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Evening Rain  作者: てぇると
体育祭編

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37/105

三十七話 二人で一つ

「準備はできた?」


「もち」


体育祭前半の部ラストの競技、二人三脚。

入場が終わり二人の足にロープをまく作業を雨乃がしている、雨乃の方が手先が器用なのだ。


「わ、ちょ! 冬華、痛い!」


「あ! ごめん夏華!」


暁姉妹も二人三脚に出るようで、足にロープを巻いている。どうでもいいけど女の子が足にロープをまくってなんかエロい。


「よし、できた」


「ん、良くやった。大儀である」


「なんで偉そうなのよアンタ」


だって偉いから。


「エロいの間違いじゃなくて?」


「男はみんなエロいんだよ」


適当言いながらゆっくりと立ち上がる。


「……」


「……」


思ったより距離が近いんだが……どうすんだこれ。


「……なによ」


「なんも言ってねぇっす」


「口調が崩れてるわよ」


「そっすね」


「あの女を思い出すからやめて」


晃陽ですか、そうですか……会いたくねぇな。


「せんぱーい! うおっぁ!」


「ちょ、冬華!? ぶっッッ!?」


鈍い音と共に暁姉妹が思いっきり転ぶ、何してんだあいつら。


「雨乃、歩くぞ」


「ん」


まぁ、二人三脚の直前練習だと思えばいいか。

肩を組まずに歩けるので、歩幅だけ雨乃に合わせながら暁姉妹の元まで歩いた。


「「痛い」」


「馬鹿かよ」


転んだまま起き上がらない暁姉妹に毒を吐きながら、立ち上がるように促す。てか、お前ら笑われてるぞ。


「双子なのに息ぴったりじゃないのね」


「そだな。家のとこの双子はありえんぐらい息ぴったりなのにな」


ゆっくりと暁姉妹が立ち上がるので、少し手助けしてやると今度は転ばすに立つことができた。


「大体先輩達の方がおかしいんですよ」


「そうそう、ゆー先輩とあー先輩は息ぴったりすぎです」


そんな事言われてもねぇ? もう慣れとしか言えないよね。


「私が夕陽に合わせるのが上手いからよ、今に始まった事じゃないし」


はっ、何言ってんだこいつは。


「いやいや、俺がお前の歩幅に合わせてやってんだよ」


静かな睨み合いが続く、言っとくが譲る気なんざ微塵もねぇぞ? 俺が合わせてんの!


「はっ! ちっさい時から無茶苦茶する夕陽を押さえ付けてたのは私よ?」


「お前ガキの頃引き出すのは卑怯じゃね? つか、そんな事言ったら俺の後ろを背後霊のようにキープしてたガキの頃のお前に合わせてやってたのは俺だよ? 思い出してみ?」


「呆れた、あの頃を引き合いに出す方が卑怯よ!」


「ガキの頃を最初に引き合いに出したのはお前だろうが!」


「ブロッコリー」


「やってみろ。この梅雨の時期なら探せばカエルぐらい捕まえられるぞ? お? お前の部屋に数匹送り込んでやろうか?」


「この男最低!」


「カエルが1匹……2匹……3匹……4匹」


「え? ちょ、本当にやるつもり?」


「5匹……6匹」


「いやいや? 冗談よね?」


最近家の近くの側溝にカエルが良くいるんだよなぁ。


「え? ほ、ほんとにやるの?」


「7匹……8匹……9匹」


「ご、ごめんなさい! やめて、カエルだけはやめて!」


でもなぁー、散々やめてって言ったブロッコリー攻撃バカみたいにやられたからなぁ。


「あ、謝るから! 謝りますから! ごめんなさい」


でもなぁ、謝ったのにブロッコリー攻撃された事あるしなぁ。楽しみだな、10匹も居れば雨乃の部屋を縦横無尽に駆け巡りそうだなぁ。あ、寝てる時にやろう! 寝ている雨乃の周りをピョコピョコ跳ね回るんだろうなぁ。


