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Evening Rain  作者: てぇると
夏休み編

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六十七話 Tears night

「瑛叶、火は付いたか?」


「着火剤いれてるから着いたよ。南雲、炭とってくれ」


「あいよ」


「なんで僕まで」


男四人で晩飯のBBQの用意を着々と進める。

女子陣の逆鱗に触れ、一時は皆殺しの可能性も考慮されたが、何とかBBQの準備だけでいいという甘めの採点がきた。


「いやぁ、しっかし以外にも南雲が一番怒られてたな」


そうである、お仕置きレースは満場一致の俺独走だったのだが、一番仕打ちがエグかったのが南雲だった。


「……うるへー」


軍手で炭を掴んで火の中に放りながらバツの悪そうに南雲が呟いた。


「まぁ、何にせよ正式カップルおめでとー!」


適当に炭を掴んで手を汚し、南雲の頬を挟んだ。


「うぇ! 汚れてんじゃねぇか!」


「おめでとー&死ね」

「めでたいねー」


二人も俺に習って手に炭をつけて南雲の顔を汚している、本人は照れているのか、それとも諦めたのか抵抗をやめて顔を真っ黒にされていた。


「まぁ、でも不本意な付き合い方ですよ」


南雲は南雲なりにプランがあったのだろうか? 少し悔しそうに呟いた。


「まぁでも、『え、俺たち付き合ってんの?』って台詞はねぇよな」


意地の悪い笑みを浮かべながら南雲が食材を並べていく。

まぁ、あの二人の間に勘違いがあった結果がコレだから、きちんと確認してなかった南雲が悪い。


「夢唯ちゃんは南雲君と付き合ってると思ってた、南雲君は夢唯ちゃんとあやふやな関係のままだと思ってた」


炭を空中に投げながら、月夜先輩が意地の悪い笑みを浮かべながら解説を始めた。


「その結果、説教の途中でその勘違いが露見した。夢唯ちゃんの『ボクだって彼女なんだから嫉妬しない訳じゃない』って言葉に対して『え、俺たち付き合ってんの?』とかいうエグい台詞吐いて泣かせたんだよねぇ」


「シャラップ私服先輩!」


ビシッとトングで月夜先輩を指しながら南雲が呻く。


「だってアイツほんと感情とか思ってることとか分かんねぇだもん」


「「「はい言い訳ー」」」


「ほんとお前ら性格悪いな!」


まぁ、なんにせよおめでたい。

本日の主役は夢唯と南雲でいいのではないだろうか。


「まぁ、告白の仕方も酷かったけどなぁ」


瑛叶が南雲の肩に手をかけながら笑う。


「言うな、我ながら酷いと自覚してっから」


「なんでしたっけー?」


瑛叶の煽りを俺が引き継いだ。


「えっと、んじゃ、付き合う?」


南雲の口調を軽く真似ながら、告白のシーンを再現してやると石が飛んできた。


「夕陽! テメェ、ぶっ殺すぞ!?」


南雲の叫びを聞きつつ、静かにベランダの石段に腰をかける。

夏のぬるい夕暮れが身体を包めば、不思議と変な欠伸が胸の奥から溢れ出ていた。


「なーに感傷に浸ってるんですか先輩」


その声と同時に首筋に冷たい塊が押し付けられる、声の正体も冷たい塊の正体も分かっていた。


「ありがとな、冬華」


冷えたコーラを受け取りながら礼を言うと、俺の隣に冬華が腰掛けた。


「全くですよ。ホントなら3回ぐらい殺した後に土葬火葬のオンパレードと行きたいところなんですけど、なんか夢唯先輩と南雲先輩くっついちゃいましたし? 恩赦でいいです恩赦で」


「そいつは感謝感激雨あられだな」


「ですです」


そう言ってぼーっとしていると、俺の顔をのぞき込むようにして冬華が笑う。


「先輩は誰かと付き合わないんですかー?」


「失恋しちまったしなぁ、新しい恋を探してるよ」


「……」


「どうした?」


突然閉口して固まった冬華の前でブンブンと手を振ると、スグにいつもと同じ小悪魔フェイスに戻って笑う。


「いやぁ、変な方向に拗れてるなぁと。まぁ、いいです」


「……?」


「それじゃ、そろそろ戻りますね!」


そう言って駆け出していった。

何だったのだろうか、あの間は? あ、あれか? 俺が失恋したからアタックして来るとか?


