プロローグ
ある小さな小国、その名はカナレリア王国。
海に国土の半分が面し、2つの大国に挟まれた状態の貧しい国家。
人口はおよそ6000万人程度、主な収入源は漁業が大半となっている。
貧しくとも、国民全員が平和に暮らしカナレリア王国に不満無く働いている。
そんな小さな小国で、城下は平和とは裏腹に危機に直面していた。
「マズイことになってしまった…」
玉座に座る金髪に若干白髪がちらつかせ、疲れ切った表情でこうべを垂れながら頭を抱える。
まだ50にもならない歳でありながら、その額には多くの苦労皺ができている。
その男は、カナレリア王国の現国王であり、常に国民第一と評判の優しい王。
そんなカナレリア王の様子に、金髪の青年が言葉を掛ける。
「陛下、レムリア会議の件でございますか?」
「その通りだ、フェリミア」
その男は綺麗な顔立ちに、すらっと伸ばした金髪を後ろに束ね、純白のローブに身を包んだ美青年、その名はフェリミア・ガーナバルト。
この国、カナレリア王国を25歳にして宰相を務める。
フェリミアがひと月前の事を思い出しながら王に話しかける。
"レムリア大陸統一案"
ひと月前に開かれた、四年に一度の5つの大国と7つの小国の代表が一堂に会する会議"レムリア会議"。
ほんの小さな小競り合いが有れど、戦争等数百年近く起きていない平和な大陸に、今大きな争いが起きていた。
「戯言と抜かし、軽く流した議題。まさか提案国のペタルダニアだけでは無く、3つの大国までもが、くだらん事を始めおった」
戦争が始まる元凶を思い出す。
四年に一度開かれるレムリア会議にて最も大きな領土を持ち、開催国となったペタルダニア帝国の提案。
最初は戯言と周りも笑い、馬鹿馬鹿しい子供の様な発言が僅かひと月後に始まるとは夢にも思わなかった。
その議題は一瞬にして棄却され、もし成し得たとしても誰が大陸全土を支配、統治するかも問題視され当たり前に拒否し、話は流れたはずだったのだが、ペタルダニア帝国はそれを良しとせずに大陸全土に強制的に大陸統一宣言と各国に宣戦布告した。
「小国等、そんな宣戦布告はひとたまりもありませんからね」
金髪の美青年フェリミアが現状を確認しながら国王に告げる。
「ペタルダニアは大陸中心に位置している、僅か三日で北の小国2つが潰された」
「そして我々カナレリア王国は、2つの大国に挟まれ小国間の同盟を結ぶに難しい位置」
先程届いた2つの大国の文を読みながらフェリミアが答える。
「北に位置するアルケニアと、東南を囲っているアクストニアも大陸統一を宣言。そして先日同時に届いた書状は降伏勧告とどちらに付くのかの内容…」
「返答がない場合は敵国とみなし進軍止む無し…か」
「そして問題なのが降伏するとなると、陛下…そして姫様の首を差し出す事でございます」
対抗するとしても、小国1つが大国に挑むのはアリ一匹が像に挑む事は目に見える現状に他の配下達も黙るばかり。
「陛下!!」
甲冑を着た男が前に出ると、王の前で屈む。
赤く染まった髪、そしてフェリミアと同い年の若さ、フェリミアよりも高身長でガッシリとした体格の持ち主の男の名はエリック・マクスウェル。
このカナレリア王国一の剣の腕前と勇気を持ち、フェリミアと同じく、若くして一国の騎士の総師団長を務める騎士。
「どうしたエリック?」
王の代わりにフェリミアが聞く。
「恐れながら言わせていただきます…戦うべきでございましょう!」
真っ直ぐな瞳でカナレリア王を見る。
「エリック…我らはこのレムリア大陸の中で1番の小国、戦うと言っても兵力もままならんのだよ」
王は静かに告げると、エリックはより強く進言する。
「ですが、ただ黙って国を滅ぼされる事等あってはなりません!ましてや降伏等、王そしてレミリア姫の御二方の命を差し出してまで我々配下、そして国民は喜び生きる事等あり得ません!!」
その言葉にフェリミアも同意と頷く。
「それに降伏を選んだ所で、どちらに降伏するかも問題でありますし…どちらか一方に降伏した所で降伏しなかった大国に攻められるのは目に見えております」
「解っておるから、頭が痛いのだ」
フェリミアはふと思い出した様にエリックの横に並ぶと王に向けて進言した。
「陛下、"隠者の弾丸"(ハーミット ブレッド)をご存知でしょうか?」
「フェル、それはなんだ?」
フェルとはフェリミアの愛称であり、エリックとは同い年の為に、良くそう呼んでいる。
そして、王よりも早くエリックが興味を示し、フェリミアに視線を向けながら立ち上がる。
「良い案が浮かんだのか?」
王は少し不安な表情を和らげる様にしてフェリミアに顔を向ける。
「ええ、ある二人組の傭兵なのですが、近年小競り合いの戦なんかでも圧倒的な武功を上げる者達です。正体はわかりませんが、ある決まったコンタクトで依頼を引き受けてくれる様ですが…一つ問題がございます」
「問題?」
王の問いに小さく頷くと、困った表情をしながら告げる。
「かなりの守銭奴であり、報酬の金額が異常との噂です。どれ程かはわかりませんが、噂ですと傭兵団を2つ雇ってもお釣りが出る程だとか…」
「…そんな金額、カナレリアが払える訳がないぞフェリミア」
「ええ、承知の上で交渉するのです。攻められるのは必須です。我々はどんな手でも借りねばなりません、嘘ではございますが破格の報酬で釣ります」
「フェル、そんな傭兵を雇った所で勝てるわけもないぞ!」
「エリックの言う通り、勝てる保証もない中で、噂の傭兵を雇った所で勝機は見出だせん」
「いいえ、可能性は出来上がります。隠者の弾丸は、2年前に武力国家アクストニアですら手が焼いた盗賊団"死神の衣"を2人で潰したのですから」
「なんだと!?」
エリックが驚きが隠せずに声を荒げた。
"死神の衣"は、大陸一の武力国家であるカナレリア東南に面している大国"アクストニア"が国を挙げて撃退に苦労した盗賊団である。
アクストニアは1年もの戦いが続いた中で、業を煮やした国王はある二人組の傭兵を雇った所、僅か三日で1年もの戦いに終止符を打ったのだった。
近隣国も死神の衣の名は轟いており、もう少し討伐が遅れていれば他国にまで被害が及んでいたとされる凶悪の盗賊団。
【アクストニアによる全兵力を持って駆逐】、これが近隣国に伝えられた話だが、フェリミアは独自の情報で"隠者の弾丸"(ハーミットブレッド)がやった事を聞きつけた。
「それが真実だったのなら、勝機は生まれるかもしれません」
王は深く考え込み、暫く目を瞑るとゆっくりと開き立ち上がった。
王の動きに合わせてエリック、フェリミアは静かに屈むと王はゆっくりと口を開いた。
「フェリミア・ガーナバルト宰相、其方に隠者の弾丸の件を託す。エリック・マクスウェル師団長、降伏書状は無視し続け時間を稼げてる間に防衛の準備に当たれ!要所に兵を強化し、この首都を囲む外壁にて国民全員を入れるだけ入れよ!」
「「御意」」
王の号令に2人は同時に応える。
これより、レムリア大陸で最も小さな国カナレリアにて物語が始まる。
大陸全土を巻き込んだ戦争に、2人の傭兵が撃ち開くのだった。