「ひぃ! 本当にごめんってば、ゆー君やめてよぉ!」


「どうでもいいけど口調が昔みたいになってんぞお前」


俺の服をぶんぶん揺すりながら涙目で懇願する雨乃に優越感を抱くと、ついつい頬が綻ぶ。


「「うわぁ、先輩最っ低!」」


後輩達からの視線が凄く痛いが気にしない、日頃の復讐だ。ここ最近の俺へのW胃攻撃に対する制裁だ。


などと、久しぶりに雨乃を虐めて優越感に浸っていたが放送部の整列の掛け声に邪魔される。


「ね、ねぇ夕陽」


「ん?」


「カ、カ、カエルやらないよね?」


「いや、俺最近カエルに触れなくたってんだわ」


雨乃が見つける度にビビるので、なんか俺も苦手意識を持ってしまった。


「へ?」


「だから、やらない。やりたくてもやれない」


二人三脚で列に並びながらネタバラシをしてやると、隣の雨乃さんがヤバイ。どうやばいかと言うと、命の危機を感じるレベルでやばい。


「……絶対殺す、後で覚えとけ」


おい、さっきの態度から比べるとえらい違いだぞ!?


「「先輩、自業自得ってしってます?」」


お前ら二人三脚は苦手なくせに、息ぴったりだな。


『二人三脚出場者の皆さんは、所定の位置まで移動してください』


その合図とともに、女子×女子組の暁姉妹に別れを告げて男子×女子組の列に俺達も移動を開始する。

ふぇぇん、リア充ばっかりだよぉ、なんか甘い空気が出てるよぉ。それに比べて俺達ときたら。


「殺す……精神的にも肉体的にも……殺す」


ヤンデレの一歩先を行ってるし、もうなんか邪神っぽいんだけど。邪神なら這い寄る混沌とかが良かったなぁ。横腹痛いなぁ。

ギギギっとハイライトがオフってる目で人の横腹をえげつない抓り方をする雨乃に溜息をつきながら、整列の合図で並び直す。


「はいはい、雨乃さん」


「なに殺す? どうしたの殺す?」


「語尾を殺すにするな、語呂が悪い」


なんだよ、なに殺す? どうしたの殺す? って物騒すぎだろお前。


「とりあえず勝つことを考えろ。俺を殺すのは……やっぱ許して?」


「嫌よ、絶対に。まぁ、勝つことは分かったわ」


雨乃は一呼吸置いて(無い)胸を張って宣言する。


「負ける気がしないもの」


分かったから、周りのカップル達から凄く睨まれてるからやめて。


そんな事言ってたらスタートしていたようだ、最初は一年生かららしい男子×男子組にバトンを渡された暁姉妹が走ってるのが見える。


「以外に速いなあの二人」


「そうね、速いわね」


そして可愛い、マジで可愛い、とんでもなく可愛い。

ちょっと本気で可愛くないですかね? 一生懸命肩組んで走ってる姿が可愛いです。


「可愛いしか言ってないわよ? 語彙力どっかに置いてきたのかしら?」


「でも実際問題可愛いない?」


「……ちょっと抱きしめたいぐらい可愛い」


だよね? そうだよね?