「ありえるな」


いやぁ、モテる男は辛いわぁ。

とかいいつつも、ぶっちゃけ恋とかどうとかは暫くいいです。


コーラの強炭酸が器官を穿ち、軽くむせながら空を見上げた。

もう時期、日が暮れる。








※※※※※※※※※※※※※※※※※




「うめぇぇぇぇぇ!」


味付け完璧、肉厚完璧!


「おーい馬鹿共! もっと食え!」


ニコニコ笑いながら紅音さんが肉を焼き続ける。

先輩にやらせるのは申し訳ないので変わろうかと申し出たが「変な気回してねぇで食え食え」と言われて、引き下がってしまった。


「うめぇな、まじで」


「だな」


南雲の近くに腰掛けて、肉を貪る。


「夢唯のとこ行かんでいいのか?」


「ん、妙に照れくせぇし」


「くたばれリア充」


「その怨嗟も心地いいぜ」


ふはははと笑いながら箸でビシッと俺を指す。


「お前はどうよ?」


「……聞いてくれるな」


「水族館ではいい雰囲気だったじゃねぇか」


「気付いてたのかよ」


「深淵を覗く時、深淵もまた覗いているのてす」


ニーチェかよ、しかも何かところどころ違くない?


「……高二で中二病?」


「夢唯のが移った」


「だろうとは思った」


ぐいっと一口、ジンジャエールを呷った。肉とジンジャエールの親和性は果てしなく素晴らしい。


「んで、どうなった?」


「回って回って遠回りを繰り返した結果、失恋しました」


「……馬鹿かお前は」


言われなくても知ってるよ、嫌ってほどに。


「んな面するぐらいなら、とっとと告れば良かったんだよ」


「うるせー、繊細なんだよ」


「それに……どうすっかなぁ、言っていいのかなぁ?」


悶々と顎に手を当てて悩む南雲に不信感を覚えつつ、待ってる間に骨付き肉にかぶりついた。


「んまぁ、迷う前に現実を見ろよ」


「あん?」


「お前は直ぐに考えるばっかりで現実を見ようとしねぇから言ってんだろ。頭ん中で考える前に、自分の目の前に居る人間の表情とか喜怒哀楽見て判断しろって言ってんだよヴァァカ!」


うわぁ、素晴らしくムカつく。


「シバキ倒すぞテメェ」


「はいはい、ジンジャエールとってこい」


「……チッ! ホントムカつくなお前! まぁ、俺も飲みたいから取ってくるけども」


ぶつくさ文句を言いつつも、俺も飲みたいからジンジャエールを取ってくることにした。


ガランとした室内に入れば、屋外とは違う静けさが体を包み、少しだけ身震いした。

室内からガラス越しに屋外を見渡せば、皆一様に楽しげに笑っていた、そこに居るはずの笑顔は無く、目で軽く探していた。


「誰探してんの」


「うぉ!?」


突然背後から声をかけられ、心臓が跳ね上がった。


「……なによ」


「イイヤベツニ」


目を背けたら殺される。

そんな気がして雨乃と目を合わせたまま後ずさる。


「……何よその反応」


「目が怖いんだよ!」


「アンタねぇ!」


「OK分かった、失言だった!」


人の頬を抓ろうと迫る雨乃を寸前のところで回避して、冷蔵庫を開けた。


「ナンパは楽しかったですかァ〜?」


カウンターに腰掛けながら雨乃が嫌味ったらしくそういった。

グラスに水を継ぎながら、俺も嫌味で返す。


「貧乳幼馴染に虐められるよりは楽しかった」


「死ね、馬鹿」


「夕陽さん馬鹿たがら死に方わかんねぇ」


悪態をつきながら、彼女との視線を外す。


「アンタ、本当にムカつくわね」


「あん? 何がだよ」


「全てがよ」


「そうですか」


舌打ち混じりに、イラつきを吐き出した。

何をイライラしているのだろうか、俺は。何にイライラしているのだろうか、彼女は?


