四十七話 Summer
シュゴォォォォと独特の起動音を響かせるクーラー。
窓の向こう側でけたましく鳴き続ける蝉。
眠気を誘う冷気が身体に当たれば、気の抜けた欠伸が出た。
外を見れば燃えるように照りつける、灼熱の火の玉。
今年も、夏がやってきた。
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ベッドの上に寝転がりながら、最近のことを考える。
あの日、見せたツンデレさんのデレッデレな様子を思い出すだけで、チョロインな俺の頬はついつい綻ぶ。
だが、最近そのツンデレさんは「おら、今までのデレの代償じゃ」と言わんばかりのツンツンっぷりを発揮している。
何かもう、やばい(語彙力)
今までのツンの100乗ぐらいはありそうだ。
ブロッコリー責めや睨みつけは当たり前、ボケると飛んでくるツッコミが心を抉る的確な暴言。
まぁ、そんな所も好きなのですが。
まぁ、思い当たる節は幾つかあるっちゃある。
……てか、思いあたる節しかない。
まず一つ、調子に乗りすぎて雨乃に構いすぎた。
そして二つ、体育祭終わってからの、俺の交友関係。
なんか、女子とかにすっごい話しかけられる、俺の近くにいる雨乃さんも結構話しかけられる。
今まで張っていたATフィールドなんて藁の楯のように吹き飛ばされて、雨乃に話しかける女子もたくさん出てきた。
それに釣られて「お? 星川喋ってんじゃん?」ってな感じで雨乃狙いの男子共まで群がる始末だ。
この時期は害虫が湧いていけないなぁ。
蛆虫共は早急に潰す、飛んでる小バエは殺虫剤で殺す。絶対殺す。
そんなこんなで、繊細(笑)な雨乃さんは大変ご立腹だ。
最後に三つめ、冬華だ。
あの日に俺が冬華を振ってから、多少のすれ違いなんかは覚悟していた。このまま関係が崩れてしまうことも、心底嫌だったが、想像はしていた。
だが、冬華はメンタルが強い子だったらしい。
すんごいアプローチを仕掛けてくるようになった。
「今までのはジャブだぜ?」と言わんばかりの小悪魔っぷりを発揮している、正直いって可愛い。
校内で俺を見つけると満面の笑みで駆け寄ってくるし(可愛い)
意地の悪いことを言って俺の反応を楽しんだりする(可愛い)
瑛叶達の前で「私は先輩が好きです」なんて言ったりして、周りを煽ったりする(可愛い)
ここまでの調査結果をまとめた俺は、深く溜息を吐きながら口を開いた。
「てな訳なんだが、どうよ?」
「夕陽は六限サボってボクにリア充自慢をしに来たのか?」
前方でモンスターをぶっ殺しながら、夢唯が怨嗟の声を漏らす。
「困ってるって言ってんのよ? お前日本語分かってる?」
「夕陽よりは確実に。だって夕陽って別の星の人間でしょ?」
「宇宙人みたいな両親から生まれたことは否定せんが、俺は地球生まれ地球育ちの人間だ」
「またまた、ご冗談を。君よ姉兄達も宇宙人じゃないか、良いんだよ夕陽、ボクは星が違ったって差別なんかしない」
「俺は人間だ! 俺の家族については……まぁ、きっとそうなんだろう」
きっと俺は川から拾われてきたんだろうなぁ。
もしくはダンボールに入ってた所を拾われたとか。
「それで、ぶっちゃけ鼻の下を伸ばしながら「困ったなぁ」とか言われたって適当な返事しか出来ないよ? もしくはぶっ殺すよ?」
「うわぁ、なんて素敵な二択でしょう。冗談抜きで、鼻の下を伸ばしてる?」
「めっちゃ伸ばしてる」
「まぁ、嬉しい事があったしなぁ」
あの日の雨乃可愛かったなぁ。
「おいやめろ、ボクの近くでそんな幸せそうなオーラを出すな、霧散する」
「お前の方が宇宙人じゃねぇかよ」
「ウルトラの星から来たんだよ」
「お前、この街で変身すんなよ!? 」
怪獣もウルトラマンも街を壊してるって点では対して変わらないと思うんだよねぇ。ぶっちゃけ、着陸と同時に民家を踏み潰すとか、暴挙だろ? 逃げ遅れてたらペチャンコだ。
