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Evening Rain  作者: てぇると
夏休み編

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五十二話 聖戦・後編

ジリジリと距離を詰められる。

ゴリラ4匹に囲まれた、哀れな男は成すすべもなくボコボコにされるのか!?

つーか、ジャーマンスープレックスとか口走ってる奴までいるんですけど!?


「レインメーカー?」


「やだー、どっちみち死ぬじゃないですかァァァァ!」


どうする!? どうやって逃げる!?

暴力的手段に訴える……駄目だ、あとが怖い。

雨乃を押し倒す……駄目だ、これもあとが怖い。

素直に土下座……バーサーカーみたいになってる紅音さんが見逃してくれるとは思えない。


「あきらめなさい夕陽。辞世の句ぐらいなら聞いてあげる」


フワッと横髪をかきあげながら雨乃が凄惨な笑みを浮かべる。ちくしょう! 可愛い!


「……貧乳だ、貧乳なのか? 貧乳だ」


「「殺す」」


冬華と雨乃が同時にドスの効いた声を出した。


よし、悔いはない。

やるならやれぇぇぇぇぇ!


「はーい、ストッープ」


遊具の上から声がかかる。

カーディガンを靡かせながら太陽を背にして、不敵に笑う英雄が立っていた。


「月夜先輩ぃぃぃぃ!」


大好き! マジ大好き! カッコイイ、抱いて!


「君たち、牢屋見てみなよ」


その言葉に釣られて、俺を含めた全員が少し移動して牢屋の方に視線を送ると、そこには瑛叶と相坂が南雲を救出していた。


これってつまり……?


「牢屋から脱出させたから、二分間は警察側は泥棒側を捕まえることが出来ない。大人しく、夕陽君を置いて牢屋に帰って二分数えることだ」


「月夜ォ」


ギリッと歯ぎしりしなから悔しそうに紅音さんが呻く。


「ッと! さ、逃げるよ夕陽君」


遊具の天辺から華麗に飛び降りた月夜先輩は俺を先導するように進んでいく。

やべぇ、初めてこの人のことカッコイイと思った。


「夕陽」

「せんぱーい」


逃げるように距離をとる俺の背後から二つの声が掛かる。


「ひゃ、ひゃい!」


「「最後に殺す」」


──これって、ケイドロだよね?



