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Evening Rain  作者: てぇると
夏休み編

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六十六話 Bikini with sun


「何がダメなんだ……」


哀愁漂う表情で瑛叶が嘆く。


「全てだろ」


やつれた顔になった南雲が缶コーヒーを啜りながらボヤく。


「模になりたい」


完全にテンションが下がっている俺が嘆く。


ただ今、全戦全敗中。

小1時間経った今、我々哀れなる男子諸君は海岸沿いの石段の上で項垂れているのであった。


「大体が南雲のせいだ! 何なんだあのアホみたいなセリフは!」


「あぁん!? てめぇがグルにナンパの必勝テクとか張ってたからそれを丸パクリにしただけだろうが!」


「そして夕陽! 目が死んでんじゃねぇか!」


「うるせぇ、お前の眼球も殺すぞ」


「ブラック夕陽!?」


はぁぁぁぁぁぁ。

ダメだ、もっと簡単だと思ってたァァ。


「鼻で笑われた時には心が折れるかと思った」


「バカ言うな、流石に胸が痛い」


瓶コーラ指で弾きながら、南雲が戦争の引き金を引いた。


「お前らが悪い」


「「あん?」」


「南雲はガラ悪い、夕陽は面が悪い」


「「あぁん!?」」


二人して勢いよく立ち上がり、クソ野郎を取り囲む。


「大体がテメェの目が血走ってるせいだろうが!」


南雲が青筋を立てながら捲し立てると瑛叶は自虐的に鼻で笑う。


「クソ童貞が、その使い道のねぇチ〇コ引きちぎってやる!」


「テメェも童貞だろうが夕陽ィッッ!」


「テメェと一緒にすんじゃねぇよバゥァァァカ! 俺は3分の1は非童貞だ」


「バカみてぇなこと言ってんじゃねぇぞ大馬鹿野郎! なんだよ3分の1非童貞って! 睾丸潰すぞッッ!?」


ガンっと頭をぶつけ合いメンチを切る。

クソがァ、こっちは色々色々ありまくってイラついてんだよ。


「はっ、惨めだな童貞共」


「お前は黙ってろ! クソ女ったらしが!」

「お前のようなヤリチンには夢唯はやれん! 失せろ!」


「なんだとゴラァッッ!」


ゴンっと鈍い音を立てて頭が一つ追加される。


「いいぜ、クソッタレ共、蹴りつけようじゃねぇか」


南雲がニヤリと笑いながら、火種を灯す。


「一人一人、個別にナンパと行こう」


その言葉に一瞬思考がついて行かず、考えてしまう。


「じゃんけんで順番決めて、負けたヤツから適当な女子(可愛い)に声をかける」


「勝敗はどうやって決めんだよ」


「簡単だよ、ナンパに成功したやつの勝ち、3人とも成功したら全員勝利、3人とも失敗したら全員敗北、一人だけ成功したらそいつの一人勝ち」


「いいじゃねぇか簡単で」


南雲の口角が吊り上がる。

そうか、じゃあ俺の一人勝ちだな。


「おっし、乗った」


突き合わせていた頭を離し拳を構える。


「行くぞォ!」


「「おう!」」


南雲の音頭と共に、声が重なる。


「「「さいっしょはグー! じゃんけんポンッッ!」」」


勝負は綺麗にわかれた、俺の一人勝ち。


「「チッ!」」


「はっ! やっぱり神様は俺の見方なんだよなぁ!」


勝ち誇ったように笑みを浮かべ、一人高みの見物に入る。

あー、気持ちいいなぁ! 一人勝ちというのは!