紅音さんとかブロック席の前にある赤ブロック応援団の所でキャーキャー言ってるよね? おい自重しよろ応援団長。


「はぁ……思ったよりキッつい」


「夏華、合わせてよぉ……危うく転びそうだった」


「冬華が速すぎるの! 私だって合わせようとした」


え、何この2人可愛すぎ。


「「なんでニヤニヤ顔でこっち見てるんですか先輩!?」」


「いや、可愛いなぁと思って」


「「小動物みたいで?」」


「yes」


「「チッ」」


舌打ちすんなよ。

その時、ちょっと横腹に痛みが走った。


「なんすか雨乃さん、焼きもちですか?」


「舌噛み切って死になさい夕陽。私達の出番よ」


「うわぁ、怖い」


言いながら立ち上がる。時間の都合上か知らんがもう直ぐ二年の番のようだ。


「「二人共頑張ってください!」」


「「おう」」


『おう』なんて、えらく男らしいですね雨乃さん。

そうしてる間にも男×男から女×女にバトンが渡る。


「しゃっ、勝ちに行こうか」


「合わせなさいよ?」


「お前が合わせろ」


言いながらコースに並ぶ、我がブロックは現在三位。

1位2位とキャッキャッウフフしながら走り去っていく、舐めんなよリア充共め、追い抜いてやる。


「うわぁ、醜い」


「るっせ!」


何故か一瞬迷った後に雨乃ではなく俺にバトンを渡すクラスの女子ペアに雨乃が聞こえないように舌打ちしたのをスタート合図に肩を組んで走り出す。


「ちょ、近くね?」


「知らないわよ! 集中しなさいこのバカ!」


「お前回した肩をつねるな!」


「ちょ、さっきから胸に指が当たってるんだけど! このセクハラ男」


「え、胸に当たってたの!? 本気で判断が難しな」


「え? 冗談よね? 流石に分かるわよね?」


馬鹿みたいな会話を繰り広げつつ、どんどんとスピードを上げながら走る。二人三脚って以外に楽しいな。


「気分がいいわね、誰かに勝つって」


「まだ勝ったわけじゃねぇから気を抜くな」


よし、現在二位だ。このペースなら一位取れるぞ。


「雨乃、スピード上げね?」


「え? ちょっ、まって夕陽!?」


少しだけ歩幅を広げて加速させる。


「転んだらどうするわけ!?」


「だいじょーぶ……な気がする」


言いながら一位のペアに並ぶ。

だが、油断は禁物である、フラグみたいなことを言うと一発で足元を救われるのが世の常である。


「やったか?」


「ねぇ、雨乃さん? なんでフラグめい……うぉ!?」


言いかけた直後、ぐらりとバランスが崩れる。

ちくしょう! フラグ回収してたまるか!


雨乃に回していた手に力を入れて俺の方に抱き寄せる形で肩を抱く。そして足に力を入れて踏ん張ってギリギリの所で転倒を回避する。


「ごめん夕陽」


「いや、お前が悪いんじゃねぇから安心しろ」


前を見れば一位はゴールしている、後ろを向けば三位四位は転けまくっている。


「1位は無理だが2位は硬いから、とっととゴールするぞー」


「うん、ごめん」


そのごめんはアレか? フラグをたてた事か?


「ばーか」


「バカはお前だ」


よし、1位は無理だったが2位でゴール!


「なんやかんやで楽しかったな、雨乃」


紐を解きながら俺が声をかけると、少しだけ悔しそうな顔をしながら雨乃が笑う。


「ええ、少し悔しかったけど楽しかったわ。ありがとね、夕陽」


「おう。昼飯食って午後のリレーだ! 勝つぞ?」


「勿論」


座る雨乃に手を差し伸べて立つのを手伝う。うん、やっぱり雨乃は可愛い。


「どうしたの? 人の顔見つめて」


「……カエルどうしようかと思って」


「やったら口聞かないから!」


「冗談だって」


退場門をくぐってスタンド席に戻る。


紅音さんや月夜先輩がこちらに手を振っている。

陸奥や夢唯は腹を抱えて俺達を指さして笑っている、後で覚えとけ中二病パーカーと化け猫女。

瑛叶や南雲なんかはこっちにゆっくりと笑いながら歩いてくる。

後ろでは何時ものように暁姉妹が騒いでいる。


「楽しいなぁ、雨乃」


「ん? えぇ、そうね!」


いつもより少しだけ熱気のあるこの日に、心底楽しいなぁと思いながらバカ騒ぎをしようと皆の元に雨乃の手を引いて混ざって行った。





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