・・・・・・・・・・



「ナイス! 囮」


合流した瑛叶から茶化すような煽りを食らったため、ついつい飛び蹴りを喰らわせる。


「あぁ、怖かった。死ぬかと思った……」


「おつかれ、よく耐えた」


恐怖と安堵で震える俺の肩を叩きながら、月夜先輩が微笑む。


「うぅ……あれ……俺って確かケイドロしてて……それで、どうなったんだっけ?」


頭を抑えながらうわ言のように南雲が独り言を呟き続ける。紅音さんのあの豪速球を受けたらこうなるのか、怖い。


「それで、どうします?」


相坂が生い茂ったいい感じの草むらに隠れながら、あのゴリラ共に対抗する策を練る。


「なぁ、これって本当にケイドロ? 戦争かなにかじゃないの?」


「残念ながらケイドロだ。意識飛ぶ系の」


「なんだよ……意識飛ぶ系のケイドロって、聞いたことねぇよ」


瑛叶と南雲がコントのような会話を交わすのを尻目に、牢屋の様子をスマホの双眼鏡アプリの超ズーム機能で確認する。


「……夕陽君、動きは?」


「なんか、喋ってますね。あと、キョロキョロ辺りを見回してます」


女子陣はキョロキョロと当たりを見回しながら、談笑している。あんなにいい笑顔で笑っているが、今からあの女子共がやろうとしていることは鬼畜の所業である。


「瑛叶、残り時間は?」


最近買ったらしく、最新型の腕時計をいっつも自慢してくる瑛叶に聞くと。以外にも嬉しい返答が帰ってきた。


「あと十分」


「「「「おぉ!」」」」


周りからも感嘆の声が漏れる。

あと十分乗り切れば、死なずにすむんだ。


「そろそろ、二分経ちます」


よし……やるか。

あと十分生き残ればいい、誰を蹴落としてでも。


「うっし! 二度も同じ轍は踏まん! 次こそは華麗に逃げ切ってみせ……」


ゆっくりと立ち上がりながら宣言しかけていた南雲の言葉がそこで途切れる。

そして──


「ブッッッベラッッッ!?」


人体から出るのか不思議なくらいの音が南雲から響き、南雲の体は宙を舞い、地面に叩きつけられバウンドして無残にも転がった。


「南雲ぉぉ!?」

「ちょ、南雲さん!?」

「嘘だろ……逃げろ!」

「ちょっと待って、殺しに来てるってこれぇぇ!」


四人の声が重なる、南雲はピクピクと震えて動かない。

そして、悪魔の声が響いた。


「さぁ、お前らの罪を数えろ」


「解ッッッ散ッッッ!」


「「「オッス!」」」


張り上げるような月夜先輩の声に反応して、全員が散りじりに逃げる。だが、俺の方には。


「雨乃と冬華か……」


ターミネーターみたいな面で走ってくる化物二匹が俺の背後に迫る。背中がピリピリするような雰囲気が出ている、すごい命の危機とか感じるんだけど? 死ぬよね? 捕まったら死ぬよねこれ?


「「ふしゅぅぅぅ……!」」


人間やめてるだろコイツらッッッ!

助走をつけて腰の高さぐらいある壁の出来損ないみたいな物を飛び越える。スカートの女子にはキツいだ……飛び越えやがったよ。


どう逃げる? どうやって巻けばいい!?


「うおっ!?」


ビュッ! と風を切る音と共にボールが鼻先をかすった。

チッ……殺しに来てやがる!


「今ならジャーマンスープレックスからのレインメーカーで許してあげるわよ夕陽?」


「後ろから首に絡みついちゃいますよ? せーんぱい」


怖い怖い怖い怖い! 首元に絡みつくって殺しに来てるじゃないですかぁ!?

逃げてる間も、横合いからちょくちょくボールが飛んでくる。飛んできたボールは木にあたっては変な摩擦音と共に動きを止める。


「どうにかしねぇと! まじで不味い!」


「最近の先輩ってばぁ、ちょーーっと色んな女の人にデレデレしすぎじゃないですかぁ? 私の気持ちも考えて欲しいなぁって」


「冬華に全面的に同意。最近あんた、鼻の下伸ばしすぎ」


後ろから背中が燃えそうなほどの熱視線で睨まれる。

いやーん、俺ってモテモテ(棒)


「ちょっと待って! それは男の習性って……うぉぉぉ!?」


「チッ! 外したか」


マトリックスばりの回避技術で二連続で紅音さんから飛んできたボールをかわしながら、草むらに転がるように飛び込んだ。


「ちょ! あー先輩! 冬華! 相坂がそっちに逃げた!」


「「チッ……了解!」」


ナイスタイミングで助け舟が出てきた。

夏華の声に反応して、一瞬だけ二人の判断が鈍ったその隙に、草むらから転がるように逃げる。そんな俺と前方から迫る相坂を天秤にかけ、先ずは相坂から捕まえるようだ。

た、助かったァァ。


「今のうちに!」


草むらから辺りの様子を伺い、誰も居ないのを確認して素早く抜け出して遊具の影に隠れようにしゃがみこむ。


「ちょ! やめ! たす……助けて! いやぁぁぁぁあ!」


断末魔のような悲鳴と共に、相坂の声は聞こえなくなった。


「何されてるんだろうね?」


「あの様子だと相当やばいことだと思います」


「……いつからお前らそこに居た!?」


背後には瑛叶と月夜先輩がいつの間にか立っていた、ジュースを持って。


「とりあえず飲みな、動くよ」


「このまま逃げてた方が得策だと思うんですけど?」


月夜先輩からジュースを受け取りながら、すかさずその提案に否定を入れる。動かなければリスクは減る。


「……お前、負けっぱなでいいわけ?」


挑発するような声音の瑛叶の膝を蹴りつつ、とりあえず話だけ聞いてやることにした。


「つまりさ、最後は男五人で逃げ切って「俺らの方が強い」ってとこを見せつけてやろうぜってこと」


南雲君が二発ほど弾食らって気絶してる時点で、俺らが弱いと思いまーす。


「まぁ、後はこのまま逃げ続けてもジリ貧だからね。一人でも盾がいた方が勝率が上がる」


瑛叶の不足部分を補うように月夜先輩が続ける。

まぁ、盾は一人でも多い方が殺される確率は減るな。


まぁ、それに


「やられっぱなしは性にあわん」


「そんじゃ」


「やるか?」


ニヤリと二人が笑いながら、手を伸ばす。その手を掴んでゆっくりと立ちがり疲れきった自分の膝を軽く叩く。


「作戦は?」


「プランOだ。それしかない」


「えぇー、月夜先輩も夕陽も正気か?」


「それしかねぇだろ? じゃあお前ほかの案出せ」


渋々と言った感じで瑛叶が頷く。

プランOのOは囮のOだ、つまり誰かを生贄に捧げるという作戦。


「今回の囮は……」


月夜先輩の発言にかぶせるように、俺たち二人の声も重なる。


「月夜先輩で」

「瑛叶で」

「夕陽君で」


睨み合いが始まる。


「「「………」」」


そして、武力行使に出る!


