第4話 HERMIT BULLET②
その頃戦場ではエリックが猛威を振るう。
魔剣に秘められた爆撃の魔剣"プロメテウス"が一振り、また一振りする事に爆発に似た斬撃を飛ばしアクストリア軍を押して行く。
「カナレリア王国師団長、エリック・マクスウェル見参!!!!」
一声、一振りの姿に味方も勇気付けられ大軍勢に対して怯む事のない状況に、遠く離れた後方の位置にアクストリア軍指揮官、アレクセイ卿が声を荒げた。
「なんだあのダラけた戦いは!!1万にすら程遠い軍勢がヤケを起こしている烏合の集共に、儂等が押されとるではないか!!!」
肥えた腹が今にでも鎧を弾け飛ばすかのような超肥満体型に、脂ぎった顔がまるでガマガエルかの様な巨漢が、苛立ちながら近くにいる部下を蹴りいれる。
「も、申し訳ありません!カナレリアには魔剣使いのマクスウェルと言う男が…」
「知るか!!!魔導士隊を出せ!」
「はっ、直ちに兵を下げさせー」
「そんなアホな事するか、敵にバレるだろうがボンクラめ!」
「えっ!」
「役立たずな兵共々魔法を打て!爆裂だ!」
♢♦︎♢
「嫌な流れを感じる」
後方に位置するフェリミアが、アクストリア軍の後方の慌ただしさを感じ取る。
フェリミアはその方角をぐっと目を細めた後に見開く。
(千里眼!)
フェリミア・ガーナバルトは、幼い頃に魔導士に憧れていた。
だが、彼には魔力を生成する事が出来ても、それはごく僅かな微量の魔力しか作れなかった。そのせいか、魔導士はすっぱりと辞めるとその微量な魔力を瞳に爆発させる事で千里先の物を捉えらる魔法のみを身に付けた。
「…あれは!!」
フェリミアの様子に兵士が話し掛ける。
「ガーナバルト様、何事でしょうか?」
「急いでエリックに撤退させよ、先陣部隊はこのままだと全滅する!!」
♢♦︎♢
「ありゃつまみ食いのデブ将軍じゃんか」
大木に登ったエースが、スコープ越しで敵陣地を見る。
「うえっ…」
ラヴィが嫌な顔をしながら身震いする。
「つまみ食い…?」
マーシャルが興味を示し、エースを見上げる。
「そう、つまみ食いのデブだよ」
ラヴィが横で答える。
「死神の衣は近隣国じゃ、私達が討伐したんじゃなくてあのデブがやった事になってる。まあ信じられそうにないから、私達が本当は討伐したんじゃないかって噂が出たんだよね。実際事実だし…」
「酷い人なんだね。エース様、それよりそこから狙えますか?」
「あー…無理だ、風向きと側近共が周りうろちょろしてて狙いずらい」
「じゃあ、暫く待機だね」
エースの言葉にラヴィが呟く。
「オイオイ…あいつら味方ごと爆裂魔法でエリック達を吹っ飛ばすつもりだぞ」
スコープ越しに慌ただしく陣営が動いているのを観察していると、魔導士達がアレクセイの前に並び出した。
狙撃も完璧なまでに目標が隠れてしまっている。
(チィ…風向きが変わったとしても見えなきゃ狙えねー。あのデブうろちょろと下っ端を蹴るわで動き回るしよぉ…どうするかな)
「こりゃ早く餌を出さなきゃマズイ展開だな、フェリミアが気付いてくれれば…」
エースの引きつった表情に、マーシャルが思い付いた事を提案する。
「ぼ、僕が急いで行って偵察か伝言伝えますか?」
「バカか。タイミングがいつ来るかわかんねー中で勝手な事すんな!」
「そうだよマー坊、泣き虫より2人は使える」
「そ、それは酷いよ…事実だけど!」
♢♦︎♢
一方エリック達は体力の消費が激しく、フェリミアの合図を待っていた。
(クソ、まだなのかフェル?)
次々と味方が倒されるのを見ながら、敵を薙ぎ倒す事を止めると負傷した味方を援護する様に変えたエリック。
そのせいか、最初の勢いが失速し次々と味方が押され始める。
「マクスウェル師団長!緊急合図です!」
1人の兵士がエリックの背中合わせて、狼煙を指差した。
「黒の煙が二本と、合図の白の煙か?」
ハッと視線を後方に陣取る敵大将を見る。
赤く模様がいくつも光り輝いていた。
「マズイッ、全員退避!!!遠距離魔法が来るぞ!!!」
エリックの号令と同時に赤い閃光が上空に射出される。
"爆裂魔法"物体に着弾と同時に広範囲に爆発する魔法、威力は凄まじく一流魔導士ならば半径5キロの範囲まで爆発する高等魔法だ。
「しまっー」
♢♦︎♢
「合図は!?」
後方陣営にてフェリミアが慌てた様子で声を荒げる。
「今しがた煙が上がりました!」
「遅いっ!!!はっ!?」
エリック達がいた箇所に大きな爆発音と爆風が轟く。
「遅かったか、エリック…」
(1つ1つの爆発範囲が狭い、その文かなりの数撃ってきている。味方も一緒に…ふざけた者だ)
「だが、エリックすまない。これより我々は後退する!急げ!」
今も爆発しているのを目にしながら指示を出す。
(ここで作戦を無駄にすれば国すら危うい、己…)
♢♦︎♢
アクストリア陣営では、アレクセイ卿が豪快に笑いながら爆発風景を見物していた。
「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ、愉快痛快爽快じゃあ~!見よ、虫ケラ共がドンドン吹っ飛ぶわい!」
部下が手に持つ鎧兜を手に取り被ると、鈍臭く馬に跨り号令を出す。
「これよりカナレリア虐殺タイムじゃー!皆の者前に出よ!!」
♢♦︎♢
「クッソ、なんつークソな事しやがるっ!」
「エース…エリック達は?」
毒気付くエースを不安そうに見上げるラヴィに視線を落とす。
「わからねぇ、だけど作戦開始だ。マー坊、付加魔法だ!急げ!」
(風も爆風で変わった、今がチャンスだ!)
