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Evening Rain  作者: てぇると
デート編

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41/105

四十一話 date


以外にも早くついてしまったので待ち合わせのカフェで珈琲片手に少しづつ読み進めていた小説を開いた。


小説の内容は最終場面に入っている。

自分の周りから次々と人が消えていく事に焦りと疑問を覚えた主人公が謎を解き明かし続けて、最後の最後でヒロインにとある事実を告げられる、そんな物語の最終場面。


ページをめくる手が止まらない、次に次にとページを捲り物語を読み進めていく。

だが、突如として俺のページをめくる手が止まる。小説の中に登場するキャラのとある台詞から目が離せずにいた。


『人間の行動は、皆一様にエゴで出来ている。優しさも憎しみも全てはエゴだ。だけど、そんなエゴの中にもきっと……』


何故かその台詞が頭に焼き付いて離れない。


「人間の行動は全てエゴ……か」


反復するように呟いて、残りのページも全て読み終えた。


読み終えた達成感と内容の濃さにフーッと口から息が漏れた、疲れた頭を癒すように甘いカフェオレを啜る。


作者の名前は下月 輝夜(しもつき かぐや)、つまりは母さんの旧姓だ。何でも若手俳優で映像化するらしく、いつもの如く雨乃と俺用に贈られてきたものだ。


カフェの窓から空を見上げれば、生憎の空模様。空は黒々とした様子で今にも一雨降り出しそうな予感がする。

もう一度、ふぅっと息を吐き出して親父に誕生日に貰った高そうな腕時計で時間を確認する。

現在時刻は9時58分、待ち合わせまであと二分を切った。


「雨大丈夫か?」


遅れるのは全然構わんが、雨に濡れるのは可哀想だから是非とも避けてやってくれ……と誰かに願った。


チラリと時計をまたもや確認してしまう、どうやら我ながら相当テンションが上がっているようだ。

まぁ、デートなど初なので無理はない。


くっそ……なんか照れる。昨日の夜から連なっての今日だから無理はないが、なんか照れる。


「先輩! 遅れてごめんなさい! バスの運行が遅れちゃって!」


などと考えていると、カフェのドアがバンっと開き、焦った顔と汗ばんだ冬華が店内に入ってくる。時計に目をやればジャスト十時、遅れてはいない。


「遅れてねぇから落ち着けって。あ、すいません」


とりあえずカフェの店主に頭を下げる。たまたまなのか俺達以外誰も店にいなかったのが幸いだ、店主の人は軽くコチラに向けて片手を振った「気にするな」とでも言わんばかりに。


「はぁ……はぁ」


テーブルに座るなりグデッと疲れたご様子の冬華にクスっとしつつ、手をつけていないお冷を差し出した。


「まぁ、落ち着けって」


「すいません、先輩。私から誘ったのに」


「気にすんなって」


ズズズッと音を立てカフェオレの最後の一口を飲み干した。


「うぅ……、なんでこんな日に限ってバス遅れちゃうかなぁ」


あるある、電車とかバスとかって遅れられない時に限って遅延したりするよね。アレほんとにやめて欲しい、遅れたら遅れただけ人増えて暑くなるからなぁ、特に夏。


「先輩、何時ぐらいに着きました?」


「十二時間前」


「嘘だ!?」


軽快なジョーク混じりに言葉を濁さないと照れるからキツイ。なんだこの後輩、超可愛い。


「……私の顔になんか付いてます!?」


慌てた様子で手鏡を取り出して顔を確認する冬華についつい笑みが零れる。手鏡常備とか女子力たけぇな。


本日の冬華の格好はカワイイ系というよりかはクール系である、正直ちょっと意外である。


「服、似合ってんな」


とりあえず服を褒めとけと姉共に昨日言われまくったのも相まってその言葉は素直に口から出た。


「へ? そうですか?」


「おう、似合ってる。ちょっと意外だったが」


なんか、意識してるのもあるのだろうが、体育祭辺りから可愛すぎないかしらこの娘? 俺じゃなかったら惚れてるまである。


「それにしても天気が……」


ちょっと沈んだ様子で冬華が言うのに合わせて空を見上げると、先程よりも雲がドンドン下に落ちきている気がする。


「さーて、そろそろ行くか?」


「どこ行きます?」


ふふふ、そう言うと思って最初の用意はしておきましたのよ。つうか、雨だから丁度いいだろう。


「映画行こう、生憎の空模様だしな」


「映画ですか?」


「いやか……?」


あっれぇー? 選択肢間違えたか? ギャルゲみたいに選択肢が出ないのは何故なのか、バグか?