「お前サッカー部だろうが! お前がやれ!」

「サッカー部関係ねぇだろ!? こういうのは運動神経が劣ってる月夜先輩が丁度いいって!」

「いやいや! 僕が死ぬと全員死ぬよ? ここは痛みに耐えれる夕陽君の出番だって!」


お互いの頬を引っ張りながら、足を蹴り合いながら醜い押し付けあいが続く。

てか、俺やりたくない!


「あぁもう! じゃあ飛び出ていってゴリ押しだ!」


「「それ全滅の確率上がる」」


隙を見て二人のどちらかに囮押し付けて逃げよう。

多分、みんな同じ考えだろうなぁ。


「んじゃ」


「行くか」


「そうだね」


静かに俺達は遊具の影を後にする。



※※※※※※※※※※※




照りつける日差しの中、熟練の戦士のような歩き姿で準備を終わらせた俺達は公園を歩く。

前方にはこちらを睨む数人のゴリラ。


──負ける気がしねぇ!


「行くぞ」


月夜先輩の言葉の後に、俺は静かに瑛叶の靴紐を解いて両足の靴紐を結んだ。これで、動けない。


「おい夕陽ぃぃ!?」


「月夜先輩、今!」


「君は最低のクズだね! だけど良くやった!」


靴紐と格闘する瑛叶を放っておいて、俺と月夜先輩は二手に分かれる。


「ちょぉぉぉ! まって! 何でもするから待ってぇぇぇぇ!」


陸奥と夏華が瑛叶に迫る。

月夜先輩の方には悪魔紅音さんが行っている。


「夕陽、大人しく両手をあげて投降しなさい」

「せーんぱい? 往生際が悪いですよー?」


俺の方には勿論冬華と雨乃。


「悪いなぁ、男ってのは往生際が悪い生き物なんだよッッッ!」


二人に突っ込むように全力で走る。


「特攻なんて効くわけないじゃない」


「おわりでーす! ゲームオーバーですよ先輩」


「それはどうかな? これでも喰らえッ!」


割れないように気を使っいた水風船二つを全力で投げつけた。


「ヒャっ!」

「うわぁ!」


呆気に取られて二人が阿呆な声を上げるその隙に、俺は二人の間を突破した。


「ひ、卑怯者!」

「せんぱい、さいてー!」


後ろから負け犬の遠吠えが聞こえるが気にしない、だって紅音さん飛び道具使ってんじゃん?


「夕陽! 早く助けて!」

「かっけぇ! クソ卑怯だけどカッコイイ夕陽さん!」


フハハハハ! 勝てばよかろうなのだぁぁぁぁ!


あと少し、あと少しで俺達の勝利!


「南雲、手を出せ!」


泥棒を解放する条件は、牢屋の人間にタッチすること。

これで勝った!


「はい、タッチ」


──タッチされたのは俺だった。


「へ?」


ギギギっと擬音が響きそうなほどゆっくりと首を傾けると、俺の肩に手を置いた夢唯と目が合う。


「南雲に届いてないから、夕陽も負けだね」


「「「「なにやってんだぁぁぁぁぁぁ!」」」」


野郎共の声が響く!

完全に夢唯の存在を忘れてた。


月夜先輩の方を見ればボールが顔面にのめり込んだ瞬間、瑛叶の方に見れば陸奥によく分からない技をかけられていた。

つまり、ゲームオーバー。全員アウト!


「せーんぱい♡」

「ゆーひ♡」


怖い、後ろが怖い。

振り返りたくない、嫌だ怖い。


「「最後に殺すと言ったな、あれは嘘だ」」


あまりの呆気なさに膝から崩れ落ちた俺の両肩にそれぞれポンっと手を置きながら、ドスの効いた低い声を耳元で囁く。


「やってやる! やってやるぞちくしょうぉぉぉおぉお!」


愚かな男の叫び声が絶叫に変わり、すぐさま悲鳴に変わったのはそれから数分後のことだ。


今回のケイドロも野郎共の圧倒的敗北で幕を閉じる。


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