表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Evening Rain  作者: てぇると
デート編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/105

【番外編】セブンス・オブ・ワンダー

7月7日は所謂、七夕というやつである。


仕事をしすぎている織姫を心配した父親(神様)が彦星を斡旋した結果、働き者だった織姫が「彦星マジラブ」状態になってしまい、仕事すらしなくなった為、引き剥がされて年に一回しか会えなくなった……超要約すれば、たしかこんな話だった気がする。


「ねえ、夕陽。なんて書く?」


「決まってねぇっての……働かずに金が入りますようにとか?」


「しばき倒すわよ?」


「なんで一々暴力的なんだよお前!?」


現在地は学校の図書館である。

雨乃に付き合って図書館まで行ったところ、司書の先生に「2人も是非書いてって」と押し付けられたので、短冊を書いている訳である。


「雨乃さんはなんて書くわけ?」


「夕陽の暴走癖が治りますように。夕陽が無茶をしなくなりますように。夕陽が怪我しませんように」


「なんだお前、俺のことしかないのか!?」


とりあえず最後のだけでお願いします。


「ていうか、夕陽」


項垂れる俺の眉間にペンを向けながら、雨乃が不満たらたらな声を漏らす。


「なんすか……なんなんすか」


「いい加減に暴走癖をやめて」


フタが付いたペンの先で眉間をプニプニしながら雨乃が鋭い声を上げた。


「お前それは鳥に飛ぶなって言ってるようなもんだぞ」


「いやいや、それはおかしい。まるで暴走が含まれてるみたいな言い方じゃない」


「当たり前だろうが、暴走しない俺なんて味噌のない味噌汁みたいなもんだぞ」


「いや、それただのお湯」


軽口を叩きあいながら、手元を動かす。

うっし、でーきた。


「雨乃さん、できやした?」


「できやした。夕陽はなんて書いたの」


「ッ!」


俺の短冊を取ろうとした雨乃の手を既の所で阻止に成功する。危ねぇ、なんてことするんだこの女。


「何よ……見せれないような事でも書いたわけ?」


訝しげな視線をヒシヒシと感じるが、別に気にしない。

なんたって、今に始まったことじゃないから!


「えぇ、書いたよ? 書きましたよ? きっと見ればお前の脳内が桃色に染まるであろう事柄を書いたよ」


「アンタ学校の図書館の短冊になんてもの飾ろうとしてんの!? セクハラとかそっち系で捕まるわよ!?」


「本望だ」


「変態だ!?」


雨乃があまりにも騒ぐので司書の先生の暑い眼差しがコチラに向いている。モテる男は辛いなー(棒)