じゃんけんの結果、1番手は南雲、2番手は瑛叶、最後は俺という順番になった。


「んじゃ、行ってくる。俺の華麗な手口をそこから見てろ」


「あいつほんとチンピラだな」

「おーい、南雲! サングラスはすんなよ? チンピラだから」


「クソが! 吠え面かかせてやる!」


そう言ってチンピラ感マシマシの南雲は死地に飛び込んでいった。


「どうなると思うかね、クソ童貞」


「失敗するに決まってんだろバカ童貞」


誰がバカ童貞だこの野郎! という気持ちをグッと押し込めて南雲の死に様を目に焼き付けようと、少し離れた位置から観察をする。


「お、あいつ無謀にも結構レベル高い子に行ったな」


南雲が指で輪っかを作り双眼鏡にしながら、バカにしくさった声を漏らした。茶髪ショートのダウナー系美少女という感じだ。

アイツ、やる気のなさそうなタイプの子が好きだよなぁ。


「お、自然に声掛けしましたね。解説の夕陽さん、どう思いますか?」


「流石はチャラ男ヤリチンという所でしょうか、遺憾無くクソ野郎の手腕を発揮していますねぇ」


「実況は私、超絶イケメンこと瑛叶。解説には馬鹿野郎の呼び声が高い夕陽さんをお呼びしています」


唐突に瑛叶の始めた実況解説ごっこに興じつつ、行く末を見守る。


「南雲選手、軽快なトークをしつつ海の家に誘導しています。どう見ますか夕陽さん」


「流石はチンピラですね、このまま食べ物や飲み物で釣る気でしょうか。きったねぇ」


「夕陽さん、本音漏れてます」


軽い身振り手振りと、元の顔の良さを生かした爽やかな笑顔。

おいおい、初っ端から成功とかモチベ下がるからやめてくれない?


「おおっと! 女性が指示する通りの物を購入しているぞ! どう見ますか夕陽さん」


「結構買ってますね、たこ焼きにかき氷、ジュースにフランクフルト」


おっと、流れが変わった。


「うっわぁ、マジか。後ろから突然現れた男性が南雲に頭を下げて女性を引き連れて離れていったァァァァァァ!」


来たァァァァァァァ!

バゥァァァカ! バゥァァァカ!


「ギャハハハハ! 馬鹿だ、奢らされただけじゃんかアイツ」


「彼氏さんお礼言ってんじゃねぇか! やっべぇ、腹筋が終わるぅぅぅ!」


まんまと奢らされただけの南雲の哀愁漂う姿に涙を流しながら笑い転げる。

フハハハハハ! 他人の不幸は気持ちいいなぁ!


「やばい、アイツのこと抱きしめてやってもいい気分だ」


とぼとぼと歩いてくる南雲をみて、そんなことを言いながらゲラゲラと瑛叶が笑う。


「……笑いたきゃ笑えよ」


ふっと自虐的な笑みを浮かべながら、南雲がため息をついた。

じゃあ、遠慮なく。


「「ざまぁwww」」


「やっぱし一発ずつ殴らせろ!」


一通りバカにしたあと、瑛叶が指で涙を拭き取って立ち上がった。


「んじゃ、行ってくるわ」


「「骨は拾ってやる」」


「負けるの前提なのやめてくんない!?」


そう言いながら、海の家付近で瑛叶の声掛けが始まった。


だが、可愛そうな程に断れ続ける。

流れすら変わらない、UCすら流れない。


「あっ、戻ってきた」


十分経ったあたりで、とぼとぼと瑛叶が戻ってくる。


「……もういっそ殺せ」


「「どんまい」」


瑛叶の肩を叩いて、茶化さずにそう言うと両手で顔を覆い、ブワァっと泣きだした。


「同乗するなら女をくれ」


その発言は色々とアウトですよ、瑛叶さん。


「さーてと、そろそろ俺の出番かな」


ニヒルに笑いながら髪をかきあげて気合を入れる。

神様はきっと俺の味方なんだ、告白すらせずに失恋した俺をきっと慰めてくれるのだ。


「はぁ、全員負けか」

「しゃーない、たまたまだよ」


瑛叶と同じ扱いなのが心底納得できない!

まぁ、いいさ。吠え面かくのはコイツらだ。


「見てろ、ギャフンといわせてやる」


「ギャフンって死語じゃね?」


「シャラップ瑛叶!」


そう吐き捨てて、海の家まで歩く。

うぉぉ、なんかドキドキしてきたぞ!