「こっち見なさいよ」


「いやだ」


「見なさいって」


「絶対嫌だ」


トンっと彼女がカウンターから飛び降りてコチラに迫る、足音でそれを聞きながらワザとらひく振り向いて冷蔵庫に再び手をかけた。


「何イラついてんのよ!」


「お前だってイラついてんじゃ──」


カッとなって、テーブルにジンジャエールの缶を叩きつけるようにして置きながら、雨乃の方に振り返ったその瞬間だった。

勢い余って彼女のが床に敷いてあるマットに躓きよろめいた、それだけならまだ良かった。

だけど──


「……」


「……」


ゴンっと鈍い音と共に、頭を冷蔵庫に打ち付ける音が耳元で響いた。もちろん、打ち付けたのは彼女じゃない、転けそうになった彼女を抱き抱えるようにして後ろに下がった俺の後頭部だ。


「痛ってぇ……」


抱きかかえたまま、ズルリと床に腰を下ろす。

目を開ければ、そこに彼女の顔があった、極至近距離で彼女と俺の目線が交差する。


「……夕陽」


艶っぽい唇から、滑らかに俺の名が呼ばれた。

彼女の吐息が、鼓動が、全てが聞こえそうな距離で暫く固まってしまう。


「……」


「……」


沈黙が俺を殺す。

ガラス越しの向こうの笑い声が、痛いほど耳に焼き付いた。


「私は……」


何十トンもの重さの沈黙を打ち砕いたのは、彼女の声だった。

潤んだ瞳で俺を見つめる。


「私は……アンタが」


その言葉の続きは一体……?

彼女の言葉の続きを待つ数秒が永遠に感じる。

だが、聴こえてきたのは衝撃音だった。


「おーい、おっせぇぞ夕陽ィ! って、悪ぃ! 邪魔した」


南雲が乱暴に窓を開いてコチラに来るなり、そう言って固まって逃げるようにして出ていった。


「……」

「……」


慌てて出ていった南雲の背中を二人して眺めながら、再びの沈黙が再開された。


「おい雨乃?」


そして雨乃は俺の手を解いて静かに立ち上がった。

その表情に映る感情はなんなのだろうか? 怒りとも悲しみとも悔しさとも虚しさとも取れる不可思議な笑顔で俺を見る。


「おい雨乃!?」


「来ないでッッ!」


「……!」


「何でもないから、大丈夫だから、お願いだから今は……来ないで」


その金切り声に思わず身体が固まった。

そして、その次に絞り出された幼子の駄々のような弱々しい言葉で胸が痛んだ。

そのセリフだけ残して、彼女は別口から外に飛び出して行った。


「何やってんだ俺は」


ズキズキと胸が激しく痛む、症状を酷使せど酷使せど、その痛みは消えてはくれない。

なんと声をかければ良かったのだろうか? 掛ける言葉が見つからなくて、この現状に頭が付いていなくて、不甲斐ない。


「何でもねぇなら」


テーブルに置いたジンジャエールを掠めとり、プルタブを開ける。


「何でもねぇなら何であんな面してんだよ、雨乃」


缶を傾けて一気に中身を流し込む、喉を伝う液体が運ぶ刺激が全身に響き舌が痺れた。


「意味わかんねぇ」


やっぱり、ろくなことが無い。

大人しく幼馴染に甘んじていれば良かったのだろうか?

思えば思うほどに拗れて絡まって結局は消えていく、高望みした結果、築き上げてきた彼女との全てを失うのならば。


───俺はもう何も望まない。



こみ上げてくる不甲斐なさと苛立ちをかき消すように、ジンジャエールを飲み干した。


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