「いや、私もそう提案しようと思ってて、一緒だなーって!」


そう言って混ざりっけなしの100パーセントの満面の笑みで冬華が笑う。やめて、俺の汚い心が浄化される!


「んじゃ、行くか」


「はい!」


カフェオレの金を払って店を出た、空模様は最悪だと言うのに人の流れは多い。雨特有の淀んだ空気と雨を感じる臭いが鼻腔をくすぐる、この臭いって確かアスファルトのカビって言ってた気がする、知らんけど。


「どこの映画館に行きます?」


ふーむ、ここからだと大型商業施設の中にある映画館の方が近いかな? 雨も振りそうだし、あそこなら映画見終わったあとも遊べるか。


「映画のあとどこに行きたい?」


俺がそう言うと、少し考える素振りを見せる。

だから何で一々仕草が可愛いんだこの後輩。


「……ゲーセン?」


「やっぱお前最高だわ」


だよね! ゲーセンいいよね! あの騒々しいのがたまらない!


「好きなとこ言っていいぞー」


「服とか見たいです!」


「んじゃ、ゲーセンも映画館も服屋もある大型ショッピングモールでいいか?」


「はい!」


どんよりと沈んだ暗い空の中で彼女の笑顔だけがやけに輝いていた。


「それでですね!」


「ははっ、マシで?」


笑いながらショッピングモールまでの道のりを歩く、冬華の話を一方的に聞いているだけだが、普通に楽しい。

なんでも、友達が増えてきているらしい。二人共、徐々にだが変わっているのだろう。目に見えてそれが感じ取れる。


「良かったな、お前ら」


心の底からそう思う。

彼女達が楽しそうに幸せそうに、当たり前の日常を当たり前のように楽しんでいるということが、俺は心の底から嬉しいのだ。


「?」


「分からんでいいよ」


口に出すとなんか恥ずかしいので、あえて言葉を濁してはぐらかした。

ふと、空を見上げればもう降ってんじゃねぇか? と思いたくなる程のどんより加減だ、今日ぐらいは晴らしてくれてもいいだろうに。


嵐のように街並みは慌ただしく移ろいで行く、皆そんなに急いで一体どこに向かうのだろうか? 割と本気で気になるところだ。


「先輩、先輩」


「なんだ後輩、後輩」


グイグイと服の袖を引っ張ってくる冬華に苦笑を浮かべつつ、指を指した方に顔を向けると看板が見えていた。俺こっちのショッピングモールに中々来ないからなぁ。


「何見ます?」


「何やってるかによるだろ?」


映画とか雨乃が適当に借りてきたやつを家のテレビでしか見ねぇからなぁ。映画館に来たのとか一年ぶりぐらいじゃないだろうか? ワイルドスピードとかは映画館で見に行くが、瑛叶と。


「バイオでハザードなやつとかやってますかね?」


「え、なに冬華ちゃん、グロ系大好き?」


「yes」


うわぁー、超意外。


「あ、雨」


その時だった、ポツポツと雨粒が空を見たげた俺の頬を濡らす。そして少しづつ雨脚を強めていく。もう着くのに今頃になって降り出すとか嫌がらせか?


「わぁ、どうしましょ先輩」


「案ずるな後輩よ、ちと狭いが我慢せい」


雨降るなぁと思いつつ、折りたたみ傘を持ってきた俺グッジョブ、超グッジョブ!


「先輩、用意がいいですねー」


「フハハハハ、舐めるな!」


「何でそんなテンション高いんですか、もう。それじゃ、失礼しますねー」


広げた傘の中に冬華が入ってくる、近い近い近い近い! アレなんで、こんな近いの!?


「わぁ、思ったより近いですね」


なんで平然としているんだこの子は。


「相合傘と言ったらアレですよね」


「どれ?」


「あの男の人の肩がはみ出て濡れるやつですよー、ああいうの青春っ! て感じですよね」


残念ながらこの傘、二人入っても意外と余裕あるんだわ。高い金出して買ってよかった。


「とうちゃーく!」


可愛い掛け声と共に冬華が屋内に避難する。俺も傘を閉じて袋にしまってからリュックに入れた。


正直、相当の混雑を覚悟していたが、そこまでの人はいない。どちらかと言うと少ない程である。


「良かったですね、人少なくて」


「だな、あんまし多いとキツイしな」


雨乃とか特に人混み苦手だからなぁ、実はアイツ人が嫌いなんじゃないかな?


