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Evening Rain  作者: てぇると
日常編
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五話 Daily Lifeー2

「先輩ー、コーヒーください」


化学準備室の扉をバンっと開けるなり、そう言うと月夜先輩が呆れたように笑った。


「……君はここの事をドリンクバー扱いしてるよね」


「残念、化学準備室と書いてコーヒーサーバーと読みます」


「ある意味、そっちの方が酷いねぇ。ブラック?」


「えぇ」


笑いながら珈琲を準備してくれる。テーブルの上にはファイヤーキングの燃えるように赤いカップ。あぁ、紅音先輩が来てたのか。


「なんだいその、鉢合わせなくて良かったって顔は」


「いやぁー、俺嫌われてるんで」


「紅音は嫌いな人間に自分から話しかけるほど優しくは無いよ? てか、君は嫌われてないって分かって言ってるでしょ?」


「うん、言ってる。あー、ありがとうございます」


目の前に差し出されたブラックコーヒーを啜る。あー、美味いな食後はコレだ。

学校内で淹れたてのコーヒーが飲めるのは大変いいことだ。


「クッキーもあるからね」


カタッと目の前にクッキーの入った皿が置かれる、星やらハートやらを型どった月夜先輩のお手製クッキーである。先輩が苦手な雨乃もたまにコレを食べるために顔を出すほど美味い。


「あざっす。そういや龍太の方は収穫無しだって言ってましたよ」


「あーりゃま。こっちもヒットは無しだね」


「まじすか。じゃあ、今の所は俺と雨乃、それと紅音さんだけですよね?」


俺が知っている病気持ちはその三人……いや、あと一人いるからソイツを入れて計四人だ。


「いや、あと一人。紅音の病気が感染した少年だ」


「ソイツと連絡は取れるんですか?」


「とーれないね、行方不明らしい」


「マジっすか。先輩の情報網にも引っ掛かって無いんですか?」


「無いねぇ。偶にさ、本当に病気持ちが存在しているから分からなくなる」


「あー、分かります。俺もたまに自分が本当に病気を持っているのかどうか分からなくなって徐にフォークで自分の太股とか刺して雨乃にガチギレされます」


ほんとに時々、自分の太股やら腕やら手の甲やらをフォークでブスっとする時がある。その時は痛みは感じないためいいが、後日めちゃくちゃ痛い。そして、雨乃はすごく怒る。マジで怒るから本当に怖い。


「何してるんだい君は。だいたい、そうゆう時は多方リストカットするんじゃないかい?」


コーヒーを啜りながらため息をついて馬鹿を見る目で俺を見てくる。いや……馬鹿なことですけどもね。


「嫌ですよリストカットとか、血がドバーって出るらしいし」


ほんとに怖い、リストカットは絶対やらない。やったらやったで多分、雨乃にぶっ殺されるんではないかと思う。


「雨乃ちゃんには何か試しているのかい?」


俺が雨乃の病気があるか調べる時に使う常套手段はひとつだけある。


「えぇ、イタズラ程度に話してる時とかにエロい画像やらを頭の中に思い浮かべると殴られますね。本気で」


「……セクハラだと思うんだけど」


「まぁ、それは置いといて」


「置いていいのかい?」


まぁ、そこは深く触れない方が幸せだろう。てゆうか、もしセクハラだとしても大概の大人は信じないだろうし。完全犯罪だ。

それに本気で嫌がっているなら、それなりのサインが出るはずである。

それからも、くだらない会話を繰り広げ続ける、ふと時計を見ればもう時期五限目の予鈴がなる時間である。


「珈琲、ご馳走様でした。五限目はサボるんで」


「ハハッ、堂々としたものだね」


「まぁ、いつも通りですね」


「それじゃあまた明日」


「はい、また明日」


そう言って化学準備室を後にした。

チャイムがなる前に保健室に行かなければ、誰かしら教師に見つかってしまう、見つかってしまっては保健室でサボれない。口の中にコーヒーの香りを残しながら少し歩くペースを早めて保健室に到着した。


「先生、サボりに来ましたー」


保健室の先生とは1年の頃からの顔見知りなので堂々と宣言して中に入る。だが、帰ってきた声は全く違うものだった。


「今日はいないよ」


「おう、相も変わらず保健室登校か夢唯(めい)