……いつから俺は幼児向けの番組にツッコミを入れるほど心が汚くなったんだろう。
そんなふうに勝手に自問自答しつつ、自販機で買ったヨーグルト風味の水を飲み込んだ。
「まぁ、雨乃さんのツンツンっぷりが酷いのはガチだ」
「それは知ってるよ、瑛叶が大爆笑しながらLINEで教えてきた」
「分かってんなら止めろっての、瑛叶のバカ」
「瑛叶曰く、「モテ始めた時点で敵」だそうだ」
「モテてねえっての」
学校でのイベント前とイベント後には良くも悪くも、学校全体にそういう雰囲気が流れるのだ。
活躍をすればチヤホヤされ、何かやらかせば貶められる。
そういう雰囲気が漂えばあら不思議、カップルが沢山量産される。ありがたみもクソもない、他人に恋をしてるんじゃなくて、恋をしている自分に恋をしている人間が殆どだろう。
「イベント後とか前とかは、そんな感じになるからね。まぁ、夕陽も暫くしたら落ち着くだろう」
どうやら、夢唯も似たようなことを考えていたらしい。
実際に極々見直にそんな人達(女子)の被害者こと瑛叶君がいるのが俺にそんな事を思わせる要因でもある。
夢唯も似た感じだろう……いや、違うな。こいつは捻くれてるだけだ。
「むっ、失礼な気配!」
「お前の症状って実は未来予知じゃなくて雨乃と同じなんじゃねぇの?」
「ボクのは未来予知じゃなくて未来観測だ」
「似たようなもんだろ?」
夢唯のじゃがりこを摘みながらそう言うと、露骨に睨みつけられる。
「まぁ、実際困るよなぁ」
「それは分かるよ」
本当に困る。
あぁ、困る、まじ困る。
「雨乃の態度」
「雨乃に群がる害虫共」
二人の声が重なった。
「へ? そこ?」
「そこ以外に何がある?」
ギリッと歯の奥が軋んだ。
「あの野郎共ぉ、いつもはチキって話しかけないくせしてATフィールドが解けた時にここぞとばかりに攻め込みやがって」
お陰で雨乃に話しかけることが困難だ。
飛んでくるのは雨乃の「SOS」とも「殺害予告」とも言えない視線だけ。
「いやぁ、てっきりボクは雨乃のツンツンぶりが夕陽の心にキてるのかと」
「は? 何いってんの?」
「何がって何が?」
「ツンツンした雨乃はそれはそれで可愛いだろうがッッ!」
「わーお、何だこいつ」
ツンツンした雨乃って何か可愛い。
それは置いといてだ、このままこの状況が続けば雨乃が何処の馬の骨とも分からん男子と付き合ってしまうかもしれん。
それは嫌だ、俺にNTR願望はない。
「もうアレだよ、竹輪くわえながら全裸でレイザーラモンHGでもすれば?」
「竹輪を咥える意味が分からんし、全裸でやったら間違いなく捕まる」
「もうイイじゃん捕まれば、このストーカー」
「誰がストーカーだ!? 一緒に暮らしてるだけだろうがッ!?」
「もういいよストーカーで、どうせ雨乃の服の匂いとか嗅いでるんだろう?」
「はっはーん、お前さては俺がド変態だと思ってやがるな?」
「違うのかい?」
「断固として違うねッッ! 俺が変態だとするのならば、世の男子は皆一様にド変態だ」
「めんどくせぇなこの幼馴染は」
舌打ち混じりに睨まれつつ、少しだけ反省する。
「まぁ、時間が解決してくれるさ。大体、夕陽のような馬鹿野郎に群がる時点でその女子共は知能が低い」
「お前、めちゃくちゃ言ってんな」
「まぁ、害虫共は無視してだ」
「虫だけに?」
「黙って聞けストーカー」
「ストーカーじゃねえって言ってんだろうが!」
一緒に住んでるだけでストーカーとか呼ばれたらたまったもんじゃない。まぁ、でも好きな人と一緒に住んでるってアウトっちゃアウトなのか? 下心100パーセントではある訳だし。
「問題は冬華だよね」
「冬華……?」
「ぶっちゃけ、夕陽ってば冬華のことどう思う?」
「雨乃が居なきゃ落ちてた」
「だろうね。さすが下半身で思考している男だね」
失礼な、男の大半が股間で思考してるんだぞ?
