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Evening Rain  作者: てぇると
日常編
7/104

七話 Hurry up

『保護』その単語で、彼女達二人が何らかの事件に巻き込まれている事が容易に伺えた。


「病気の事で何かしら誰かしらがその二人を狙っている?」


アニメやマンガでも良くある話だ、言わば『病気持ち』は常識を逸脱していると言ってもいい。それが原因で研究対象になっても別におかしい事ではない。


「は? そんなアニメやマンガじゃあるまいし。大人もそこまで暇ではないさ」


あ、コイツ殴りてぇ。


「………」


なんだろう、すっごく恥ずかしい。なんだ、なんで俺はあんなに大真面目に提案したんだ? 死にたい…恥しい。

ふと、隣を見ると雨乃がそっぽを向いて肩を震わせていた。

このアマァ…好き勝手笑いやがって!


「まぁ、夕陽君の世迷言は置いといてだ。この二人は『症状』を悪用しまくって問題を起こしているんだ」


世迷言と言い捨てやがった。


「問題?」


「彼女達二人は症状を悪用して、隣町の不良グループって言うのかな? まぁ、ヤンキー集団に襲撃を繰り返したらしい」


何やってんだその双子はバカか? バカなのか?


「……こう言っては何ですけど、その二人は馬鹿なんですか?」


雨乃が俺の言葉を代弁する。いや、いくらなんでも女二人で不良グループ襲撃は無謀だろ。いや、でも紅音さんなら出来るか?


「激しく同意です。ってか、絶対馬鹿でしょ。頭のネジ数本ぶっ飛んでますよ?」


「まぁ、理由は彼女達しか知らないからね。案外、僕達では計り知れない海よりも深い事情があったのかもね」


……まぁ、不良グループなんざ何しでかすか分からんところもあるからなぁ。


「僕の情報網に引っかかった情報だと、彼女達二人が犯人である事はバレているらしい。なんでも、明らかに厨二病臭い男が襲撃が起こった全ての日時において彼女達二人が居ることを写真を使って証言したらしい。その結果「双子狩り」するんだと」


双子狩りって……その調子で俺の姉貴達も狩り取ってくんねぇかな。

などとふざけている余裕は無い、これが事実だとするならシャレにならないレベルでまずい。


「……それって」


「あぁ、やばいね。非常にヤバイ……と言っても手は打ってある、明日には解決する算段にはなっているんだが、今日手を出されたら非常にまずい。相当殺気立ってるらしいからね」


ガタッと雨乃が立ち上がった。あぁ、動かなきゃならんのか。


「行きます、場所は!?」


「うんうん、助かるよ。君達の住んでいる所からはそこそこ遠いからね」


そう言いながら月夜先輩が雨乃に住所を教えている。なんで俺には話さないのかは今は置いておこう。

雨乃の分の帰り支度を整えながら、深く溜息をついた。


「行くわよ夕陽」


「遠いんなら一回家帰るぞ、バイクで動いた方が小回りきいていいだろ」


俺も雨乃もバイクの免許は取っている。俺達が通うこの高校は免許取得は禁止なのだが、バレなければ問題ではない。

それに、一応緊急事態だしな。


「月夜先輩、電車乗り換えて変えると時間かかるんでタクシー代貰っていいですかね?」


「うんいいよ。五千円ぐらいでいいかい?」


「十分すぎますよ。ありがとうございます」


表情一つ崩すこと無くポンッと俺の手に五千円を置いた。この人はやっぱり良く分からない。金銭感覚が狂ってのんか、人として狂ってんのか……どちらにせよいずれ確かめねば。


「今度必ず返します」


「あぁ、別にいいよ」


「金はきちんとしときたいんです。行くぞ雨乃」


俺達のやりとりを謎の微笑みを浮かべながら見ていた雨乃を急かし、化学準備室を後にして階段を駆け下り、そのまま校門を突っ切る。


流石に学校の前にタクシー止めて帰るほどの度胸はないので、ある程度の位置まで走ってから学校からある程度いった所でタクシーを呼ぼうとすると、運良くこちらにタクシーが走ってきた。

片手をあげてタクシーを止めて車内に乗り込む。雨乃がタクシーの運転手に家の場所を話している間に、俺はスマホを開いて毎度毎度お世話になってる瑛叶に電話をかけた。


『どうした?』


「部活中すまん、緊急事態だ」


『なんかあったか?』


俺のいつもと違う、真面目な声音に反応して瑛叶の声も真剣なものになる。


「お前の部活の後輩に一年九組の奴はいるか? いたら変わってほしい」


『あぁ、後輩に一人。後でキチンと説明しろよ?』


ちょっと待ってろ、と言い残して電話の向こうで瑛叶の後輩を呼ぶ声が響いた。そこから少しして、サッカー部の後輩であろう人物の声がスマホ越しに聞こえた。


『もしもし? 』


「あー、急に悪い。早速で悪いが、一年九組に在籍している暁って双子の姉妹の事を知ってるか? 時間が無い、手短に頼む」


『暁って…あぁ、夏香と冬華ですか?』


「そうだそうだ! 仲がいいなら話が早い」


『仲は別に普通ですけど…それで、何が聞きたいんですか?』


「暁姉妹はどんなやつらだ?」


『…? なんで?』


「すまん、説明している暇がない」


『分かりましたけど…えっと、暁姉妹は美人でも有名ですけど強気なことでも有名です、あれは強気ってより自身に満ち溢れてるって感じですかね』


強気…か。


『あの2人って髪色が桜色じゃないっすか? それで、クラスの女子達に目をつけられて、入学して三日目で苛められ始めたんですよ。そしたら、虐めてたリーダー格とかの女子を自分達から呼び出したらしいんです』