「行きましょう、先輩!」


今度は裾ではなく手を掴み、冬華がドンドン先に歩き出した。

あのね? 急に握られるとビビるし、手汗とか出てないかなぁとか心配になるからやめようね?


「うわぁ、ほんとに人少ないな」


映画館の中に入っても人は数人しかいない、このショッピングモールっていつ来ても人が多かった気がするんだが。


「あー、たまーに凄い空いてる時があるんですよね」


流石地元民、分かってらっしゃる。


「んで、何見ようか」


「何見ましょうかー?」


ここは無難に恋愛ものか? あ、SAOの映画見たいなぁ。てか、この洋画って吹き替え版あったのか、うわぁこれも見たい。


「先輩、先輩」


「なんだい、後輩」


「私的にはこれかこれですね」


冬華が指したのは少女漫画の実写版の映画と、俺でも見るのを躊躇うようなガチホラーだった。


「……チョイスがおかしい」


「え、マジですか?」


「なんか、こう、なんだろうなぁ。上手く言葉に出来ねぇ」


なんか、こう、もっとあるだろ? なんだろうこの気持ち、俺の幻想がぶち殺された。


「どっち見ます?」


「ホラー」


ただ単純に実写よりホラーの方が面白そうだ、この前CMでやってて面白そうだったんだよなぁ。


「んじゃ、チケット買うか」


あれ、俺って何気にホラー映画見るの初めてじゃないか? 見れんのか? 怖くてビビったりしないよね?


「あれれー? もしかして先輩ホラー苦手?」


「ええい! やめろ鬱陶しい!」


ニヤニヤしながら人の頬をぷにぷにしてくる冬華の指を引き剥がしてチケットを買う列に並ぶ。俺達の前には一組しかいなかったので、スムーズにチケットを買う。


「えっと、どこ座る?」


「後ろがいいです」


「俺も後ろ派かなぁ。んじゃ、この列を二枚ください」


俺達のやり取りを聞いて少しニヤリとするチケット売り場のお姉さんに二人分の料金を渡してチケットをもらう。


「先輩、お金」


「いやいい、誘ったの俺だし」


後輩、しかも女子に金を貰うってのは何だか気が引ける。

ついでにポップコーンとジュースを購入して劇場に入った。ポップコーンとジュースは冬華が「割り勘!」と言って聞かないので、渋々そうした。


てか、大丈夫なのだろうか。

てか、人が居ないが大丈夫なのだろうか?

てか、冬華がトイレに行った間に瑛叶に映画の事を話したら「ザマァ」と来たが大丈夫なのだろうか?

俺は後輩女子の前で恥を晒すことになるのだろうか。


冬華が戻ってきた、直後に劇場内の電気が消えた。


「楽しみですね!」


満面の笑みでそう言う冬華とは対照的に俺は戦々恐々としながら、映画の始まりを待つのだった。


大丈夫だよね!?










※※※※※※※※※※※※※※※※※※








結論、ふざけんな。

ふざけんなマジで、なんだあれは、何なんだあれは。


「いやぁー、楽しかった楽しかった」


超絶怖い、意味わからんぐらい怖い。

満面の笑みで楽しそうに笑う冬華も怖いし、大音量で登場人物が叫ぶのもやめて欲しい、あとただ単純に怖い。


「先輩、超可愛かったですね」


割と本気で怖かった、死ぬかと思った。心臓がバクバクしてる。


「うるせぇ、やめろ。くそ、大人しく実写見ときゃよかった」


「ふふふ、こんどオススメのホラー映画一緒に見ます?」


「お前、俺を殺す気か」


次はどこに行きましょうか? と冬華が俺の手を引きながら言った。彼女はとても楽しそうで、とてもとても楽しそうで。その度に、何故か胸の奥がチクリとする。


何故か、頭の中を過ぎるのは母さんの小説の中にあった台詞だった。『人間の行動は皆一様にエゴで出来ている』さすれば、今の俺の行動もエゴに基づいたものだろうか?


「ねぇ、先輩! どこ行きます?」


「ん、時間的に昼飯でも食いに行こうか」


俺はニコニコと笑う冬華の隣に並んで歩幅を合わせて歩き出した。

今日は、楽しむとしよう。







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