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Evening Rain  作者: てぇると
デート編

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四十四話 After Dark

バイクの低い駆動音を聞きながら、雨の止んだ静かな街を疾走する。


一度家に帰って濡れた上着だけを替えて家をそのまま飛び出した。家にいたのは姉達だけで、どうやら琴音さんと雨乃は買い物に行ったらしい。そして、今夜は女子会だそうだ。


月夜先輩から指定された場所は目と鼻の先にある、なんでも屋台ラーメンの人が修行した店がそこにあるそうで、雨の日で屋台が出ないために、その店に向かっている。


「っと……ここを右」


比較的に来たことのある町なので道はある程度覚えている、月夜先輩の支持の道理に進むと、店が見えてきた。


如何にも美味そうな雰囲気の店構えである、隠れ家的なやつだ。ちっさい駐車場の隅っこにバイクを止めて中に入ると、既に月夜先輩は到着していた。


「やぁ、こっちだよ」


それにしても、この人はいつもカーディガンだなぁ。体育祭の時は一人だけ長袖ジャージ着てたし。


「お待たせしました」


「いや、僕はこの店の近くにいたからね。そんなことよりお疲れ様」


「へ? 何がっすか」


店員さんが持ってきたお冷を飲みながら、月夜先輩の質問を聞き返す。何かしたっけか俺。


「冬華ちゃんからメール貰ってね。振ったんだろ?」


「こう、ズバッ! っと抉ってきますね。もうちっとオブラートに包むとかできねぇのかアンタ」


なぜ冬華が月夜先輩に報告メールを送ったのかは謎のままだが、大方月夜先輩がいらん助言でもしたんだろう。

メニュー表を広げながらそんなことを考える。


「今日は月夜先輩の奢りっすよね?」


「はいはい、積み重なった借りがあるからねぇ、好きなもの頼んでどーぞ。値段のことは気にしなくていい」


そうか。

ふむふむ、気にしなくていいのかァ。

社交辞令的な物だとは分かっているが、1年の頃からこの人に散々な目に合わされてるからなぁ。遠慮なしで食うか。


「すいませーん」


人が少ないために直ぐに注文を取りに来たので、お先に月夜先輩の注文をすすめる。


「えっと僕は特性ラーメンと餃子のセットで」


「俺は大盛り特性ラーメンと餃子とチャーハンのセットで。あぁ、あと瓶のコーラ」


「あ、じゃあ僕も瓶コーラください」


手っ取り早く注文を済ませ、先に届いた瓶コーラで乾杯をする。乾いた喉に暴力的なまでの人口甘味料の塊を流し込むと思わずフーっと息が漏れた。


「それにしてもまさか振るとはねぇ」


コーラをちびちび飲んでいる月夜先輩が苦笑混じりにそう呟いた。


「……俺が冬華と付き合うと?」


「いいや? はぐらかすんじゃないかと思ってさ。やっぱり君と僕は違うね」


「俺にハーレムを築く程の度量も度胸も器量もないですよ。雨乃一人振り向かせるのに手一杯なんですから」


「ははっ、そうだね。僕は君が人間関係を変えるのを恐れているんじゃないかと思っていたんだが、どうやら君は僕の想像以上に強いらしい」


「別に強くねぇっすよ」


言いながらコーラをあおった。


「俺は別に強くない。強かったらもうちっと上手にこなしますよ」


「ふふっ、君は面白いね」


「根っからのピエロなんで」


ちくしょう、やっぱし調子狂うなこの人相手だと。


「よくよく君も一途だねぇ。あそこまでの娘に告白されてグラつかないのは、もうなんか執念だね」


は? 何言ってんだこの人。

グラついてない? いやいや、超絶グラつきましたよ?


「グラつかないわけないでしょ? いやぁ、ぶっちゃけるとOKしてもいいかなぁっと思っちゃったし、今でも振ったこと後悔してますよ?」


「えぇー、なにそれ? 僕の感心返して」


「いやいや、考えてくださいよ。冬華ですよ? アイツってばめっちゃ可愛いじゃないですか。性格も顔も、あと後輩ってのもポイント高い」


「うわぁー、僕の感心を本当に返して!」


「いやぁ、そんな漫画のキャラじゃないんすから。不変的な恋なんてないし、恋なんてそもそもがそんなに綺麗な感情じゃないし。俺だって男だしあのレベルの娘にガチで告白されりゃ、そりゃグラつくでしょ?」


実際問題、冬華は可愛い。

見方によっちゃ、愛想とか皆無な雨乃さんよりも愛想がある冬華の方が可愛いっていう人も多いだろう。あと後輩って響きが素敵だよね!


「ほんとに君は正直だね」


「いやだって男ですからね? 冬華が超ブサイクだったら考えますけども、めちゃくちゃ可愛いじゃないですか冬華」


「君ってば最低だね」


「これがリアルな意見ですよ」


割とマジでそんなもんだろう。

いやぁ、ぶっちゃけると雨乃が幼馴染み+恩人じゃなかったら危なかったまである。


「まぁ、初恋は叶わないってことかなぁ」


「……冬華が言ってたんですか」


「うん、そう言ってたよ。まぁ、その理論で行けば君の恋も危ういね」


ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべて挑発してくる、うわぁこの人超ウザイ。


「残念ながら俺の初恋は雨乃じゃないんで」


「え、本当に?」


「マジっすよ。初恋の相手になるんすかね? 姉共の友達で塔ヶ崎 秋奈(とうがさき あきな)って人がいたんすよ、めっちゃ美人で静かで読書してる姿が板についててって……ラーメンきた」


