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隠者の弾丸  作者: 桐条 霧兎
第1章 カナレリア
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第2話 SIBLING HERO②

 エースの言葉に王が耳を疑う。


「勝てるのか?」


「勝てるよ」


 その問いにラヴィは静かに言った。暫し静寂に包まれる玉座の間で、フェリミアが口を開く。


「陛下…」


「う、うむ…頼む。この国を助けてくれ」


 王がお願いすると、フェリミアは近くの兵士に合図して袋を受け取るとエースの前に近寄って来た。


「前金の100万イクス(E)だ。頼む、我々からもお願いしたい。望める可能性があるのなら、君達に賭けたい」


 フェリミアが大きく頭を下げた。


「どうするエース?」


 ラヴィが視線を兄に向ける。


「人前ではお兄たんと呼べと何回…痛っ!…その為に来たんだよ」


「呼ばない、人前じゃなくても」


 ラヴィに横腹を殴られ涙目になりながらもフェリミアに顔を向ける。

 ニヤリと笑いながら袋を受け取るとエリックに生意気そうに視線を向ける。


「そこの団長さん、現在の布陣と兵力武器を教えてよ」


「ぐっぐぐぐぐぐ…」


 唯一、今だに反感の表情と怒りに満ち溢れているのをフェリミアが叱責すると嫌々ながらも、部下達に指示をしながら地図を広げさせみんなに見えるようにすると説明を始めた。


「まず、アクストニアにはここで大規模の防衛線を張っている。兵は3,000配置している」


「え、少な」


「うん、大規模の割には少ない」


「ぐっ…そ、そしてアルケニアにはここで警戒線を1,000程配置している。アルケニアは現在別方面の小国の1つヒルムドを潰す事を優先している動きがある為に一先ずは安心していい」


 二人のツッコミに思わず拳を作るが、なんとか耐えながら説明を続けるエリック。


「そこは俺達の情報と合ってるなラヴィちぐわっ!」


「ちゃんも付けないでって、いつも言ってる」


 エースの溝を殴りながら淡々とした表情ながら睨む。


「真面目に聞く気があるのか、貴様等ぁ!!」


「エリック、続きを話せ」


 我慢の限界のエリックをよそ目に王が今度は言う。


「陛下まで…」


 落ち込み気味のエリックが説明を続ける。少し投げやりになってる様子。


「兵装は騎兵3,000、歩兵5000だ。我が国は騎兵が一応自慢ではある」


 エリックの説明にラヴィが首を傾げながら疑問を口にする。


「それだけ?魔導士は?」


 この世界において戦の主力は剣技と魔法、弓は古臭くこの世界の人間の動体視力において矢は、当たる事の無いスピードにより廃れ無くなったのだ。

 その代わりとして魔法の遠距離が主力となり、国々は魔導士兵を持っていたりする。


 そう、戦争をするのであれば魔導士の存在は勝率を大きく上げる要素にもなるのだ。


 王が重い口調で説明する。


「それは…我がカナレリア王国は、魔導士育成不足とそもそも魔力を生成する素質を持った人間が少ない。ただでさえ貴重な魔導士はアルケニア人や魔導士大国のルナリア人の様な体質は中々いないのだ」


「んじゃ何か、魔導士0!?」


 エースが目元を手で覆いながら天を見上げる。

 二人にしてみれば、そこは予想外な事であった。

 フェリミアは落ち着いた声で捕捉する様に口を開く。


「居るには居る、数年程前までは近隣国に少しは名の通った魔導士が居たのだ。今は引退し、その弟子が1人居る」


「それでも1人…」


 ラヴィがはぁ…とため息を吐く。


「一応才能ある者だ、君マーシャル・クロウをここに呼んでくれ」


 フェリミアの言葉に1人の兵士が退室すると、少しして1人の黒フードを被った者を引き連れて来た。

 顔はフードに隠れているが、小柄な背格好に華奢な身体付にエースはじっと見つめる。


「エース?」


 ラヴィがエースに気付き声を掛ける。


「…男か」


 ボソッとエースが呟くと黒フードの者がビクッと反応する。

 恐る恐るフードに手を伸ばし顔を見せると、綺麗な薄青髪に綺麗な二重、目鼻はくっきりとしており美少女の顔立ちをしていた。


「エース…女の子だよ」


 ラヴィの言葉にエースは勢い良く首を振る。


「エース様は騙されないぜ、このくっきりな身体のラインと美少女と言われても納得しそうな顔立ちだか!こいつは正真正銘野郎だ!俺が反応しない!」


 ガッツポーズまで取りながら言い放つ。


「は、初めて女の子に間違えられなかった」


 マーシャルはぱあっと明るい表情でエースの手を握る。


(ん、なんだろう。なにこの気持ち?)


