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Evening Rain  作者: てぇると
文化祭編

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八十四話 Operation meeting

放課後、コーヒー牛乳のストローを咥えて何だかお久しぶりな部室の扉を開いた。


「……夕陽、おせぇ」


口を開いたのは瑛叶、だがみんな同じ気持ちのようだジトーっした目で睨まれる。両手をあげて謝罪の意を表してホワイトボード前で立ち止まる。

見回せばフルキャスト、一人ぐらい欠席があると思っていたのだが全員揃っている。そのせいか、少し暑い、人口密度が高いせいなのだろうか。


「さてと、お前ら暇なの?」


いやー、放課後なのにここまで全員集まると皆さん暇人なのかと思ってしまうよね。


「痛い! いった! おい誰だ!? どさくさに紛れてハサミ投げたの! 痛い! 紅音さんやめて! アンタその石どっから持ってきた!? 痛い、ほんと痛い!」


顔や胴体に輪ゴムや石や砂利や言葉の暴力が降り注ぐ。


「くっそ! 場を和ませようとウィットなジョークを飛ばしただけじゃねぇか……」


予想以上に酷い歓迎に思わず胸が痛む。


「分かった、始めるから石を投げないで紅音さん。さて、おま……皆様に態々御足労頂いた理由は一つ! 我らがボッチで貧乳で友達のいない雨─」


「死ね」


雨乃が投げた硬くて重い石が鳩尾にのめり込んだ瞬間だった。


「ぐっふぉ……くっそ、どいつもこいつも躊躇なく物投げやがって」


「いいから続けろバカ」


「はいはい。さて、我らが雨乃さんがとある女子グループの陰謀によってミスコンとかいう舞台に引き摺りあげられた訳ですが、このまま負けを認めるのもムカつくんで、相手の土俵に上がった上で完膚なきまでに叩き潰したいと雨乃さんから提案がありました」


俺の発言に、みんなの視線が雨乃に向く。


「ち、違う! 夕陽が勝たせるって言ったから! ちょっとしか殺意湧いてないから」


「雨乃さーん? 俺別に殺意とは言ってないけど?」


「うっさいバカ、とっとと続けなさい」


はいはいっと我儘な女王様に溜め息つきつつ、ホワイトボードを引っ張り出した。


「はい、というわけで雨乃さんを1位にしようプロジェクト、略してシンデレラプロジェクトの開始をここに宣言します」


「今のどこにシンデレラ要素があったのか、ボクにも分かるように説明してくれ」


「特に意味は無い! なんかそれっぽいから!」


「言い切りやがった……」


夢唯の質問をバサっと切り捨て、ホワイトボードにシンデレラプロジェクトを更に略したSPと書いていく。


「おい、夕陽」


「瑛叶! 俺のことは紅星P(プロデューサー)と呼べ!」


「お前変なエンジン掛かってんなぁ。んで、紅星P、作戦概要は?」


「いい質問だモブ男」


「ねぇ、俺帰っていい!?」


「冬華秘書! まずはミスコンの概要について説明してくれ」


事前に説明を頼んだ冬華に話を振ると、伊達メガネスタイルで立ち上がる。


「分かりました、紅星P」


流石冬華だ、ノリノリである。

俺の隣に歩いてくると皆に一礼して、プリントを取り出した。


「君たちほんとにノリノリだねぇ」


そう言って涼しい顔でコーヒーを啜る月夜先輩は無視をして、冬華は口を開く。


「先ずはミスコンの仕組みに付いてです。ミスコンの一位決定はその場の観客の声で決まります」


また随分と大雑把な企画である、まぁ盛り上がるっちゃ盛り上がるのかな?