「冬華は君に群がる知能が低い害虫共と違い、容姿も性格も優れている。そして、夕陽には彼女を振って泣かしたという負い目もある」
「うっ……」
「しかも夕陽は後輩にゲロ甘だ、鼻の下を伸ばしまくってる」
「その点においては自覚はある」
冬華にアプローチされて鼻の下が伸びない男なんて居ないだろ? あの子、素晴らしく可愛いし。
「そんな鼻の下を伸ばしきった夕陽をイライラMAXな雨乃が見たらどう思う?」
「……」
「正解はイライラが増えまくるって事だ。……雨乃が夕陽のことをどうも思ってるかは置いといてね」
なんでイライラするのだろうか?
もしかして、もしかして雨乃は俺の事が好きなのだろうか。
いやー、モテ期来ちゃってるなぁ。
「まぁ、雨乃は「なんで私がこんなに面倒臭い思いをしてるのに、あの糞は後輩に言い寄られてニコニコしてんだ」って感じだろうけども」
「でしょうねぇ、そういう感じだよ」
少なくとも雨乃が俺を見る目には好意は無かった、あったのは殺意だった。いやー、愛されてんなぁ(棒)
「それを踏まえて、夕陽は立ち回り方を考えた方がいいと。お節介は承知で幼馴染が言ってみる」
「さんきゅー、大分理解出来た」
「役に立てたなら良かったよ」
そう言って夢唯はニコッと笑った。
「とりあえず俺のやるべき事は」
「やるべき事は?」
「害虫退治だな」
「なんっっっっにも理解してないね」
害虫さえ駆除すれば、雨乃のイライラは解消されるのだろう?
「まぁ、イライラの原因は雨乃に群がる男子だけじゃないけどね」
「他に何が?」
「女社会は潰し合いだよ。雨乃みたいに目立つ子は特に標的にされやすい。暁姉妹もそうだったそうじゃないか」
「いやぁ、醜いね」
「人間なんてそんなものだろう?」
「お前が言うと中二くせぇな」
「死ね」
飛んできた枕を掴みとり、夢唯に投げ返す。こんな所で枕投げをおっぱじめる気は無い。
壁に掛かった年季の入った時計に目をやれば、あと数分で六限が終了する時刻まで来ていた、誰かと話してると短く感じる。
「そろそろ行くわ。相談乗ってもらって悪かったな」
「半分が自慢とか惚気とかの類の気がしないでもないけど。まぁ、どういたしまして」
水の入ったペットボトルを取って、脱いでいた中履きを履いて立ち上がり背伸びをする。よし、戻るか。
「じゃーな」
保健室の横開きのドアに手をかけながらそう言うと、夢唯も「じゃーね」と返した。
ドアを開いた先の廊下は息が詰まりそうな程の熱気だ、歩くだけで汗が出そうだ。
そんなことを思いながら、ドアを閉める寸前に中の夢唯に声をかける。
「南雲と仲良くなー?」
「へっ!? い、いや別に南雲とはにゃにも無い!」
舌噛んでるけどデキてんのか、デキてねぇのか。
まぁ、今度飯くいに行く時にでも南雲を尋問するかぁ。
そんなどうでもいいことを思いながら、暑苦しい廊下を歩いて教室を目指し重苦しい足を動かした。