「え!? そこで終わるの!? 気になるんだけど?」


「まぁ、またの機会に」


運ばれてきたラーメンの大きさに少しばかり戦慄しつつ、秋奈さんの事が頭をよぎった。元気してっかな、あの人。


そんなことを頭の片隅で考えつつ、文句たらたらな月夜先輩を尻目に二人して絶品と噂のラーメンを食べ始めた。






※※※※※※※※※※※※※※※※





「あー、食った食った」


腹を擦りながら外に出れば少しばかり肌寒かった。雨上がりのせいなのだろうか? 先程までの蒸し暑さが嘘のようだ。


「ゴチになりました」


「いーえ、気に入っていただけたようで嬉しいよ」


軽口を叩きながら、グイーっと身体を伸ばす。


「夕陽君」


振り向くと眼前に突如として物体が迫っていた。

地面に落下するギリギリのところで、慌ただしくそれを受け取ってみると、ブラックコーヒーだった。あぶねぇ、当たったらどうすんだ。


「少し、話そうか」


「いいっすよ」


こちらを見つめる月夜先輩の瞳には薄ら寒いものを感じる、気温なんかよりもっともっと冷たい何か。


「さーてと、何から話したものか」


ラーメン屋の近くには薄暗く、人が寄り付かなさそうな公園があった。遊具は寂れ、一本だけ大きな木が中心にたっているだけの侘しい公園、そこに男が二人。


俺はブラックコーヒー片手に公園の端まで移動して、落下防止の手すりに腰掛ける。


「んで、話って?」


対する月夜先輩は俺の真正面に距離を取って立っている、その表情はいつもとは違い、何処か徴発的な印象を受けた。

それにしても、なんだこの既存感は。


「まぁ、色々あるんだけどね。まず初めに聞いておきたいことがある」


「どーぞ」


ぶっきらぼうに答えながら、コーヒーに口をつける。えぐい苦味が喉の奥を抉るように通過していく。


「君、晃陽と接触してるね」


「よく分かりましたね」


「まぁ、彼女ならば君に接触するだろうとは思っていたからね。君に対してなんていってた?」


あの白黒洗脳女はなんと言っていただろうか? 思考の中にある記憶の紐を引っ張って適当に言葉を紡ぐ。


「月夜先輩は人殺しって言ってました」


「……そうかい」


月夜先輩の表情は動かない……というよりは動けないと言った方がいいのか? とにかく蛇に睨まれた蛙の如く、硬直している。


「君は、どう思う?」


「さぁ? 信憑性なんてあったもんじゃねぇとは思いますけどね、アイツの症状とも相まって、どうにも俺達を分散しようとしているとしか思えねぇっすよ」


だが、懸念はある。


「だけど、嘘にしてはあまりにも子供っぽすぎる」


それ故に、心のどこかでは晃陽のいった言葉に耳を傾ける自分もいるのは事実だ。


「まぁ、半信半疑って所っすよ」


「そうか……そうだね、君には伝えておこう」


自分に言い聞かせるようにブツブツと呟いたあと、コーヒーをぐいっと煽って月夜先輩は意を決したように口を開いた。


「結論から言うと、僕はある意味では人を殺している」


凛とした声と顔で、月夜先輩はそう宣言した。

手から缶コーヒーが滑り落ちそうになるのを既のところで阻止して、先ほどの言葉に耳を疑う。


いやでも『ある意味では』ってなんだ? 他にどんな意味がある?


「そして、僕は晃陽を殺し損ねている」


「……マジっすか?」


「あぁ、残念ながら大マジだ。ただ、誤解しないでほしいのが、人の命は奪っていないってことだ」


じゃあ、それは殺したと言えるのか?

それより何より、なぜ月夜先輩はこのタイミングでそんな馬鹿なことを俺に打ち明けた? もしかしたら、俺が月夜先輩の事を裏切る可能性だって出てくるぞ?


「さて、ここまで話すことがあると、どれから話していいか分からなくなるねぇ」


そう言って、いつもとは違った真剣な顔に切り替える。

心の奥底で、嫌な胸騒ぎがする。


「夕陽君、僕を助けてくれないか? あの日のように、僕を助けてくれ」


見たこともないような真剣な顔つきに思わず息を呑む。

一体、何が起こっている? 何がどこで繋がっている? 事の真相が全くもって読めない。


「助けるって具体的には?」


「あぁ、それは今から言うよ。だけど、その前にもう一つやっておかなきゃならない事がある」


月夜先輩はそう言って、ぺこりと俺に頭を下げる。


「僕は今から君の大切なものを暴く」


「は……?」


そこで、先程抱いた既存感の正体が分かった。

逆なのだ、あの日の屋上と立場が逆なのだ。追求する側から追求される側になったのだ。


「あぁ、そういう」


何を今から暴かれるのかが、うっすらとだが分かった気がした。

つい、納得が口から漏れる。


深く深く、どこまでも深く息を吸いこんで、それを吐き出すのと同じタイミングで言葉を放った。


「どうぞ、月夜先輩」


月夜先輩は静かに1度だけ頷くと、ゆっくりと口を開いた。

もう、俺に逃げることは許されない。


「僕が君に聞きたいこと、それは」





どこまでも暗い夜空に、彼の声が響く。


いつだっただろうか?


こうして、お互いの醜い部分を暴きあった事があったな。


あぁ、そうかなのか、結局の所はじまりはあの日から。








「君が所持している、二つ目の症状のことだ」



口の端が吊り上がるのが、自分でも分かった。

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