢♦︎♢
「じゃっねええーーーーー!!!」
「ふぁーっく」
手紙を書き終えた途端、エースが奇声をあげながら引き千切りながら泣き出す。
エースのテンションに合わせ、ラヴィが小さな拳を上げておおーと合わせる。
「なんでだよー!チクショー1億イクスどこ行ったんだよー…」
そう、手紙に書いた通りティラール兄妹又は隠者の弾丸は、今だ現在カナレリアの王城、王城地区に位置する隅に建てられている小さな屋敷に住んでいる。
玄関を開けた直後からの二階に左右から上がれる階段が見える広間、右手に位置する2部屋は1つはキッチン、もう1つは皆で食事する部屋がある。
左手側はたった1人の召使いの部屋で、もう一部屋は空室となっている。
そして、二階に上がると目の前には王都を描いた大きな絵画が飾られ、左右に同じく2部屋設計されている。
左側の手前がティラールの天才美少女アンスフェラ(ラヴィ)・ティラールの部屋があり、奥に兄アルブレッド(エース)・ティラールの部屋となっている。
反対側にはラヴィの書庫部屋を奥にもう一部屋はエースの作業部屋と割り当てている。
「でもねエース、住み心地良いよね。部屋の窓から海が眺められるし」
そう立地も最高であり、2人の部屋の方面は海に面している。
「そうだなー…ってちがーーーうっ!」
「むぅ?」
ベランダは2人の部屋直結している為に、現在はそこでベンチを作り日向ぼっこしている。
ラヴィは気持ち良さそうに、溶けそうな程にうつ伏せでダラけきっていた。
「一体何を間違えた?どうして俺は此処にいる?何故だぁー…」
両手をワナワナさせながら血走った眼が左右上下と忙しなく動き続ける。
(思い出せー…思い出せー…そう、あの戦いの後だ!)
「私達やエリック達の為にパレードが開かれた」
「そう!そこだっ!」
♢♦︎♢
瓦礫に埋もれたエリック達前衛部隊を掘り起こし救助を終えると、凱旋パレードの様に民衆達から出迎えられた。
「久しくこんな祭りの様な光景は、見てなかったなエリック」
黄色い歓声に手を振りながらフェリミアが笑顔で呟いたり
「あんな言葉にすれば簡単で、俺達からしたら無謀な策が通じるなんてな」
隠者の弾丸、ティラール兄妹が考え付いた"駄犬の陣"、その内訳は酷く簡単であった。
巨大な兵力は、戦争において単純なまで勝率を上げる。
魔導士がいないカナレリア、戦力が少ないカナレリア…反対に武力国家として圧倒的戦力を持つアクストリア、基本野戦剣戟がメインの国にして、低級レベルの魔導士団でも数はそれなりの時点でアクストリアの勝利は敵軍も、カナレリア国民やカナレリア軍でさえも揺るぎない事実とされていたのだ。
"駄犬の策"、それは勝利への餌。
勝てる戦だとしても戦う兵士はビビるもの、命がかかってる者同士の殺し合い。
それ故に開戦すれば、勝利への余裕などは消え去る。
ラヴィはそこで考えた。
圧倒的戦力の中、敵大将のみを狙う事を…敵陣地に勝利の報告を待ち望む駄犬に対して、勝利への餌をあげる。
"敗走"、勝負を捨てて逃げる事。
演技臭ければ罠であると疑われるが、今回の戦においては偶然が重なり最高級の餌となった。
本来の策では、本当にエリック達は死ぬ事を覚悟しながら戦う事であった。
演技も無く、本気の敗走。
だがしかし、アクストリア軍を指揮するアレクセイ卿は自分から死に場を急いで作った。
魔導士団を使った事により、より良い敗走を演出させる事になったからだ。
圧倒的武力と爆裂魔法、それに逃げ出すカナレリア軍。
王都には外壁で囲まれた要塞都市となっている為に、そんな場所に逃げ込まれたら面倒になる。
アレクセイは持前の図太い欲張りな戦果欲しさに、全軍を追撃に向かわせた。
そして何よりも、自らも騎馬に跨った故に壁も無い平野にて、エースに捕食されたのだ。
基本の弓では届く事の無い、この世界においての動体視力すら否定する弾速と、狙いを定めた飛距離は誰しもが経験のない策略。
ラヴィ考案の速射連射を実現させ、本来の弓の飛距離の数倍以上の性能を持つドラグニルでさえも、届く事の無い距離からエースは射抜いたのだ。
唯一のカナレリア王国お抱え魔導士、マーシャル・クロウの得意魔法火炎と#付加魔法__エンチャント__#を、ドラグニルに行う事をラヴィは考え付いた。
直ぐ様その考えを構築し、合理し、設計を行うとエースがそれを可能にし、付加魔法の必要魔法陣を展開させる為の助力と内部構造による爆発的な威力を最後まで矢弾が射出に成功させた。
そしてスコープ越しですらアレクセイの顔はボヤけた輪郭のみであっただけでも、エースは見事に射抜けた。
それも、今回は運が良かった。
アレクセイは黄金の鉄兜をわざわざ被り、ましてやアレクセイの巨漢により遠く離れても大将が覗けたおかげだったのだ。
こうして、本当に上手い具合に運も味方に付け…勝利を収めたのだった。
「あれが隠者の弾丸か…中々おもしれー事する奴だな」
お祭りムードの王都を一望出来る屋根の上で、黒マントに身を包む二人組がティラール兄妹を観察していた。
不意な視線にエースが察知し、その方角へと視線を向けた際には、すでに誰も居なかった。
♢♦︎♢
3日が経ち、その日の王都は幾人ものカナレリアの貴族達が集まっていた。王城の中で、最も大きな広間に通されたティラール兄妹の姿。