保健室の端っこ、一つのベッドを占領するパーカー娘…空野 夢唯(そらの めい)に挨拶しながら、隣の誰もいないベッドに腰掛ける。


「ボクは別に友達は数人でいいからね」


言いながら、開けたばかりであろうポッキーをポリポリと食べる。空野 夢唯は俺や雨乃は幼馴染である。


「友達作るためだけが学校じゃねぇだろうと大人っぽいこと言ってみる。あと、ボクっ娘キャラはやめた方がいいぞ、痛い」


「痛くて結構だ、ボクが痛いのはもうどうしようもないしね。それに、今更他人にどう思われようが関係ないよ、本当の友達はボクを受け入れてくれてるからね」


「そんなんだから俺等以外に友達できねーんだよ。あとアレか? 友達ってのは俺もか」


「雨乃、夕陽、瑛叶、陸奥と南雲。これだけ居ればもう要らないかなぁ。ポッキー食べる?」


「食べる。何、お前南雲と友達だったの?」


「彼もなんやかんや言いつつ保健室に来るからね」


「ほーん、まぁそりゃそうか。そんで? 病気の調子は?」


早いうちに本題に入る、ここに来た理由は他でもない、サボるのもそうだが夢唯の病気について聞きに来たのだ。


「それより、月夜先輩って人にボクのこと喋ってないだろうね」


「喋ってねぇーよ」


コイツ…夢唯は俺達と同じ病気持ちで、そして何故か月夜先輩に自分の事がバレるのを異常に気にしている。

というか、雨乃しかり夢唯しかり俺の周りの女共は月夜先輩の事が苦手すぎるでしょ、雨乃とか常に警戒してるし。


「ならよし。病気はまぁ、ボチボチですよ」


「ボチボチですか」


「ボチボチですよ。あっ、モ〇ハンやる?」


「最新作?」


「うん、一昨日買いに行った。夕陽の分も」


通学バックから取り出したのは怪物を倒したり捕獲したりするゲームの最新作である。学校にそんなもの持ってくんなや……と言いたくなるが、やらせてもらってるので文句は言わない。それにしても、どいつもこいつも自由すぎやしないかしら?


「すまんねぇ」


「いいよ、お金もらってるし」


「んじゃ、やりますか」


授業をサボって保健室でお菓子を食べながらゲームをする、うん贅沢だ。

カチャカチャとボスモンスターを斬っている途中、夢唯が突然声を上げる。


「二秒後、ビームみたいなのくる」


「あいよ」


「四秒後、三のマップに飛ぶよ」


「はいはい」


全ては夢唯の言った通りに行われる、これは偶然じゃない。夢唯の言う通りボスモンスターが三のマップに移動した。


「十秒後、夕陽に突進攻撃してくるから罠張っといて」


「あーいよ」


そして、言われた通り罠を張っていると、ボスモンスターが突っ込んできて罠に掛かり捕獲をしてクエスト終了。

軽快な音楽と共に、ゲームの画面を閉じる。


「やっぱり何の狂いもなく言った通りだな」


「まぁね」


彼女…空野 夢唯の病気は大まかに言えば『未来観測』である。

夢唯の症状は、三十秒先の未来までなら自由に見ることが出来るのだが、例によってデメリットが無い訳では無い。

一日に未来を数回見ると鼻血が出たり途方もない虚脱感や疲労感が襲ってくるらしい。


まぁ、俺のアホみたいな『病気』に比べりゃ、全然使い道はあるんだが本人は頑なに「クソ」だと言い張っている。


「まぁ、ゲームぐらいでしか使い道のないクソみたいなものだがね」


「そうか? 俺や雨乃のと違って十分と言っていいほど使い道あるじゃんそれ」


「雨乃や夕陽みたいに、コレが発症してから、一年間に起こることが全て頭の中に流れ込んできた。雨乃が病気を発症して自殺未遂をすることも、夕陽がそれを止めて死にかけることも」


お菓子をポリポリと齧りながら、つまらなそうにそう言った。


「ほんと、発症してからクソだった。なにしてもデジャブなんだよ? つまらないにも程がある」


「今は?」


「楽しいさ、未来は不確定だからね。この病気を使うのはゲームぐらいが丁度いい」


雨乃のように人の心が読めない俺には確かな事は分からないが、夢唯は嘘一つない笑顔で笑っていた。


「そーかよ」


「君もそうだろう夕陽?」


「ん? あぁ、痛みなんざその時に喰らってしまうのが一番いいよ、なんかズレてる気がするし」


「まぁ、そうだろうね」


夢唯が差し出すポッキーを齧りながら、物思いに耽る。

病気を発症した頃は楽しかった、何たって痛みを感じないのだから。無茶もしまくった、子供の頃はそんなものだろう。

だが、今はその事実にゾッとする、痛みを全く感じないというのは恐ろしいことだと脳が告げている。だから、痛みを遅らせるのはどうしようもない時だけだ。


そんな事を思っていると、五限目の終わりを告げるチャイムがうるさいぐらい鳴り響いた。


「さぁ、戻ったらどうだい?」


「ん、そうするよ。じゃあな」


「あぁ、また明日」


夢唯に別れを告げ、教室に戻った。

五限目の担当の教師に小言を言われたが適当に相槌を打ちスルーした。雨乃の小言も同様に。


6限目は自習だったので瑛叶とスマホゲームをしながら駄弁って時間を潰した。実に平和だった、このまま夜も平和のはず……そう思い込んでいた俺は手の施しようのないアホだった。


それは帰りのHRが終わり、何故かそそくさと出ていった雨乃の行き先を友人達に聞いていた時にかかってきた一本の電話から。

シューベルトの魔王がスマホから鳴り響く、スマホの画面に目を落とせば表示されていた人名は「月夜先輩」だった。

俺の脳内でけたましく危険信号が声を上げた、深く深く溜息を吐いて一言だけ。


「あー、めんどくさい」





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