「黒髪で可愛い子がいいなぁ」


そんな愚にもつかないことを考えつつ、緩みきった顔に気合を入れる。いつもの馬鹿面さえ直せばイケメンなのだ(個人的感想)高望みしなければいけると思う。


「っても、中々グッとくる子が居ねぇな」


海の家付近をゆっくりと歩きながら、好みの女の子を探す。

あいつら、声掛けただけでもすげぇな。特にフラれまくってた瑛叶。


「うぉ」


思わず声が漏れる。

眼前にいた少女はまさに俺の好みのドストライクだった。


黒く長い艶やかな髪を肩まで伸ばし、人懐っこい笑みを浮かべる少女、身長は少し低めでスタイルはスラットしているにも関わらず出るとこ出ている。


「あ、あの」


「……?」


そんなドストライクな少女に気がつけば声をかけていた。


「お一人ですか?」


「えぇ、友達と離れてしまって。高校生になるのに恥ずかしいですよね」


あはははっと柔和な笑みを浮かべて、少女は口を開いた。


「お兄さんも一人ですか?」


「え、えぇ。俺もツレとはぐれてしまって」


「そうなんですか、じゃあ私と一緒ですね」


仲間だと思ったのかパアッと花のような笑顔を浮かべ、少女が笑う。


「あの、もしご迷惑じゃなかったら一緒に探しませんか? 二人で探せばその分早く見つかるかもしれませんし」


「いいんですか?」


「俺も、はぐれてしまって困ってたんです。だから、その、お互い様というか」


「ありがとうございます! 優しいですね、お兄さん」


「いや、全然」


純真無垢な視線に下心丸出しの自分に罪悪感を抱きつつ、話題を変える。


「アナタが探している人ってどんな人ですか?」


「えっと、茶髪で少し抜けてる感じの子なんです」


「へぇ、なんだか俺と似てますね」


グッジョブ、お姉さんのツレ!

話題が広がる!


「お兄さんのお連れの人はどんな人なんですか?」


「あぁ、俺のツレですか? えっと、一人は──」


言いかけた瞬間だった、少女の両手が俺の肩に触れた。


「ど、どうしたんですか?」


「いや、その、お兄さんのお連れの人って」


その一言と共に少女がにやりと笑う。

そして、少女とその周りの景色がグニャりと歪んだ。


「一人はピンク色の健気な後輩で」

「もう一人は黒髪の幼馴染じゃないですか?」


オレノ リョウカタニ ソレゾレ テヲオク フタリノ アクマガソコニイタ。


「……さらばッッッ!」


深くは考えずに、防衛本能の赴くままに全力で逃げ出そうとした。

だが! 逃げられない!


「せーんぱい、逃がすと思って?」

「ゆーひ、逃がすと思った?」


「いやぁぁぁぁぁ! ヘルプミィィィィィ!」


離れた所で待機する仲間達に対して叫びながら目を向けると、惨劇が広がっていた。

ジャーマンスープレックスで砂浜に顔面から埋められる瑛叶、正座のまま説教される夢唯。


「マジかよ」


「せーんぱい、一応何してたか聞いてあげます」


「そうね、一応聞いてやるから話なさい」


か、考えろ! 言い訳を考えるんだ! やればできる子! 夕陽さんはやればできる子! 大器晩成っていつも母さん言ってた!


「こ、今後の女性との紳士的な御付き合いの仕方について、海の家という場所での街頭インタビューにですね?」


「ふふ、先輩ったら冗談がお上手ですね」

「あら、夕陽ったら冗談が上手いわね」


人の両肩をシッカリ固定したまま余った片手をポキポキ鳴らす二人の女性に戦慄しつつ、打開策を必死に考える。


「ゆー先輩、とっとと諦めた方がいいですよー? 2人ともナンパの証拠揃えてますし、先輩の好きそうな女性像をあー先輩が支持して、それを私と冬華の症状で創り出したんですから」


「夏華ァ! 好きなもん買ってやるから助けてぇぇ!」


「いーやです♡」


「クソぉぉぉぉお!」


ちくしょう! 夏休み前のファミレスの俺の首を絞めて昇竜拳かましてぶっ殺してぇ!


「アンタッて本当に人に期待させて期待させて……あぁもう! とりあえず殴らせろ!」


「夕陽先輩ってば面白いですね? 人の告白二回振っておいて、良くもまぁナンパなんて」


おっと、やばいぞ。

雨乃の顔も、冬華の夕陽先輩呼びも!


「「お前の罪を数えろ」」


「ダブルっっっっ!」


ここで一句、儚くも・浜辺に散った・バカの夢


正当な女子の怒りをその身に受けながら、ぼんやりとそんなことを考える夏の夕暮れ。

あぁ、ちくしょう。いいことが何も無い。


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