 エースがふと満面な笑みのマーシャルと、ぴょんぴょんと跳ねる度に揺れる髪からの匂いを嗅ぎながら考えた。


「あー…良いかい?」


 様子を見ていたフェリミアが口を開く。


「はっ!イカンイカン、俺とした事が…この悪魔め!」


 我に返ったエースが、マーシャルから手を振り払い後ずさる。


「おい、フェル。信じて良いのか本当に?」


 エリックが心配そうにフェリミアの耳元で囁いた。若干ながら緊張感の無い二人に、エリックと同じ気持ちを覚えたフェリミアが笑顔を引きつりながら説明を続けた。


「この子がマーシャル・クロウ、先代のカナレリア直属魔導士の弟子だ。秘めたる才能は私や、先代のこの子の師匠が認めている」


 フェリミアがマーシャルの肩に手を置くと、ビクッとしながらもマーシャルがぎこちないお辞儀をする。


「マ、マーシャル・クロウです!よ、よろしくお願いしゅまぶっ!」


 盛大に舌を噛んでしまい涙目になるマーシャルに、エースとラヴィが初めて不安そうな表情になる。


「マジかよ…」


「ま、マー坊は見たまんまの見習い魔導士で泣き虫だが、魔力は並の魔導士よりも上だ」


 エリックのフォローに、マーシャルは笑顔で答える。


「マ、マー坊はやめくださいエリック様…。一応僕は火炎魔法と【付加魔法エンチャント】を得意としてます」


付加魔法エンチャント…」


 マーシャルの話にラヴィが考え込む。


 付加魔法とは、物や人に対して魔法を掛け、身体能力向上等サポート魔法を総称して呼ぶ。


「大規模な人数はまだ、付加魔法出来ませんが、4、5人程度なら同時に掛けることが出来ますよ!」


「付加魔法ねぇ…」


 エースも考え込み始めた矢先に、一人の兵士が青ざめた表情に慌てながら玉座の間にやって来る。


「アクストニアが侵攻を開始致しました!!」


「なんだと!?」


 その言葉に王が反応する。


「まだ先だと思うた事が…」


「流石武力国家のアクストニア…、短気過ぎる」


 ラヴィが冷静に分析すると、フェリミアが理解した様に口を開いた。


「アルケニアの動きか!」


「フェル?どういう事だ?」


 エリックが説明を求める。


「アルケニアは現在ヒルムドを侵攻している、そこを落とされでもしたらアクストニアはゆっくりとカナレリアを攻める事なんかしてられなくなる」


 フェリミアの説明にラヴィが大きく頷く。


「もしヒルムドが攻め落とされたらカナレリアどころじゃなくなって、アルケニアに集中しなくちゃならなくなる。こんな弱小国でもほっといたら次はアルケニアが攻めて来るよ。そうしたら…アクストニアは領土拡大に大きく遅れを取ることになって潰される」


「その通りです、さっさとカナレリアを潰してヒルムドをアクストニアも欲しがってる為に進軍を開始した。そう思った方が、この早さは利点が効く」


 ラヴィは深く考え込むと、大きく何かを閃いた。エースに視線を向けた後に、周りを見ながら口を開く。


「駄犬の陣…」


 ラヴィの呟く様な言葉にエリックが首を傾げた。


「そうか、駄犬の陣か!」


 エースが思い出した様に手を叩く。周りは理解できない様子にラヴィが静かに口を開く。


「師団長さんは急いで防衛線を王都に呼び戻して、鉢合わせして全滅しない内に」


「何!?まだ避難民達の収容が済んでもいないんだぞ?」


「良いの、王都から少し離れたここに待機して、ここなら避難民の列はないし絶好の場所だよ。それとアルケニア方面の兵士もそこに移動させて、そして王都の守備も全部そこに固めて」


 地図を指差しながら話すも、フェリミアが異議を唱える。


「こんな広い平野だと策も何も出来ない、魔導士部隊に狙われるし歩兵部隊でも数で負けます。それにもしもの場合は王都に籠城すら出来ずに滅びますよ?全兵力をそこに置いて真っ向勝負なんてー」


「良いの」


 ラヴィが言うとエースは王に向けて口を開く。


「負けたきゃ勝手にしろ、勝ちたきゃ信じろ。100万ぽっちで俺達は命を捨てに来た訳じゃねーんだよ」


「むぅ…ぐ、」


 エースの言葉に目を瞑り、大きく息を吸い込むと、王は少しばかり考え静かに目を開けると重い口を開いた。


「エリック指示に従え、フェリミア…避難民の入城を急がせよ。身分証明など不要だと指示し、出来るだけ早く入れよ」


「「はっ!」」


 二人は直ぐ様屈み込み返事をすると、玉座の間を後にした。

 ラヴィはそれを見ながら近くに立っている兵士に声を掛ける。


「兵士さん、紙を何枚かください」


 その願いに兵士が戸惑うと王が頷く。


「言う通りにせよ」


「は、はいっ!」


「エースはこれこら書いた物を"ドラグニル"に取り入れて」


「流石俺の妹だ、お前の考え付いた事に兄ちゃんは疑わないさ」


「うん、わかってる。それとマー坊さんは後でお願いしたい事があるから、エースのお手伝いをお願い」


「ひうえっ!?」


 不意な事にすでにパニックのマーシャルが涙目で反応する。


 王はラヴィに思わず質問をする。


「一体、何をするつもりかね?」


 その問いに今まで無表情な呆けた表情だったラヴィが口元を緩ませながら、王の質問に答えた。

 ラヴィの笑みは幼さの残る顔立ちをしながら、どこか妖艶な香りがする。


「ー死神の衣を倒した事をするの」


 ラヴィはふふっと笑う。


「駄犬って目の前に餌があると、警戒心も解いて馬鹿みたいに飛びつくの。…だからこの作戦の名前は駄犬の陣って付けた」


(この子は本当に子供なのか…)


 王は思わず身震いしている事に気付くのだった。

 そしてこれから起きる事が、何故傭兵兄妹が#隠者の弾丸ハーミット ブレッドと呼ばれるの理解するのは一瞬だったのだ。

 なにより、弱小国カナレリアの戦火が切って落とされる。

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