「良いから飾りに行くぞ」


無理矢理に雨乃との会話を切りやめて短冊を掛けるべく、そこそこ大きい笹の木に近づく。


「ねぇ、夕陽」


「ん、どした?」


紐を穴に通しているいると、雨乃が俺の袖を引っ張る。どうでもいいけどあざといねキミ、うっかり恋に落ちるぞー。


「なんか司書の先生が「雨乃ちゃんの友達も来てたよー」って言ってたんだけど。友達って……数人しかいないんだけど」


「何の話だ? そして友達が欲しいのなら、人付き合いをしなさい」


「無理ね、人と話すのは嫌い」


「お前どうやって生きていく気だ……」


コミュニケーション能力が日に日に低下している気がする雨乃はさておき、俺のお願いを笹に吊るした。


「ほれ、雨乃」


「へ?」


「いや、へ? じゃなくて短冊を貸せ、高いとこに吊るした方がいいだろ」


少しだが、俺の方が背が高いからな。


「おみくじじゃないんだから」


「高い方が見てくれるかもしんねぇだろ」


「そうかもね。じゃあ、はい」


裏向きにした短冊を受け取りながら、俺の短冊と同じぐらいの高さに結ぶ。


「見ないでよ?」


「見ねぇっての」


背後で俺の服を指先で引っ張る雨乃に少しだけドキドキしながら短冊を吊るす。

だからね? あざといのよキミってば。萌え袖だったら死んでたまである。


「あ、これって」


雨乃が指さした方を覗き込むと、よく知った筆跡で馬鹿なことを書いてる引きこもり少女の短冊を発見した。


「『保健室から追い出されませんように』って、十中八九これは夢唯の短冊だな」


特に暗い過去もないんだから、いい加減に教室に上がってくるべきだと思いました。


「この短冊は瑛叶ね名前書いてるし、『俺を裏切らない優しくて可愛くてスタイルのいい彼女ができますように』って」


「いよいよ末期だな……雨乃、友達紹介してやれよ」


「私の友達は瑛叶の友達なんですがそれは?」


そうでしたね、君友達いないもんね。


「あー、これ夏華だ」


ローマ字で名前まで記入してるし、馬鹿だろ。


「『ゆー先輩がイイ感じに面白いトラブルに巻き込まれて四苦八苦しますように』……ゆー先輩って誰だろうなー」


「限りなく棒読みね。夏華らしいと言えば夏華らしいわね」


つうか、織姫と彦星に願うような内容じゃないですよね? 夏華には説教が必要だ。


「あー、冬華だ」


雨乃が指をさした短冊を見ると、俺にドストラクの内容が綴ってあった。


『先輩が振り向いてくれますように』


凄く、心が痛いです。


「……あ、これ紅音さんだ」


逃げ惑うように視線を逸らした先で見つけた短冊にはデカデカと『紅音』と殴り書きがしてあった。


「『月夜は私の』って……願いでも何でもねぇな、あの人」


でも、幸せならOKです!


「月夜先輩のもあるわね、『無病息災、交通安全』って……」


二人して同じタイミングで言葉を発した。


「「年寄りだ……」」


少なくとも青春真っ盛りな高校生の綴る短冊ではない。


「こうなったら南雲と陸奥のもありそうだなぁ」


もうなんか趣旨は違うが、ここまで知り合いの短冊が出てくると探してみたくなるものが人間の性だ。


「あ、南雲のあった。あの野郎……何が『夕陽と決着』だっての」


「喧嘩は……ダメよ?」


「分かったから抓るな、痛い痛い」


実名晒してんじゃねぇよ南雲!


「陸奥のもあったわよ、『出会いを』だって」


「瑛叶と大して変わらんな」


出会いに飢えすぎだろ。

瑛叶の女運はともかくとして、陸奥は猫被ってりゃ可愛いだろ。


「あの娘は理想が高いのよ」


「あー、なんか言ってたな」


「運動部でイケメンって」


瑛叶で良くね!?

運動部で黙ってればイケメンの瑛叶で良くね!?


「さぁ? 幼馴染みだから無理なんじゃない?」


それを言ってしまえば、僕はどうなるのでしょうか。

もやっとした気持ちを引っ提げて、短冊に力いっぱい願いを込めながら図書館を後にした。








※※※※※※※※※※※※※※







「晩御飯何がいい?」


「チキン南蛮」


「じゃあ買うものあんまり無いわね」


いつも通りの帰り道を歩きながら、晩飯の相談をする。

チキン南蛮食べたい、凄く食べたい。雨乃の作るチキン南蛮は死ぬほど美味いんだよなぁ。


「すっかりこの時間でも明るくなったわね」


「そうだなぁ。なんて言ってると、スグに冬だな」


「冬になってほしいけどね、私は」


冬になるまでには俺も決めたいけどなぁ……少しでも意識させたいが、このままじゃダメだな。

あぁ、考えると気が滅入る。距離感が近過ぎるとマジで困るなぁ。


「そうやって、いつかは高校卒業して就職すんだろうなぁ」


「そうかもね。将来のこと考えてる?」


「いーや、漠然とした不安が残ってる」


「そんなもんよ。まぁ、私は決めてるけどね」


ニヤリと笑って雨乃が俺を見つめる。


「なんだ、どうした?」


照れたように顔を逸らして、明後日の方向を見上げる。


「私はもう、決めてるわよ?」


「は?」


一瞬何のことか分からずに聞き返してしまう。


「止まったまんまじゃ、置いていくわよ?」


そう言って、点滅し始めた信号を渡ろうと雨乃が走り出した。それに釣られて、俺も走り出す。

夏の香りを含んだ風の音と、前を走る彼女に見とれつつ。

今日、吊るした願い事に思いを馳せる。


できるならば、叶えてほしい。

だけど、その願いはやっぱり、自分で叶えてみたい。


1年に1回どころか、毎日顔を見合わせても伝わらない気持ちがあるのだ。きっと、伝わった時には幸せだろう。


そんな浮ついたことを考えながら、俺達は帰り道を走り出した。











































※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『少しでも、気持ちが伝わりますように。夕陽』



『少しでも、気持ちが伝わりますように。雨乃』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうぞよろしくお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