「そして二つ目、化粧や服装も自由ですが、毎年皆さんドレスや着飾った服で参加する傾向があります」


水着は? ねぇ、水着は? 雨乃に水着着せて貧乳を恥じらいながら上目遣いで「ば、ばか。こっちみんな……」って言われたい。


「こっちみんなバカ」


ザクッと額にシャーペンが刺さった。


「お、思ってたのと違う」


そろそろなにかに目覚めそうだなぁ。


「いったい何を考えたんですか先輩……」


はぁっと秘書は呆れられながらも説明を続ける。


「一位には商品券五千円分が送られるそうです。そして、後夜祭ではティアラ? 的なのを頭に付けられるそうです」


商品券五千円分あったら、また雨乃はバストアップ下着を買うのだろうか。


「死ね」


ザクッと二本目が額に直撃した。


「冬華、気にせず続けろ」


「大丈夫です、眼中に無いです!」


まぁ、いい笑顔! これには僕もニッコリです。


「観客判断なので組織票……つまりは買収やネガキャンが勝利の鍵と予想されます。そして、SPですが最先が超不安です。その説明は夏華第二秘書お願いします」


ペコリと一礼すると俺の隣を夏華に明け渡す。


「第二秘書とか聞いてないんだけど?」


「私の秘書です」


「秘書に秘書って意味がわかんねぇなー」


夏華は冬華からひったくるように伊達メガネを奪うと、スマホの画面を真っ先に俺に差し出した。


「……『星川雨乃はとある男子と同居している』おい待て、なんだこれ」


Twitterに出ていたのはそんな情報、それ以外にも雨乃を貶めるような文章が出回っていた。


「雨乃さんネガキャンされてるっすよ、どします? 殺る? 殺る?」


「何でアンタはそんなに楽しそうなのよ。まぁ、今さらグチグチ言われたところで、もう何も感じないけどね」


「鉄の心臓だね、まさに」


月夜先輩がそう言って鼻で笑うと、雨乃の睨みが先輩に飛んだ。月夜先輩は睨まれて数秒後両手を上げて降参を示した。


「なんだ、要するにその情報源を断てばいいんだろ? おい、相坂手伝え」


ポーンっと手の中で弄んでいた石を文字通りと粉砕すると、欠伸をしながら南雲のモニター係として参加していた相坂に声をかける。


「うっーす。とりあえず何人シバキ倒せばいいんすかね」


「ストップだ脳筋どもッッ! 何するつもりだ!」


「「全員まとめてしばき倒す」」


これだから脳味噌に筋肉詰まってるやつは……。

馬鹿だ、こいつら俺以上の馬鹿だ。


「紅音、そのやり方じゃ夕陽君や雨乃ちゃんにも迷惑が係るからやめなさい」


優しく諭すように月夜先輩が呟くと、瞬きする間もないスピードで座った。


「夕陽、夏華、続けろ」


手のひらグルッグルじゃねぇかこの人。


「まぁ、私から話す事はもう終わったんですけどね。さてと、紅音Pどうします? 状況は完全に出遅れてますけど?」


ふむふむ、まぁ予測通りと言えば予測通り、逆にこんな弱攻撃で済んだことに感謝するべきだ。 この程度の障害は屁でもない。


「まぁ読み通りだよ、安心しろ打つ手はある」


「おぉ、いつになくゆー先輩……じゃなかった、紅星Pがクールで知的ですね」


「具体的な手は?」


月夜先輩がニヤリと笑う。


「内部崩壊っすよ」


「……君ってばエグい。誰の入れ知恵だい?」


「──悪魔の大王?」


雨乃と夢唯と陸奥と瑛叶の肩がビクッと震えた。


「メイクやドレスの方はどうするんですか? 紅星P」


冬化の質問の回答も既に出ている。


「ドレスは、紅音さんお願いできますか?」


「そうだろうと思って既に何着か見繕っておいたぞ。明日か明後日にでもきて選ぶといい」


よし、これでドレスの面はクリアだ。


「メイクはどうするんですか? ゆー先輩……じゃなかった、紅星P」


もう、無理に紅星Pって言わなくてもいいんだよ?


「確か話では向こうはプロを用意してくるって聞いたんですが?」


「大丈夫だ、コッチも最低最高な助っ人を用意してる」


その瞬間、幼馴染連中が勢いよく席を立つ。


「「「「少し具合が悪くなった」」」」


「はいストップだ。全員動くなッッ! 不穏な態度を少しでも取ってみろ、ここ何十年間で溜め込んだお前らの恥ずかしい秘密が火を吹くぞ!」


俺に数々の罵詈雑言が四人から飛ぶが気にしない。


「さて、助っ人の名前を発表しマース」


「やめろぉぉぉお! 夕陽、やめるんだ! ボクにできる事ならなんだってしよう! 頼むからやめろ!」

「夕陽……いくら欲しい?」

「夕陽、しばらく大好物毎日作ってあげるからね? ね? 早まらないで?」

「お前、友達やめるからな!? ほんとにやめろぉぉ!」


うるせぇな、どいつもこいつも。


「俺の姉、紅星夕架と紅星夕璃が大筋の作戦と雨乃のメイクや歩き方や立ち振る舞いを担当してくれます」


「「「「神は死んだ……」」」」


顔が死んでやがる、コイツら。

我が姉ながらここまでトラウマを植え付けるとか半端じゃないなぁあの姉共。


『それで勝率は? 夕陽』


画面越しの南雲が問いかける。


「あの姉共の卑怯さと俺の行動力、雨乃の容姿にお前らの協力、勝率は99.9%だ」


俺がそう言い切ると皆一様に笑い始めた。

それで、今回の作戦会議は一旦休憩に入ることになった。

まぁ、基本的にのびのびやっていたので休憩もクソもないのだが。


「……悪い夕陽、少し出てくる」


「出るってどこにだ?」


「なんでもねぇよ」


これ以上は追跡するなの意思表示、瑛叶が真剣な表情をする時は大概何かあるときだ。

サッカー部でなんか厄介事でも起こったのだろうか? などと考えていると瑛叶の後を少し遅れて追うように陸奥が席を立った。


「ちょっと長ーいトイレ」


「生理か?」


「ほんと夕陽は馬鹿ね」


「……野次馬すんならバレないようにな」


「夕陽と一緒にしないでくれないかにゃーっと」


さてはて、あのバカどもは一体全体なにに巻き込まれているのやら。せめて、こじれないことを祈るばかりだ。






※※※※※※※※※※※※※※※



人気のない廊下をたった一人で闊歩する。

渡り廊下からグラウンドを見れば後輩達が一生懸命に球体を追いかけている。いつもならばすぐにでも混ざりたいのだが、今日はそんな気分になれなかった。

渡り廊下を歩き終え、教室棟に足を踏み入れる。

長い長い階段を登りきり、いつも授業を受けている教室の前で立ち止まる。扉を叩き、反応は聞かずに教室の中に入る。


「あ、瑛叶くーん。来てくれたんだ」


耳が溶けそうなほど、甘ったるい声が耳に響く。

教室内には波崎のお仲間がまるで従者のように突っ立っている。


「それで、話ってなに?」


雨乃を陥れた主犯格との楽しい楽しい話し合いが幕を開けた。

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