その先は予想通りだった。要点を纏めると、いじめっ子達を呼び出して『症状』を使って脅したのだろう。次の日からリーダー格の女子は不登校になり、その取り巻き達は人の変わったように暁姉妹にヘコヘコしだしたらしい。中には二人の顔を見るだけで怯える女子生徒もいるらしい。


『……っと俺が知ってるのはこんぐらいですね』


「すまん! 助かった! 瑛叶にジュースでも奢ってもらってくれ!」


『あっ……それと! 二年と三年の先輩に興味があるって言ってました! 確か……』


別に色恋沙汰とかどうでもいいが、質問に答えてもらった挙句こちらから一方的に切るわけにもいかず話に耳を傾ける。


『二年の……茶髪でやる気の抜け落ちた目で有名な、何だったかなぁ。そう! 確か夕陽先輩って人です』


はい、俺の名前でした。えっ、一年の間でやる気の抜け落ちた目で通ってんの俺!?


『それと、三年の死の赤(デッドレッド)で有名な夜空 紅音(よぞら あかね)先輩と金髪私服の男の先輩が気になるって言ってました』


出たよ死の赤(デッドレッド)紅音さんと私服金髪の誰かさん。

ここに来て、知ってる人間のオンパレードだ。てか、一人目俺だし。


「そうか、ありがとう」


そう言って電話を切った、気がつけば家の近く。雨乃は俺の心を読んでいたため内容を説明する手間はかけなくていい。


「……雨乃、多分間違いねぇよ。」


「夕陽風に言うなら「めんどくせぇ状況」だね」


「あぁ、その通りだ。めんどくさい。そして、俺はもうちょっとやる気のある目で生活しようと心に決めた」


間違いない、暁姉妹は『病気』を『能力』と勘違いしている。

そして余程酷く『依存』しているのであろう。でなければ、不良グループに喧嘩を売ったり、クラスの女子を不登校にしたりと紅音さんみたいな事が出来るはずがない。


そして、これは推測に過ぎないが、あの二人もあの二人で髪色のことについて気づいているのでは?


「夕陽、着いたわよ」


そう言われ気づくと家に着いていた、運転手に金を渡しお釣りをもらう。ここで、「釣りはいらない!」と言えたらカッコいいのだろうが正直そこまで焦っている訳では無いし、なにより勿体無いと考える俺は貧乏人思考だ。


玄関で靴を脱ぎ雨乃の後を追うようにして階段を駆け上がった、隣の部屋から布が擦れる音が聞こえるので着替えているのだろう。覗きたい気持ちをぐっと抑え、自室に入り制服を脱いで急いで着替えた。


部屋から出ると丁度雨乃も着替え終わったようで、そのままバイクに乗って場所まで行こうかと思ったが、雨乃のバイクのキーが無い。多分、一度帰ってきた雨乃の父親の雨斗さんが乗って仕事に行ったのだろう。


「あの馬鹿親! 夕陽、しょうがないから二人乗りで行くわよ」


残る俺のバイクはドラッグスター400、東京で暮らす両親に免許を取ったと言ったところ、日本に帰国した際に買ってくれたものだ。

とゆうか、二人乗りって高校生できたか!?


「緊急事態だからいいの! ほらメット!」


投げられたメットを受け取り、外に出る。

まぁ、いずれは雨乃を後ろに乗せて街に繰り出したいとは思ったりもしていたが、こんなに早く機会が来ると心の準備というものがあるし、なにより何か照れる。


「なにしてるの夕陽! 早く乗って!」


……お前が運転するのかよ。


「……」


唇を噛み締めながら後ろにまたがる。


「捕まっててね!」


エンジンを入れると子気味のいい排気音が響く。

ん? まてよ、雨乃は運転しかできない、抱きついてもOKじゃねぇか!!


「……抱きついてもいいけど、変なとこ触ったら後で100回殺す」


「ジョークだって、ジョーク」


なんか、違う気がするんだよなぁ。これ普通は男が運転するもんじゃない?


背後から雨乃の腹の辺りを抱くようにして手を回すと、バイクが勢いよく走り出した。自分で運転するのと誰かの背後に乗るのじゃまた違った良さがある。


雨乃の柔らかさを全身で感じつつ、どうやって説得するかを考える。大体なぁ、余計な事に首突っ込まんでもと思うんだけど雨乃さんがやるって言うならやらない訳には行かないじゃないですか?

てか、やっぱり運転したかったんだけど。


ボーッと考え事をしていると、気がつけば隣の隣街ぐらいまで来ていた、閑静な住宅街の道路を一台のマシンが駆け抜ける。

アレだな、時刻も相まって裏切りの夕焼けとか歌いたい気分だな。


「ッ!」


バチッと思考にジャミングが入る、雨乃の思考が逆流してきたのだ。器用なことやるよコイツも。前を見れば桜髪の双子。


「雨乃ッッ!」


分かっている、とばかりに雨乃は速度を落として彼女達二人の前に車体を滑り込ませた。

雨乃に代わり、俺はメットを外し呆気に取られる暁姉妹に声をかけた。


「お前ら暁姉妹だな?」


コクリと頷いた、まぁ分かっていた事だ事実確認のようなもの、俺らの学校の制服に桜髪の奴が何人もいるはずは無い。

えっと、とりあえず保護すりゃいいんだよな。


「お前ら、今日は俺の家に泊まれる」


言ったあとに言葉足らずなことに気づく、あーやっちまった。

直後、バイクを降りた雨乃にドロップキックを喰らったのであった





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