「落ち着かねー…」
「くるしぃー」
ガッシリと正装姿に固められた全身に嫌気と息苦しさを覚える2人を発見したエリックが、飲み物を持って近づく。
「お、お前達のおかげでか、勝てた…礼を言う」
緊張し赤面混じりの表情で近寄り、2人に飲み物を渡しながらモゴモゴとお礼を言う。
「ぷっははは…なんだその顔っ」
「かお真っ赤」
「き、貴様等!」
エリックのぎこちない動きに真面目な騎士様の正装のギャップ差に思わず兄妹は笑いが漏れた。
その姿に今度は、一際周りに視線が集まる程お似合いなフェリミアが女性に囲まれながら近付く。
「ほお、早速仲が良くなってるな」
「誰がフェル!!」
エリックが青筋を立てながら振り向く。
「おお、こいつは俺の想像していたより敵だ」
思わず女性に囲まれてる姿のフェリミアに対して敵意を向けるエース。
「エースには一生かけても、顔がフェルになっても無理だね」
「おい、ラヴィ。それどーいう事、お兄ちゃんに説明して!?」
「性格が猥褻」
「んなっー」
「ははは、貴様が女にモテる等あり得んな猿」
「あ?脳筋君、君も無理だろうふふ…」
「なんだと!?猿よりはモテる!」
「んだと脳筋野郎?」
いがみ合ってる2人を冷ややかに見つめるラヴィが思わずため息を吐く。
「好きな物を食べるといい、カナレリアは貧しい国で想像よりもいい食事等無いかも知れないが」
「ん、大丈夫。ただ私達は傭兵、こんなのされた事ないだけ」
「そうなのか?」
「ええ、私達は今まで同じ様な事をしてきても他の人達の手柄になってた」
「マーシャルに聞いた、今回の指揮官か」
「そう、あのデブが死神の衣を討伐したとされた様にね」
「ふっ、安心しろ。我々カナレリアは君達に多大な感謝をしている。こうして集まってきた方達も皆君達のやってくれた事を知っているさ」
「興味ないよエースはともかく、私は」
言い争いが終わり、今度は飲み比べ対決に発展したエースとエリックを見ながら、ラヴィはどこか寂しそうに言う。
「楽しめばいい、今だけを。もう少しで陛下からの授与式が始まる」
そう言って2人の飲み比べ対決にフェリミアも参加する。
♢♦︎♢
1時間程経過すると、エリックとエースはすでに泥酔状態となっていた。
近くの食器類をドラムの様にフォークとナイフでカンカン叩きながら、先程まで些細な事でも言い争っていた2人が肩を組みながら歌っている。
「エース…飲み過ぎだよ」
ラヴィの注意等届くはずもなく、貴族達すらもエースのテンションに乗られ酒場の酔っ払いになっていた。
「カナレリア陛下様のご登場でございます」
壇上から1人の男が声を上げる。
するとさっきまで肩を組みながら踊っていた貴族達が我に返り静まり返ると、その場で大きな拍手と共にカナレリア王が現れる。
「ガーナバルト様、ラヴィ様~!」
王の後から恥ずかしそうにもじもじしながらマーシャルが現れると、一際騒いでいるエース達を見つけ笑顔で手を振りながら近寄る。
「………マー坊?」
「マーシャル、君…は、一体」
フェリミアとラヴィが声の主がマーシャルだと思って振り向くと、思わず手持ちの料理を食べていたフォークを落として静止する。
マーシャルは見事なドレスアップを行い、貴族令嬢と変貌を遂げていた。
思わず2人の反応に、自分自身の状況を思い出し赤面と涙目へと変わる。
「ここここ、これ、は…レミリア様に、捕まって」
涙声でマーシャルが説明を始めると、パーティ会場に向かう途中レミリアに捕まり、レミリアの部屋に強引に連れ込まれた後に、気付いたらこんな格好で外に放り出されていた様だ。
恥ずかしさにウロウロと会場前にいる所を王が見つけ、一緒に入ったとの事だった。
「また…レミリア様か」
「うぅー…目が、怖かったです」
「レミ…リア?カナレリア姫?」
「ああ、君達はまだ会ってなかったね。いや、会わない方が…」
フェリミアがレミリアに対しての説明を始めようとすると、また盛大な拍手と歓声が聞こえる。
「レミリア姫!」
「きゃー姫様ー!」
少し遅れてレミリアが会場内の全てが霞む程の豪華なドレスを身にまといながら現れる。
絶世の美女と言ってもいい程に、マーシャルやラヴィもこの中ではいい線を行っていたが、レミリアはそれ以上の美しさと気高さを持っていた。
「あれは、エースが飛びつく」
静かにラヴィが冷めた表情で言うのを焦り困惑しているフェリミアが不思議がる。
「ひゃっひゃっひゃっ!」
「飲め飲めエリック~ヒック、んー…?」
今だに酔っ払い続け、崩壊しているエリックとそれを煽る様に酒を飲ませ飲み続けるエース。会場の雰囲気に思わず視線を向けた。
「な、んだ…と?」
思わず持っていた酒瓶を落とす。
フラフラと立ち上がると、エースはレミリアの元に向かう。
そんか様子に上機嫌な崩壊エリックがヘラヘラしながら向かう先を見ると、思わずギョッとして酔いが冷める。
「レ、レミリア姫!? ま、待てエース!」
思わず静止させる為に手を伸ばすも、エースは時既にレミリアの前で頭を下げ屈み込む。
「お初にお目にかかります、レミリア姫」
さっきまで酔っていたエースが嘘の様に、精一杯のイケメンボイスがレミリアに向けられる。