「は、はい!い、古に授かりし大地の結晶よ…我が名の契約を今此処に実行せよ。爆裂付加魔法!!!」
マーシャルの足元に赤い魔法陣が展開し、呪文を唱え終えると同時に頭上に位置するエースが同じタイミングでドラグニルのグリップに位置するスイッチを入れる。
グリップには一部が欠けた状態の魔法陣が描かれスイッチを押すと魔法陣が完成する仕組みとなる。
それによりドラグニル自身に、本来ならば身体速度を上げる爆裂付加魔法を、無機物のドラグニルに付加する事に成功する。
「OK…成功だ。後は…」
赤い発光を放つドラグニルを構え、スコープ越しからアレクセイを狙う。
「風は北西から…追い風、最高のタイミングだ」
ゆっくりと標的を捉えると、トリガーを押す。
"ゴォォーーーーン"と重低音が響き渡る。
♢♦︎♢
(勝ったぞ!またワシが武功をあげたんじゃ!!)
アレクセイが浮かれた顔で騎馬の上に鎮座していた時、ゴォォーーーーンと重低音が響き渡る。
「な、なんー!!!?」
音の方角に顔を向けた刹那、黄金で出来た鎧兜が砕け鈍い音と共にアレクセイが落馬する。
「ア、アレクセイ卿!?」
何が起きたかわからず、音の正体もわからず、アクストリア軍は思わず足を止める。
アレクセイの取巻達が一斉に駆け寄ると、青ざめた表情と震えた声で悲鳴に近い言葉を発する。
「ア、アレクセイ卿が死んだアアーー!!!!」
静まり返った戦場に響き渡る。
♢♦︎♢
一方フェリミアは、重低音に同じくして足を止めていた。
(この音が、エースの言っていたドラグニルの威力!)
「全員、敵軍に向直れ!」
結果を確かめるよりも早く全兵の踵を返す、それと同時にアクストリア軍からあの言葉が届いた。
『ア、アクストリア卿が死んだアアーー!!!!』
「やったぞエース!残存兵を薙ぎ払え!!!」
大将が沈んだ事とフェリミアの号令に、疲れ切った兵達に活力が蘇る。
「「ウオオオオオオッ!!」」と怒号を吐き出し、立ち尽くし慌てふためく残存兵が逃げ惑う。
「エリックッ!!」
フェリミアは一直線に爆発地帯に駆け寄り、旧友の姿を探す。
「エリックー!!」
「こ、ここー…だ、フェ…」
微かにエリックの声が耳に届き、その方向へと馬を走り出す。
「生きてるかエリック!」
瓦礫埋もれる友を見つけ、安堵しながら馬から降りる。
「ああ…なんとか、魔剣の力を使って…な」
エリックの埋もれた瓦礫の後ろには沢山の兵士達を確認すると、フェリミアは安心しきった顔で瓦礫を退かし始めた。
♢♦︎♢
ティラール兄妹とマーシャルは、発砲後に予想以上な反動で大木から落ちてきたエースに2人が駆け寄る。
「ど、どうなったんですか?!」
「いっててて…」
「まさか、外した?反動が予想よりも大きかった」
マーシャルが尻を摩るエースに駆け寄り、ラヴィが不安そうに問い掛ける。
エースはゆっくりと立ち上がるとピースサインを作ると同時に『ア、アレクセイ卿が死んだアアーー!!!』と聞こえた。
「やったあーー!!!」
マーシャルが嬉しさのあまり飛び跳ねながら、思い出したと言った表情で跳ねるのを止める。
「ぼ、僕達も追撃しなくちゃ」
「あー…無理」
「え?」
「ドラグニルが付加魔法に耐えられなくて銃身がこっぱ微塵、他に武器は用意してない」
ラヴィがドラグニルだった物指差しながら説明する。
「ええええー!?」
「まあ、良いじゃん?後はフェル達に任せて帰ろうぜ、あー尻痛い。ラヴィ様肩貸して?」
「やだ、スケベ感染る」
「何その病原菌!?」
♢♦︎♢
その日の夜、奇跡の大勝利を遂げたカナレリア王国は三日三晩のパレードを王都で行われるのだった。
だが、ティラール兄妹又は隠者の弾丸は予想外の結末を迎えるのは、まだ知らないのであった。