第六話 「医務室にて」
第六話 「医務室にて」
「ふわぁぁぁ。。。」
「あっ起きましたか?おはようございます。」
目が覚めたそこは村の医務室、時々来る零治はすぐにそこだと気付いた。そこには凛々しい青紫色の目をした花知咲さんがいて、おそらく看病してくれていたのだろう。
「えっと、俺どうしちゃってたのかな?狼型エネミーを倒して帰っていたまでは覚えているんだけどそこからは何にも。」
「その帰っている最中にいきなり高熱を出して倒れちゃったんですよ。それより気分はどうですか?まだ熱があるようなので安静にしていてくださいね。」
「そうだったのか、ありがとうな。ちょっと体が重いけど気分は大分マシだ。」
「いえいえ、何か飲み物持ってきますね。」
そう言って花知咲さんは医務室から出ていった。
戦いでは弓で大活躍するし、こういった仲間のサポートもできる、さすが関西一と言われるだけあるな。俺も見習わないと。
「しかし、ぶっ倒れるなんて初めてだな。能力を使いすぎていたからか?関東一と言われてるんだからそれらしく振る舞わないとな。」
零治はそう独り言を呟き、さっきの戦いを振り返った。
そして彼はとあることに気付いてしまったのだ。
「何で狼の眉間に矢が命中したんだ!?」
「俺が背後から奇襲を賭けられたとき、俺とその狼と花知咲さんはその順番で直線上に並んでいたはず。それに三者とも同じ方向を向いていた。」
「だから、狼の眉間に矢が当たるはずがない。曲射で当てたのか!?いやそうしたら俺に命中するリスクが高まるし、何より、あんな咄嗟の出来事の中あの精度の弓矢を射てる訳がない。
そういえば、戦う前も俺より先に敵を察知したし初めて会ったときもどこか違和感があった。
なんだこの違和感は。」
零治が長々とした独り言を言っている間に、ドアをノックする音が聞こえた。花知咲さんが帰ってきたのだろう。
「やっほー零治、起きてる?中学校からの大親友の海くんがお見舞いに来てくれたよ~!」
「ダーリン大丈夫ぅ?わたちが癒しにきてあげたよぉ。」
病人の前で大声を出してくる迷惑な二人は、関西の戦士の貞村海と、南優芽だ。
「それにしても零治、君らしくないね。主人公最強系小説の主人公みたいな君が、帰りにぶっ倒れるなんてね。正直驚いたよ。」
「知らぬ間に特別疲れていたらしい。あと俺は最強何かじゃないぞ。確かに俺は関東一何かと言われているが、実際はそんなに強くない。」
「確かに、高熱でぶっ倒れるくらいだしね。ぶっ倒れるくらい。」
「お前は本当に要らんこと言いまくるな。マジでうぜぇ。」
いつものような会話をしていると、花知咲さんが戻ってきた。
「あれっ、海と優芽も来ていたんですか。
って、零治君どうしたんですか?私をそんなに見つめて。」
さっきの違和感のせいか、零治は自然と花知咲さんを見つめていた。
「ダーリンまさかっ、未来に浮気!?それなら、完全に心移りする前に惚れ直させてあげりゅよっ!」
「浮気なんてしてないしお前に惚れてもねーよ!
あの、花知咲さんは弓道やってたって聞いたけど、かなり上手かったのか?さっきの戦いから見て相当すごい腕前だと思ったんだ。」
「未来でいいですよ。私一応プロの資格は持っていましたので。」
「そうだよ零治、未来は超一流の狙撃手なんだよ。
そういえば、零治も弓道やってたよね。他にも柔道に空手なんかも。」
「そうだったんですか!?」
「何でもやらす親だったからな。」
零治の親はどちらも一流の研究者で家にいる時間は少なく、いつも世界中を飛び回っていた。
また、姉が二人で妹が一人いて、それを受け継がせるためか、幼い頃からみんな英才教育を受けていた。
しかしそれは、あまりにも厳しすぎて耐えられたのは俺と一番上の姉だけだった。家族はみんな行方不明のままで、零治以外で生存が確認されているのは、一人もいない。
「あれっ、剣道はしてなかったんですか。」
「ああ、していなかったぞ。」
「ならなぜ剣を使っているのですか?弓道をやっていたなら、弓をもつべきではないでしょうか?」
「それは・・・・いま言うべきときではないな。」
「なんだよ、教えろって零治。別にいいじゃん。」
「じゃあ俺、熱直すために寝るわ。おやすみ。」
「逃げるなんてずるいよ!起きろー!」
疑問点や問題点はいくつかあるが、ひとまず狼型エネミー討伐作戦は成功で終了ということでいいだろう。
だが、世界には数えきれない程の敵がいる。今回の作戦は序盤の出来事に過ぎないのだ。
to be continued